3 永遠の忠節

文字数 900文字

その晩。

カルロスの部屋へ、小さな人影が忍び込んだ。ロドリーゴ・ボーサ である。


下級貴族の息子であるロドリーゴ、その生命は、無に等しい。彼が矢を放ったのだとわかったら、残忍な王は、幼い彼を殺してしまったかもしれない。

カルロス は、背中に湿布を張り、寝台にうつ伏せになっていた。

背中一面が赤く、ミミズ腫れにになっている。侍従は、さらなる塗り薬を医師に処方させるために、退出していた。

「殿下……」

呼びかける声は震えていた。

「お前か、ロドリーゴ」

わずかにカルロスは、頭をもたげた。

「安心しろ。お前のことは、一言も話さなかったから。陛下は、矢を放ったのは僕の仕業だと思っておられる」

「殿下……なぜ?」

ロドリーゴは、おずおずと近づいてきた。

湿布からはみ出した、残忍な赤い傷跡に、息を呑んだ。

「……」

王子はじっと、彼の顔を見た。

真っ赤になって、ロドリーゴは叫んだ。

「罰を受けなければならないのは、でした!」

「そしたら、お前は、殺されてしまった かもしれないよ? これは……僕の背中のこの傷は、見かけほど、ひどくはないんだ。だって、僕は、王の息子 だからね。刑吏が、どこかで、手加減してくれたんだ。鞭打たれたのが、お前じゃなくてよかった

「殿下……」

「僕はただ、僕以外の人間が、ひどい目に遭うのを見るのが、耐えられなかっただけだ。それ以外に、理由なんてないよ」

 そろそろと、カルロスは起き上がった。


ロドリーゴは、泣いていた。真っ赤な頬の上を、涙が、際限もなく、流れ落ちていく。彼は、もはや、王子と目を合わせることができなかった。


ぺろりと、カルロスが上唇を舐めた。

「僕は、当たり前のことをしただけだ。家臣を守るのは、君主の務めではないか

「殿下!」

思わず、ロドリーゴは、カルロスの前に跪いた。

私は、あなたに、一生、ついていきます。どのような境遇にあっても、決して、あなたのそばを離れません。私は、この命を賭して、あなたに、永遠の忠節 を誓います」

驚いたように、カルロスは、目をぱちぱちさせた。

「それなら、ロドリーゴ。今日からお前は、僕の 親友 だ」

親友?

「ああ。臣下などではない。お前は僕の、大切な友達 だよ」

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登場人物紹介

ドン・カルロス


イスパニア(スペイン)の王子

カルロスの子ども時代

ロドリーゴ・ボーサ侯爵


カルロスの親友



ロドリーゴの子ども時代

フェリーペ2世


イスパニアの国王。カルロスの父。暴君

エリザベト王妃

フランス王室出身。はじめ、カルロスの婚約者だったが、カルロスの父、フェリーペ2世と結婚し、カルロスの「母」となる

エーボリ公女


カルロスに恋していたが、カルロスが王妃を愛しているとわかり、敵になる

レルマ伯爵

カルロスの忠臣

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