第17話 再会

文字数 7,386文字

 瑤子の父親が亡くなった。父は海外出張中で僕が行かざるを得なかった。かつて瑤子を送った道を、亜紀と彩を乗せて走る。
 思い出したくない彼女とのこと。しかし葬式だ。父親が亡くなったのだ。失意にある女を亜紀も責めはしないだろう。僕も平静を装う。5年も経っていた。
 僕たちは目を合わさなかった。5年経っても歳を取らない。薄化粧の喪服の女、恋人らしき男もいない。
 
 帰る間際、瑤子は畑に僕を呼び出した。都会的な女が畑で野菜をもいでいた。
「まだ怒っているの?」
「……」
「結婚するんでしょ? あの男みたいな子と」
「ああ」
「おめでとう」
「……」
「喋っちゃおうかな。エーちゃんと……」
「……喋ってみろよ。父に打ち明けてやる。父の身代わりにされたって。父はどうするだろうな……」
「……もう許してよ」
「そっちから言い出してきた」
「乳癌なの」
「え?」
「癌なの。死ぬのよ。だから許してよ」
「嘘だ」
「英輔さんに会いたかった。最後の望みも叶わなかった。私のお葬式には来てくれるかしら? 泣いてくれるかしら?」
瑤子の目から涙が溢れた。
「本当なのか?」
「……」
「本当なんだな? 手術は?」
「するわけないでしょ」
「バカッ」
「もう遅いの」
「どのくらいだ?」
「すぐよ」
「……父にそばにいてほしいか?」
「坊やでもいい。そばにいて。手を握っていてほしいわ」
「……」
「……」
「身代わりか? いいのか? 父に話す。望みを叶えてやる」
「やめてよ。嘘よ。冗談よ。まったく、人がいいんだから……」
平気で嘘をつく女か? それとも……
「やめてよ」
胸を直にさわられ瑤子は白状した。
「嘘よ。あんまりつれないからからかったの」
「なんて女だ」
「ごめんね、坊や。哀れな女を許して」
「ホントに嘘なんだな」
「ホントよ。もっと確かめる?」
「なんて女だ。いいかげんに忘れろよ」
「出張から帰ったら、きっとお線香あげに来てくれるわ」
「亜紀と一緒にね。亜紀はなんでもお見通しだ。もう過去にしろ」
瑤子は声を上げて泣いた。父親を亡くしたばかりだ。憎い女、憎い瑤子を抱きしめた。胸を貸す。声を貸す。
「瑤子、特別サービスだ」
2度とこの声を聞かすまいと思ったが……憎めない女。哀れな女。
「もう俺のことで人生を無駄にするな。俺は、どうしようもない男だ。弱くて情けない……だらしない、無神経で……亜紀がいなけりゃ生きていけない。亜紀が怖くて浮気なんてできないんだ。それに……もう60だよ。もう……勃たない」
瑤子は吹き出し、笑いながら僕の胸を叩いた。


