17 原作とは違う結末

文字数 2,136文字

【作者より】

あんまりな鬱展開なので、原作とは違う結末をご用意しました。
家臣を引き連れ、王は退出していった。

牢獄にカルロスは、ロドリーゴの屍と共に、取り残された。

「さあ、これで、二人っきりだ、ロドリーゴ。痛かっただろ? 苦しかっただろ? 僕なんかのために、自分を犠牲にして……お前は馬鹿だよ、ロドリーゴ」
「お前は死んでしまった。それなのに、お前の体は、まだ、こんなに温かく、柔らかい。ああ、ロドリーゴの匂いがする。……ロドリーゴ。こうしていると、子どもの頃、一緒にお昼寝した時のことを思い出すね……」
「お前と一緒だと嬉しくて、僕は、なかなか眠れなくて。それなのに、薄情なお前は、さっさと眠ってしまうんだ。それが悔しくて寂しくて。おいしい眠りをむさぼっているお前を、僕は、こうやってくすぐったものだ」
「……ん? なんか、動いた気が……。

馬鹿な。気のせいだ。僕の大事な男は、死んでしまったんだ。だが、今は、友の屍の傍らに横たわり、優しい思い出に浸っていたい。あの、楽しかった子どもの頃の……。

こちょこちょ。こちょこちょ(くすぐる)


「こちょこちょ。

 こちょこちょ」

こらっ、カルロス!
「うわっ、ロドリーゴ!
「くすぐるな、バカ。人がせっかく、安らかに死んでいるのに……」
「生きていたのか! ロドリーゴ! ロドリーゴ!
「生きていたとも。お前を置いて、死ねるか。

今だってお前は、そうやって、無気力に、自分の中に引き篭もってしまって……。能力のある、イスパニアの王子が!」

ロドリーゴ! ロドリーゴ!
「おいっ! 寝たまま抱きつくな。なんか、ヘンな気が……」
二人は起き上がった。

その拍子に、ロドリーゴの背中から、何かが滑り落ちた。

「うおーーーーーっ、なんだ、これは!」
「そんなに驚くな。これが、俺の命を救ってくれたんだエリザベト王妃の銅版画の、版だ」
ママの銅版画だって!? ロドリーゴ、お前、とうして、そんなものを持ち歩いてるんだ!? 背中に入れて?」
「んーーー、胸に抱く のも、何か違う気がして……」
「そりゃそうだ。そりゃそうだけど……ママの銅版画?」
「王妃から預かった」
「だから、どうして!?
「何をそんなに興奮してるんだ? 変なやつだなあ」
(回想)

「フランデルンでも、私の美しさを広めてね

「……」
「……」
「ママらしい……」
「俺は、死を覚悟していた。実際、死ぬはずだった。だから、この版は、お前に託すつもりだったんだ。お前は、王の手を逃れ、フランデルンへ行く。そういう筋書きだった。でも、王の刺客の撃った弾は、この銅板に当たり……ああ、弾痕が!」
お前が助かった んだ。そんなの、どうだっていい……」
「確かにどうでもいいな。王妃の銅版画 なぞ」
誤解するなよ、ロドリーゴ。そもそも、僕とママとの間には、何もなかったんだ。それをお前が早合点して、自分が王妃に懸想した、なんて言うから、あんな目に遭ったんだぞ!」
「でも、は、そうは思っていなかった。エーボリ公女も。このままでは、お前が殺される危険があった」
「確かに父上の嫉妬深さは異常だ。それでもって、あの人は、僕に 嫉妬 している。ただ、その嫉妬の大元は……今では、王妃ではなくて、ロドリーゴ、お前なんだよ!」
「……は?」
「お前が、王の想い人だ。王は僕から、お前を取り上げようとしていた」
「何をバカな……」
「残念ながら、事実なんだ。お前は僕の  恋人  大切な友 だ。それをあの人は、 愛人  腹心の家来 に、貶めようとしたんだ」
「いずれにしろ俺は、カルロス、お前を選ぶ。選択の余地はない」
「ありがとう、ロドリーゴ……」
「礼など言うな! 俺はこれから、フランデルン へ行く。そこで、民衆と共に、イスパニアの鎮圧軍と戦うつもりだ」
僕も一緒に行く!
「王に……父君に逆らうことになるんだぞ」
構わない! 僕はもう、お前と離れたくはない!
「カルロス……。だが俺はこんな形で、お前を、戦に巻き込みたくはなかった」
「ロドリーゴ。僕はね。嬉しいんだ。お前とともに戦えるのが!」
絶対、俺より先に死ぬなよ
お前こそだ、ロドリーゴ! もう二度と再び、僕をあんなひどい悲しみに、突き落とすんじゃない!」
「お前のことは、俺が守るから……、」
「カルロス様! おお、カルロス様! よくぞご無事で」
「レルマ伯爵……」
「げげっ! お前は、ボーサ侯! 生きていたのか! 王妃様は、お前は死んだ筈だと……」
レルマ伯!
「いいんだ、カルロス。実は王妃に、俺が罪を被って死んだ後、お前をイスパニアから逃す算段をしてもらってたんだ。何しろ彼女は、腐っても、フランス王の娘だからな。銅版画の普及は、その謝礼だよ」
「レルマ伯。喜んでくれ。フランデルンの民のために、僕たちは、共に戦うんだ。これでやっと、僕も、有意義な人生を送ることが出来る。ロドリーゴのお陰で、父上の圧政から逃れることができるのは、民だけじゃない。この僕もだ!
「うう……。大事にお育てしたカルロス様を……よりによって、男 に託す日が来ようとは……」
さあ、行くぞ、カルロス! レルマ伯! 馬はどこだ?」
「カルロス様をよろしくお願い致しましたぞ、ボーサ侯。さあ、こちらへ……」
fin.
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登場人物紹介

ドン・カルロス


イスパニア(スペイン)の王子

カルロスの子ども時代

ロドリーゴ・ボーサ侯爵


カルロスの親友



ロドリーゴの子ども時代

フェリーペ2世


イスパニアの国王。カルロスの父。暴君

エリザベト王妃

フランス王室出身。はじめ、カルロスの婚約者だったが、カルロスの父、フェリーペ2世と結婚し、カルロスの「母」となる

エーボリ公女


カルロスに恋していたが、カルロスが王妃を愛しているとわかり、敵になる

レルマ伯爵

カルロスの忠臣

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