11 気高い友

文字数 1,049文字

ロドリーゴ・ボーサ侯が、王の密偵 となられました」

レノマ伯爵 が、カルロスに、ロドリーゴが、王の間諜になったと、告げた。レノマ伯は、古参の廷臣で、その子どもたちも、カルロスに仕えている。彼は、信頼のおける人物だった。

「ひどいな、レノマ伯。なんで、そんな意地悪を言う。さてはお前、僕とロドリーゴの仲を裂こうとしているな?」

「殿下。あまりにひどいおっしゃりようでございます」

「すまない。お前は、僕に忠実に仕えてくれてきたのに、ひどいことを言った」

「宮廷は今、ボーサ侯のお噂でもちきりです。侯は、王の寵愛 を一身に受け、ついに、宰相となりました。今や、その権力は絶大だ、と」

「そうか……。

侯爵は、僕を、愛してくれた。自分の魂を大事に思うように、僕のことを、この上もなく、大事に思ってくれていた。……それは、確かなんだ」

「殿下。この私も、確かに見ました。ボーサ侯が、人払いした王の部屋から出てくるのを」

「ふっ、ふたりきりでいたというのか! 王……父上と!」
殿下、落ち着いて!
「すすす、すまない……。それで、二人は、密室で 何をして 何の話を?
「部屋を出掛けに、王が、王妃様の御名を、お口になさるのを、小耳に挟んだ者がございます。恐らく……」
「王妃の名を?」
「さようでございます。ボーサ侯は、カルロス殿下の仲の良い友達。恐らく、殿下が、王妃様をお好きだということを密告して、王に取り入ったのでござましょう」
「ああ、確かに、ロドリーゴに、そんな話もしたな……」
「全く、ひどい 裏切り だ。王妃様 まで巻き込んで……」

「違うよ。ボーサ侯は、ひどい人なんかじゃない。彼は、気高い。彼は、僕一人より、万人の幸せを望む、度量の深い人間なのだ。彼には、彼の考えがあるのだろう。一方、この僕は、なんて取るに足らない、存在なのだろう。ちっぽけな僕一人を犠牲にして、王に取り入った方が、民の為になろうというもの

カルロスは、顔を上げた。

すがすがしい表情を浮かべていた。

「彼を恨むのは、筋違いというものだ。ボーサ侯は、民の幸せを望んでおられる。彼の胸は、一人の友を受け容れるには、あまりに広すぎるのだ

「殿下は、それで、よろしいのでございますか?」

すがりつくような目を、忠臣がカルロスに向けた。

「どうしようもあるまい」

打って変わって弱々しい色が、カルロスの瞳に浮かんだ。

「理想を追求してこそ、ロドリーゴ・ボーサなのだ。彼を、この身一つに引き留めることは、本意ではない。全然まったく、本意でないはないんだ……」

……。
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登場人物紹介

ドン・カルロス


イスパニア(スペイン)の王子

カルロスの子ども時代

ロドリーゴ・ボーサ侯爵


カルロスの親友



ロドリーゴの子ども時代

フェリーペ2世


イスパニアの国王。カルロスの父。暴君

エリザベト王妃

フランス王室出身。はじめ、カルロスの婚約者だったが、カルロスの父、フェリーペ2世と結婚し、カルロスの「母」となる

エーボリ公女


カルロスに恋していたが、カルロスが王妃を愛しているとわかり、敵になる

レルマ伯爵

カルロスの忠臣

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