 亜紀の乗った電車が雷の影響で止まった。彩の試験勉強をみていた僕は迎えに行った。亜紀は若い女とふたりで長蛇の列のタクシー乗り場から離れて待っていた。ごった返したタクシー乗り場。こんな状況なのに楽しそうに話している?
 相手の女は……見覚えのある女。亜紀が気づいて車に寄ってきた。女の手を取り。亜紀が後部座席に女を……あの女性を乗せる。その隣に亜紀が座る。
 手話で説明する。僕にはわからないが、たぶん、息子なの……あの人は気がついた。
 時計を戻す。何年前だろう? 高校1年の夏休み、母の命日、治の家で酒を飲み……
 感のいい亜紀は気付いたようだ。10年も前に僕が亜紀から手話を習ったことを。なにも聞かずに教えてくれと頼んだ。その原因の人が座っていた。亜紀は運転を変わり僕を(あや)の隣に座らせた。僕は話せない。手帳を出し筆談。
「変わらないね。文さんは。僕は? 成長しただろ?」
「あなたのおかあさんだなんて。うれしいわ」
「元気にしていた?」
「あなたは、幸せそうね」
「君は? 僕は待っていた。君の恋人が殴りにくるのを」
文は覚えていた。
「恋人がいます。結婚するの。あなたを殴りにはいかないわ」
 亜紀は雰囲気を察し、文を家に招いた。夕方の1時間、文は三沢家で過ごした。彼女は驚く。邸の大きさ、庭の広さ、グランドピアノ……リビングは僕と彩が片付けているからきれいだ。彩が2階から降りてきた。中学3年の彩は背が高く年よりは大人びている。
「兄貴の新しい彼女?」
「友人だ」
彩は会話に加わる。手話部の部長だ。会話に加われないのは僕だけだ。女たちは楽しそうに茶を飲み菓子を食べ笑った。帰りは僕が送った。亜紀に言われ、彩が付いてきた。
「通訳と見張り」
見張り?
 文を家の前で下ろす。彩に通訳させる。
「ウェディングドレス、僕の彼女に作らせようか?」
「本当? また会いたいわ……亜紀さんに」
彩が僕のアドレスを教えた。

 帰りの車の中で彩が話す。
「きれいな人ね。兄貴、あの人と結婚すれば? ママも気に入ってる」
「彼女はもうすぐ結婚するんだよ」
「新聞記者。収入どれくらい? 兄貴と結婚すればいずれは社長夫人」
「僕は夏生と結婚する」
「……夏生は変わったよね。和ちゃんと付き合って。夏生は和ちゃんを愛してたの?」
「友人だ」
「そう思いたいんでしょ? 夏生は兄貴が初めてだった?」
「あたりまえ」
「いつ?」
「ノーコメント」
「いいわよね、夏生は。あんな傷があっても、兄貴にも、和ちゃんにも愛されて……」
「あの傷は僕がつけた」
絶句だ。
「僕が夏生の青春を壊した」
「夏生は自分のせいだって……ママも」
「皆で僕を庇った」
「……」
「僕は罰を受けてない」
「……兄貴、辛かっただろうね」
「泣かせるようなこと言うなよ」
「夏生はすごいね。私だったら……家から出ない」
「僕に罪の意識を感じさせないよう明るく振る舞った」
「夏生は、愛してたんだね。小さいときから」
「背丈くらいで暗くなるな」
「それが言いたかったのね? 瑤子さんが、私はモデルになれるって。羨ましがられた。背が高いのが羨ましいって」
「あの人は目立ちたがり屋だからな」
「永久脱毛するからお金貸して」
「なんだって?」
「毛深くていやなの。毎日剃ってる」
「おかあさんに言え」
「あの人はダメ。体毛が濃いのは魅力的だとか……食事や睡眠のせいだとか、話にならない」
「僕は中3のときは背も低く体毛も薄く女……みたいだった」
あの人は……セックスするようになれば濃くなるわ……なんて……
「女装、似合ってたもんね。私なんて、彩ちゃん、髭生えてるって言われたよ」
思わず笑った。
「ごめん、ごめん」
「パンツからはみ出すし……」
「そんなこと、兄貴に言うなよ」
優しい娘だ。深刻な話のあとに自分の悩みを茶化して笑わせようとしている。
「兄貴、兄貴のママは幸せね」
「なんだって?」
「私にだってわかる……忘れられない女。幸せだわ」
「パパの望みはおまえの幸せだけだよ」
「パパにはもっと大事な子がいる気がする」
「なんだって?」
「隠し子でもいるんじゃない?」
「バカ言うな」
「この間の海外出張だって誰と行ったんだか」
「ありえないよ。パパの望みはおまえと僕の幸せだけ……それから……おかあさん……」
「パパには甘えられない。誰かと私を比べてる。不満を言うと怒るもの。どんなに恵まれているかわからないのかって」
まさか、春樹か? 母の残した僕の弟。彩と同じ歳の多感な年頃の前妻の息子。芙美子おばさんとは会っているはずだ。
「変な家族」
「……ああ、変な家族だ。彩……おまえが生まれて、誰が風呂に入れたと思ってる? 毎日僕が風呂に入れて洗ってやった。おむつも変えた。それに」
僕は思い出し笑いをした。思い出す。
「ミルクも飲ませた。おかあさんのいないとき……僕の乳首に吸い付くか、試してみた。おまえは何度も吸いついてきたが、口に含めなかった。これは、おかあさんには内緒だよ」

