第6話 四面楚歌

文字数 1,706文字

 初めて投稿しようと『小説家になろう』をみた時、それこそ、異世界に迷い込んだのかと思った。

 異世界転生ばかり。

 長いタイトルばかり。

 本屋もご無沙汰していた。

 ああ、時代に取り残されてしまった。

 異世界とは、『ナルニア王国物語』のような世界のことだそうだ。

『魔女とライオン』は小学生の時に読んで、しばらくは1番面白い本になっていた。

 タンスの向こうに国がある。家の洋服タンスを手で押してみたものだ。

 では、タイムスリップは異世界とは違うのか?

 どなたかの作品で、

『転生したら(せき)夫人……』

というのがあって、興味を持って読んだ。

 女子高生が過去に行き、戚夫人になっていた……

 そこで、おしまい。


 あとが知りたいのに。

 歴史は変えてはいけないのだから。

 ひえ〜。


 洋服タンスの向こうにある、異世界にでも過去にでも行けるなら、項羽(こうう)に会いたい。

 項羽の最期、『四面楚歌』の場面を見てみたい。

 漢詩など興味はなかったのだが、歌に魅せられてしまった。繰り返し聴いている。合わせて歌っている。


 ()や虞や、(なんじ)をいかんせん……

【お題】 2泊3日の異世界旅行

 項羽の陣営を幾重にも囲んだ劉邦の軍から夜、()の歌が聞こえてきます。項羽は敵に投降した楚の兵が多いことを知って驚きました。

 項羽のそばには常に最愛の女性、 虞姫(ぐき)と、愛馬の(すい)がおりました。項羽は詩を詠じます。


 力は山を抜き気は世を(おお)

 時利あらず騅逝かず

 騅逝かず奈何(いか)にすべき 

 虞や虞や(なんじ)を奈何せん。


 自分には山を動かすような力、世界を覆うような気魄(きはく)があるが、

 時運なく、騅も立ちすくんでしまった。

 騅が走らなければ、どうしたらいいのか。

 虞や虞や、おまえをどうしたらいいのだろう――。


 美人之(これ)に和す


 項王(=項羽)、(なみだ)数行下る

 左右皆泣き、()く仰ぎ視るもの()


 項羽は覚悟していました。敗れた自分は散ればいい。だが虞姫はどうなる? 

 項羽は虞姫ひとりを心から愛していたのだと思います。

(NIKKEI STYLE キャリアより)

 それに比べて劉邦は、苦労させた妻、呂雉(りょち)がいるのに……


 映画『鴻門の会』のラスト。

 だが知る由もない。我が妻が息子たちを殺したことを。

 さらに知る由もない。400年後、我が帝国が地上から消え失せることを。


 ああ、恐ろしい我妻、呂后。そんな女に誰がした?


 劉邦には、(せき)夫人という愛妾がいた。項羽との戦いには、劉邦は彼女を同行して、陣中で舞を舞わせたり、ともに碁を打ったりもした。

 戚夫人が産んだ子、如意(にょい)は優れた子だった。漢帝国を継ぐのは呂后の子に決まっていたが、その位を如意に譲ろうとしたほどだ。

 その話は重臣たちの諫言でなくなったが、しかし呂后にとっては自分や子どもの地位すらも脅かされかねない、事件である。

 それでも劉邦が生きている間は我慢をした。彼女の恨みが爆発したのは、劉邦の死後である。

 呂后は、如意と戚夫人を捕らえ、如意は毒殺した。

 しかし、戚夫人に対しては毒殺なんて生やさしいことではすまなかった。


 以下、恐ろしいです。苦手な方は十数行飛ばしてください。


 まず彼女の両手両足を切った。

 それだけではない。戚夫人の眼をつぶし、耳を打ち抜き、喉を焼く薬も飲ませた。そして、トイレに押し込め人豚(ひとぶた)と呼ばせたのだ。

 

 呂后の子はすでに帝位を継いで恵帝と呼ばれていたが、母に、変わり果てた戚夫人の姿を見せられ……

 恵帝は最初、それが何だかわからなかった。しかし、母からそれが人であること、そして戚夫人の変わり果てた姿であること聞き、

「もう世の中を治めることはできない」

と酒色に溺れるようになり、立ち上がることもできない病気になってしまった。 

 帰る日に司馬遷に話を聞いた。

 3大悪女の呂后だが、治世に関しては

「天下は安定していて、刑罰を用いることはまれで罪人も少なく、民は農事に励み、衣食は豊かになった」

と評価していた。

 こっそり教えてくれた。人豚事件には創作がかなり入っているようだ。

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