14 曇らない心

文字数 798文字

鉄の格子で囲われた一室。カルロスは、小さなテーブルの前に腰を下ろし、頬杖をついて、俯いていた。

静かに扉が開き、ロドリーゴが入ってきた。
「カルロス」

「おお! 来てくれたか、ロドリーゴ!」



 

青白い顔に、喜びの色が浮かんだ。

「よく来てくれた。お前も、辛かったろう? 僕は知っている。お前は、僕が母上に、恋をしていることを、父上に告げたのだろう? 僕の秘密を手土産に、お前は、父上の宰相になったのだ。だがそれは、このイスパニアの国の為だ。この国には、ぜひとも、お前のような器の大きな人間が必要だ。僕では、ダメだ。不甲斐ない王子に代わって、お願いだ、ロドリーゴ。この国を頼む

「ああ、俺は、お前の心が澄み切っていることを忘れていたよ。俺がどんなに計略を巡らせても、お前の心を曇らせることなどできぬということを」

「だが、たったひとつ、ロドリーゴ。せめて王妃(ママ)を巻き込まないでいてくれたら! 


だが、お前の正義は、まっすぐだ。僕の妃殿下への心遣いなど、顧みるに足らないものだった


……愚かなことを言った。許してくれ、ロドリーゴ」

「何を言ってるのだ、カルロス。お前を(ここ)に閉じ込めたのは、まさしくお前の秘密を……王妃への恋心 を……、エーボリ公女 に口外させない為だ。お前がもう二度と、エーボリのような腹黒い女に、心の裡を明かすことのないようにだ」

「へ?」

二人の友の耳に、重々しい足音が聞こえた。王の重臣が、牢の前に立った。

「カルロス殿下。殿下は自由の身におなりあそばしました」

胸に手を当て、恭しく重臣は言った。

「殿下は、誤って監禁されたのです。たった今、国王陛下は、偽宰相 に騙されていたことをお気づきあそばされました」

じろりと、ロドリーゴを睨んだ。

すぐにカルロスに向き直り、猫なで声で続ける。

「すぐにも、陛下のお前へ」

「いや、僕は、今しばらく、ここにいる」

重臣は敬礼して、立ち去っていった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ドン・カルロス


イスパニア(スペイン)の王子

カルロスの子ども時代

ロドリーゴ・ボーサ侯爵


カルロスの親友



ロドリーゴの子ども時代

フェリーペ2世


イスパニアの国王。カルロスの父。暴君

エリザベト王妃

フランス王室出身。はじめ、カルロスの婚約者だったが、カルロスの父、フェリーペ2世と結婚し、カルロスの「母」となる

エーボリ公女


カルロスに恋していたが、カルロスが王妃を愛しているとわかり、敵になる

レルマ伯爵

カルロスの忠臣

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色