 夜中に携帯が鳴った。夢の中でか? いまだに夢を見る。母が帰ってくる夢を。命日だ。母は家には入れない。亜紀がいるから。ママはさまよっている。様子の変わった我家で。庭で……
 夢ではない。夜中の1時。メールの相手は……
 3ヶ月過ぎていた。
『死にたい』
幸せそうだった文からのメール。
『どこにいる?』
文は家の外に泥酔して立っていた。僕を見ると倒れ込んできた。亜紀が起きてきた。間が悪いことに父が出張から帰ってきた。真夜中に自分の車で。
「結婚なんかできないって。できると思っていたのか? って。障害者のくせに……」
 夜中のひと騒動。亜紀は自分の知り合いだと父に説明し文を宥めた。
「昔の俺みたいだな。飲んで飲まれて……」
息子に暴力を……それは飲み込んだ。父は疲れていたのだろう。酔った女に対して冷たかった。
「きれいな顔して聴覚障害か、自分を不幸だと思っているのか?」
 父は寝室に入ったが僕は戻れなかった。亜紀と文との会話には入れないが……客間で亜紀は朝まで文についていた。明け方眠りについた文を置いて、僕は仕事に行くしかなかった。
 
 その夜亜紀が言った。       
「浮気するんじゃないわよ」
「なにを言い出すんだ?」
「ムラムラしたでしょ?」
「しないよっ!」
「……あなたは弱いものを放っておけないから心配。深入りしないで」
それは……治だ。お節介な治……近くに住みながら会うことはない。10年前の夏の日、治がいなかったら僕はどうなっていただろう? いつも自分のことより相手のことを考えるやつだった。どれほどあいつに救われたかわからない。文と僕のドラマ。第2幕。治ならどうするだろう?
「浮気は頭の中だけで思いきりやりなさい」
「……亜紀もそうしてきたの?」
「そうね。パパとやりながら……失言」
「あなたはパパひとすじだと思っていた」
「パパの頭の中には……」
「亜紀がいる」
「あなたのママは歳を取らない」
僕は話題を変えた。
「パパは怒ってた? きれいな顔して聴覚障害が不幸かって、冷たい男だ」
「そうね。冷たい。冷たいのも……いいのよ」
「パパには……女がいる?」
「プッ」
「隠し子がいる?」
「プッ」
「この頃出張が多すぎる。春樹の面倒を見てる? 自分の子供はおかあさんに任せきりにして」
「……自分で聞きなさい」
質問は打ち切られた。

 母の命日は文と、圭介さんを思い出す日だった。恥ずかしい過去、恥ずかしかったがふたりに会えたことは幸運だったし感謝している。
 亜紀が心配したように文から謝りのメールがきた。弱いものを放ってはおけない……僕たちはメールを始めた。彼女は僕にとっては特別な女。海が見たい……何度も同じメールがきた。気晴らしにドライブに誘った。波の荒い初秋の海。彼氏と来たのだろうか? もう少し先にはマリーの叔父の経営するホテルがある。いやでも思い出す。彼女と治のことを。マリーはどうしているだろう? どんなに条件のいい男たちと付き合おうと、治と比べてしまうだろう。比べられたら敵わない。
 文は波を見ていた。
「寒くなってきた。もう帰ろう」
後ろ姿に話しかけた。文は振り返らない。手話をきちんと習っておけばよかった。肩を叩くと文は振り向いた。10年前とは逆だ。僕は文の頬の涙を見た。10年前と逆。涙を見られた文は僕を……誘惑した。僕の胸にすがる。腕が抱きしめていた。文はキスを求めてきた。壊れた愛を忘れるため。ダメだ。
「トモダチ」
僕の唇を読んだ文は絶望し……発作的に死のうとした。走り出した。波に向かって。第3者は現れなかった。治もいない。僕は海に入っていく文を捕まえ、叫びながら抵抗するのを抱きかかえ連れ戻した。コートをかけ車に乗せた。暖房をかける。文はなにも言わず目を閉じている。あの日の僕のように。
「休んでいかない?」
そう聞こえた。シャワーを浴びさせたいよ。風邪をひかないように。僕も浴びたい。

