10 フられましたぁ~

文字数 1,412文字

エリザベト王妃の部屋に、王妃付きの女官、エーボリ公女が入ってきた。


エリザベト王妃は、かつて、カルロス王子の婚約者であった。

しかし、急遽、カルロスの父王であるフェリーペ2世の妻として、このイスパニアの国に迎えられたのだった。

「王妃様ぁ!」
「まあ、エーボリ公女。そんなに泣いて、どうしたのです?」
「わたし、カルロス様に……カルロス様に……」
「カルロス王子が、どうしたというのです?」
られましたぁーーーーーっ!
「おやまあ。あなたのようないい子をフるなんて。カルロスにも、困ったものね」
「彼、他に、好きな人 がいるそうです……」
「好きな人? まあ、どなたかしら」
貴女です、王妃様」
「違うわよ(即答)」
「だって、肖像画 を見ただけで、お互いに好きになったって、有名な話ですよ?」
「あら、それ、ガセ よ」
ガセ?」
「つまり、? ちょっとしたおふざけ? カモフラージュ?」  
「王妃様、『嘘』と『おふざけ』ならわかりますが、『カモフラージュ』って……?」

「うふふ腐腐

「私の見たところ、王子は、貴女に ぞっこん です。……だから、私は、フられたんだわ!
「王子は、生まれた時に、お母様を亡くされましたからね。もうずっと長いこと、母親が欲しかったのよ」
「母って……。王妃様は、王子と同い年じゃないですか」


(傍白)お母さんがいなくて寂しいから、簡単に落ちると思ったのにぃ~。嫁姑の苦労のない 優良物件 だと思ったのにぃ~。くそっ! 王妃に横取りされた!

「私のほうが、3ヶ月、お姉さんよ」
きれいごとをおっしゃらないで! 王妃様だって、カルロス王子を、お好き なんでしょう!?」
「もちろん! あんなにかわいい 仔猫ちゃん♡ を好きにならない 貴腐人 は、いないわ!」
「貴婦人? そりゃ、貴女は、王妃ですけど……」


(傍白)あ、認めた。やっぱり王妃様も、カルロス様を、愛していらっしゃるんだわ……。

「つまり、カルロス王子には、好きな人 がいてね、」
「それは、聞きました。貴女でしょ、王妃様」
「違うのよ。とっても 心が広い高潔な人 なんですって」
「だからそれ、王妃様のことでしょ?」
「私じゃなくってぇ~、その人はぁ~」
「失礼、妃殿下」
「あら。噂をすれば、ボーサ侯」
「噂? ボーサ侯の噂なんて、してましたっけ?」
「王妃。お人払いを」
「仕方ないわね。ごめんなさいね、エーボリ公女」
「何かしら。気になるわぁ~」
後ろを振り返りつつ、エーボリ公女は、退出していった。
王妃。私はこのたび、王の密偵 となりました。カルロス殿下と貴女との間を、探る役目です。
「あら! 珍しい お仕事ね」
「珍しいと言われますと?」
「だってあなたは、決して、カルロス王子を裏切れないでしょ? それなのに、王の密偵なんて……」
「これは、王子への裏切りではありません! むしろ、貴女との間の、王の誤解 を解く為の……」
「ふわぁ~(あくび)

夫の誤解なんて、どうでもいいわ。だって、カルロス王子(仔猫ちゃん)と私の間で、間違いなんて、起こるワケないもの。ありえないわ、そんなコト。……あなたが一番、よく知っているわよね?」

「いや、ちょっと、よくわかんないです……」
「またぁ!

でも、いいわ。応援してあげる。なにか困ったことがあったら、頼っていいのよ? 何と言っても私は、フランス王の娘 で、イスパニア王妃 なんですからね! その代わり、二人の仲が進展したら、真っ先に、教えてね……」

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登場人物紹介

ドン・カルロス


イスパニア(スペイン)の王子

カルロスの子ども時代

ロドリーゴ・ボーサ侯爵


カルロスの親友



ロドリーゴの子ども時代

フェリーペ2世


イスパニアの国王。カルロスの父。暴君

エリザベト王妃

フランス王室出身。はじめ、カルロスの婚約者だったが、カルロスの父、フェリーペ2世と結婚し、カルロスの「母」となる

エーボリ公女


カルロスに恋していたが、カルロスが王妃を愛しているとわかり、敵になる

レルマ伯爵

カルロスの忠臣

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