【クレープ屋台】 「偉大な魔女の生活〜ハロウィンver〜」タマネギ

文字数 1,913文字

ペンネーム タマネギ タイトル「偉大な魔女の生活〜ハロウィンver〜」


 私は最強にして最恐の魔女。全ての魔女の頂点に君臨し、全ての人間を見下すことが出来る唯一の存在。常日頃から、唯一無二という言葉は、私のために存在するのだと実感している。

 私の名は、ジェシー・ハイネ。この世に生まれた時から、膨大な魔力を持ち、あらゆる魔法を使いこなすことが出来た私に、不可能なことなど無––––。

「ちょっと佐藤さん! またクレープ焦がしてるじゃない! 何度言ったら分かるの⁉︎」

「あ、す、すみません」

 かぼちゃの帽子を被り、かぼちゃの着ぐるみを着た、田口さんが私に向かって怒鳴る。

「全く、魔女の仮装してちょっと可愛くしてるからって、甘くしてもらえると思ったら大間違いだからね! さっさと新しいの焼いてちょうだい! お客さん並んでるんだから!」

「は、はい!」

 今日はハロウィン・ナイト・パーク。ジャンルを問わず、仮装していれば、入場料が半額になる、年に一度の日。屋台に並ぶお客さんも、ゾンビやら人狼やら色々な仮装をしている。

 私は焦がしてしまったクレープを金属ヘラで鉄板から剥がし、新しい生地を鉄板に薄く広げる。いい感じに焼けてきたら、生地をひっくり返す、と。

 ––––はっ⁉   ダメだダメだ。またお局様の田口さんの言いなりになってしまっている。私は最強の魔女なんだぞ! その気になればこの遊園地なんて一瞬で消し飛ばせる。そうだよ、そもそもなんで私がクレープの屋台なんかでアルバイトしているんだ? 普通に考えておかしいじゃないか。まあ確かに、魔道具の材料を買うためのお金を集めるために、アルバイトを探していたのは事実だけど。でも短期バイトの予定だったのに、ここで働き始めてもう半年が過ぎようとしている。いや、もう過ぎてるかも。従業員も私と田口さんの二人しかいないし、どんだけブラックなんだこの遊園地は!

「佐藤さん! 生地焼けたらバナナクレープとストロベリークレープ作ってちょうだい!」

「え、あ、で、でも、私まだうまく出来ないと思います」

「この前教えたじゃない! いいからやってみな!」

「は、はい」

 私は田口さんに言われるがまま、注文されたクレープを作り始める。

 中心に向かって逆三角形になるように生クリームをのせて、それぞれ注文された果物をのせていく。チョコソースを回しかけてから、生地をしたから半分に折る。あとは右からくるくる巻く。これにクレープが少し出るように紙を巻きつけて、少しだけ出ているクレープのところにアイスクリームと注文された果物、最後にチョコソースとカラーチョコスプレーを振りかければ、完成。

「お待たせしました、バナナクレープと、ストロベリークレープになります!」

 私はお客さんに自分が作ったクレープを手渡す。

「佐藤さん! やればできるじゃない!」

「あ、ありがとうございます」

「ほら、次の注文分も作っちゃって!」

「は、はい!」

 その後、遊園地の閉園時間まで、私はクレープを作り続けた。

「はあ、やっと終わったわね」

「お、お疲れ様です。それじゃあ、お先に失礼します」

「あ、ちょっと待ちなさい」

「え?」

 田口さんは私を呼び止めると、いつの間に作っていたのか、クレープを渡してきた。

「今日、もう昨日かな? とにかく、佐藤さん頑張ってたから、ご褒美。その魔女の仮装可愛いわよ。お疲れ様」

 そういって私の頭を、くしゃっ、と撫でると店締めの作業に戻った。

「あ、ありがとうございます!」

 私はお礼を言って、屋台を出る。忙しかったけど、良い日だったな。

 そんなことを思いながら、私はクレープを食べつつ遊園地の従業員用の出口に向かう。

「あ、お疲れ様で〜す」

「あ、お、お疲れ様です」

 出口の前に行くと、一人の女性従業員が帰るところだった。

「クレープ美味しそうですね、私も食べたかったなあ」

「休憩入れなかったんですか?」

「私、ずっと遊園地の入り口にいたから、屋台の方まで行けなかったんですよ」

「ああ、そうなんですね。私の食べかけですけど、よかったら食べます?」

「良いんですか⁉   嬉しい! ありがとうございます!」

 女性は嬉しそうにクレープを受け取ると、美味しそうに頬張りながら食べる。

「美味しかったあ! ありがとうございます! それじゃあ、お疲れ様でした!」

 女性はお礼を言って出口のドアノブに手を掛ける。

「鎌、見られないようにした方がいいですよ」

「え?」

 私の言葉を聞き、女性は焦った表情で聞き返した。

「まだそれの意味に気付いてないみたいですけど、いずれ分かると思うんで。その時にまたお話ししましょう」

 私は女性にそう言って、遊園地を後にした。

2018/10/10 10:57

tamanegi

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