 1時間半、飛ばした。家には亜紀がいない。こんなときに……
 シャワーを浴びさせる。圭介さんのように一緒に浴びるわけにはいかない。怖いから浴槽の残り湯を抜いた。女のシャワーは長い。自殺できるものはない……はずだ。ボディータオルで首を? 心配で覗いた。文は泡だらけの体をシャワーで流すと誘惑してきた。シャワーを止め、抱きついてきた。僕は彼女の唇から逃げた。乱暴にはできなかった。精神的に不安定な女はなにをするかわからない。Tシャツがまくられ、舌が這う。ハーフパンツの中に文の手が……
「ダメだ」
浮気は頭の中だけ……ダメだ。女を殴ることはできない。手が求めてきた。10年前とは違う。このままでは……治……おまえならどうする? おまえはマリーに誘惑されたんだろ? 酔って淫らになったマリーに迫られ……どこでだよ? おまえの家か? 
「ダメだ」
ボディータオルで求めてくる文の手を縛った。拒否されたことは屈辱なのだろう。
「死ぬわ。舌を噛みわ」
勘弁してくれ。もう1枚のタオルでさるぐつわをした。そのとき……最悪だ。ドアが開けられた。亜紀が見たのは全裸で手首を縛られ、口を塞がれている女とTシャツをまくりハーフパンツを下ろしかけた息子。
「誤解するな」
「出て行きなさい」
亜紀は嘆き、文にバスタオルをかけボディータオルをほどいた。
「逆だ。逆だよ。違うんだ。信じて……」 
「私の息子が……私が育ててきたのが、これ?」
「僕はあなたの息子だよ。あなたが育てた息子だ、信じて……」
「なんでわざわざ家で? よそでやればいいのに……」
文が説明する。亜紀との激しい手話。
 文は本当のことを話している……ようだ。海で死のうとしたのを助けられて、誘惑した……

 亜紀は息子を信じた。少しの間、僕に文を見張らせ、自分の服を取りに行った。すぐに戻ると僕を締め出した。間抜けな僕は文の服を洗濯機にかけた。洗い乾燥する間、亜紀はリビングで文といた。僕は自分の部屋で謹慎させられた。
 服が乾いた頃には文は落ち着いたようだ。亜紀が僕に送るよう言いにきた。
「いやだよ。亜紀が送れよ」
「海で死のうとしたって?」
「発作的に。死ぬ気なんてない」
「助けなければよかったのよ。死んだら楽になれた」
「……心にもないことを」
「あなたのママはバカだった」
「ああ、他人の子を助けて、春樹を置いて逝った」
「助けられた子はどうしているかしらね? 憎くない?」
返事を待たずに亜紀は話題を変えた。
「10年前のこと聞いたわ。文の仇を取りに行った……」
全部聞いたのか? ママの命日に僕がしたこと……
「あなた、文と結婚しなさい」
「僕はなにもしていない」
「運命よ」
「まったく、運命が好きな女だな」
「いいから、プロポーズするのよ。見たいの」
「なにを?」
「条件のいい私の息子より、咽頭癌で声帯を取り、文のために別れた、5年後生きてるかもわからない男を選ぶかどうか……」

