第十五話 遺伝子ってわかります?

文字数 1,125文字

   
「マドック先生!」
 凄い勢いで、話を遮ってしまいました。マドック先生が引き気味なくらいに。
「……なんだい、お嬢ちゃん?」
「先ほどマドック先生は、確か『ウイルスには生命活動に必須な器官が欠けている』と言いましたよね?」
「おお、言ったぞ」
 心なしか、少し嬉しそうに見えるマドック先生です。
「ということは……。ウイルスは、細胞ではないのですね! 細胞で構成されているわけではなく、もっと微細なユニット。むしろ細胞の中に入るような……」
 マドック先生は『宿主細胞』とか『感染細胞』とか言っていますからね。少し前まで私は「ウイルスが人や動物に感染する」と大雑把に理解していましたが、正確には人や動物の『体そのもの』ではなく、その体の中にある『細胞』の中へ、ウイルスは感染していくようです。

「そう、その通り!」
 マドック先生、ニッコリ。今度は『心なしか』どころではなく、まるで欲しかったオモチャを買ってもらった子供のような、あからさまな笑顔です。
「そこが、他の微生物との明確な違いだ。ウイルスは、細胞未満の『遺伝子カプセル』だから、細胞の中に入って宿主のシステムを借りることで、ようやく生命活動が行えるし、増殖も出来る。……あ、今『遺伝子』って言葉を使っちまったが、細胞がわかるくらいなら遺伝子も大丈夫だよな?」
「はい、大丈夫です」
 マドック先生は忘れているようですが。
 転生者の特殊技能に関する話で『冒険者のステータスに関わる遺伝子をウイルスに組み込んだり』というセリフ、ありましたからね。あそこで私が「ん?」という態度を示さなかった時点で、遺伝子という言葉が普通に使えること、わかって欲しかったです。
 もちろん遺伝子も細胞と同じく、私が医療系だから知っている、というレベルの用語ですが。
「遺伝子とは、人間や動物のあれこれを決める因子であり、その体の中――正確には細胞の中――にあるものですね」
「そう、そんな理解で十分だ」
 マドック先生が頷くのを目にしながら。
 また私は、自分の発言がフィードバックして、少し心に引っかかりました。

 人間や動物のあれこれを決める……。
 今気づきましたが、遺伝子って生物の設計図なのですね!
 なるほど、だからマドック先生は設計図の話を持ち出して、それで例えようとしていたのですね。ちょっと納得です。
 彼は『設計図』の方がわかりやすいと思ったのでしょうが、私には逆でした。今まで縁遠かった『設計図』という言葉が、ようやく身近に思えてきたくらいです。
 そういえば。
 医学の発展には欠かせない、遺伝子や細胞という概念。これらも、元々は転生者が持ち込んだものらしいです。その意味でも、遺伝子は設計図と似ているのかもしれません。
   
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