 文は僕に謝り素直に送らせた。途中で病院に寄った。亜紀に知り合いの見舞いを頼まれたからと。ロビーで文を待たせ、僕は個室をノックし開けた。文を捨てた男がベッドの上から僕を見た。かつて聴覚障害者の文が働くところを取材にきた。その新聞記者は文に好意を持ち、やがてふたりは付き合うようになった。親にも上司にも反対されたが、男の気持ちは揺らがなかった。しかし声帯を取られ最愛の女を手放すことにした。文のために。苦労させたくない……
 男は座って本を読んでいた。ベッドの横には文の写真があった。
 僕は部屋を間違えました、と頭を下げ廊下に出た。逆方向から戻りトイレで時間を潰した。文は何分待つだろう? 30分過ぎると、文は病室の方へ歩き出した。605号室とは言ってある。
 見ることはできないが想像できる。文は605号室の患者の名を見て驚く。ありふれた名前だ。同姓同名だろう。文はノックして開ける。僕がそこにるいるはずだ。個室には患者ひとりしかいない。男は文を見て本を落とす。文はすべてを察する。文の愛した男は手話で聞く。僕にはできない手話で。
 さらに30分、文はようやく出てきて僕を見た。僕たちは屋上で話した。
「亜紀が君を気に入ってる。三沢家の嫁になるかい?」
文は微笑んだ。
「亜紀さん、大好き」
「僕もだよ」
「ありがとう。戻ります。オサムのところへ」
文は僕を残し去った。見事だった。

 オサム? 治と同じ名か? 治のようにいいやつなんだろうな……治に会いたい……僕は返していない。あいつには助けられるばかりだった。
 亜紀は治を褒めていた。(こう)をイジメから救い仲間に入れたのも治だ。亜紀は……香の面倒を見た。香の幸せのために父親に談判に行った。夏生も……亜紀には救われただろう。義理の息子に傷つけられた夏生を亜紀は励ましたに違いない。
 いや、なにか見落としている。このところの亜紀の言動、彩の父に対する批判。何か大事なことを見落としている。引っかかる。答えは出ているはずだ。もう25歳になる僕に亜紀は頃合いだと思ったのだ。母が亡くなったのは34の歳。母は海に溺れている子を助けて死んだ。春樹を残し。
 なぜ? なぜ他人の子を助けた? 運動は止められていたのに。
 目を閉じると景色が浮かぶ。3歳の春樹を抱いた母、海辺にもうひと組の母子。娘だった。春樹と同じ歳。彩と同じ歳。なぜ3歳の子が溺れたのだ? 母親はなにをしていた?

「海で死のうとしたって?」
「発作的に。死ぬ気なんてない」
「助けなければよかったのよ。死んだら楽になれた」
「……心にもないことを」
「あなたのママはバカだった」
「ああ、他人の子を助けて、春樹を置いて逝った」
「助けられた子はどうしているかしらね? 憎くない?」
助けられた子? 別荘のママの部屋から消えた母子の絵。あの部屋に来たのは春樹ではない。助けられた娘だ。なぜ? 度重なる出張。海外出張……誰と行ったんだ? 何度も。
 まさか、父は憎んだだろう。ママを死なせた娘だ。ママは助けた。子供は海に流されたのか? それとも心中?  
 あなたのママは会社の功労者、株主……3分の1は僕に、春樹に、恵まれない子供に……
「パパには甘えられない。誰かと私を比べてる。不満を言うと怒るもの。どんなに恵まれているかわからないのかって」

「きれいな顔して聴覚障害か、自分を不幸だと思っているのか?」
「美少女だな、なにを悩む? 贅沢だ」
冷たい口調だった。
 誰なのだ? どういう娘なのだ? ママが助けたのは? 亜紀は知っている。知っているどころではない。パパは面倒を見ているのだ。10年以上……
 美登利の部屋、圭の本だと思っていたが、あれは亜紀が与えた本ではなかったのか? 僕と同じように自分の顔と名前を嫌っていた美登利に。あの本を読んだら、写真を見たら感謝するだろう、自分の顔に。本の話? 父は美登利と本の話をしていた……
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