ペンネーム タマネギ タイトル「偉大な魔女の生活〜ハロウィンver〜」
私は最強にして最恐の魔女。全ての魔女の頂点に君臨し、全ての人間を見下すことが出来る唯一の存在。常日頃から、唯一無二という言葉は、私のために存在するのだと実感している。
私の名は、ジェシー・ハイネ。この世に生まれた時から、膨大な魔力を持ち、あらゆる魔法を使いこなすことが出来た私に、不可能なことなど無––––。
「ちょっと佐藤さん! またクレープ焦がしてるじゃない! 何度言ったら分かるの⁉︎」
「あ、す、すみません」
かぼちゃの帽子を被り、かぼちゃの着ぐるみを着た、田口さんが私に向かって怒鳴る。
「全く、魔女の仮装してちょっと可愛くしてるからって、甘くしてもらえると思ったら大間違いだからね! さっさと新しいの焼いてちょうだい! お客さん並んでるんだから!」
「は、はい!」
今日はハロウィン・ナイト・パーク。ジャンルを問わず、仮装していれば、入場料が半額になる、年に一度の日。屋台に並ぶお客さんも、ゾンビやら人狼やら色々な仮装をしている。
私は焦がしてしまったクレープを金属ヘラで鉄板から剥がし、新しい生地を鉄板に薄く広げる。いい感じに焼けてきたら、生地をひっくり返す、と。
––––はっ⁉ ダメだダメだ。またお局様の田口さんの言いなりになってしまっている。私は最強の魔女なんだぞ! その気になればこの遊園地なんて一瞬で消し飛ばせる。そうだよ、そもそもなんで私がクレープの屋台なんかでアルバイトしているんだ? 普通に考えておかしいじゃないか。まあ確かに、魔道具の材料を買うためのお金を集めるために、アルバイトを探していたのは事実だけど。でも短期バイトの予定だったのに、ここで働き始めてもう半年が過ぎようとしている。いや、もう過ぎてるかも。従業員も私と田口さんの二人しかいないし、どんだけブラックなんだこの遊園地は!
「佐藤さん! 生地焼けたらバナナクレープとストロベリークレープ作ってちょうだい!」
「え、あ、で、でも、私まだうまく出来ないと思います」
「この前教えたじゃない! いいからやってみな!」
「は、はい」
私は田口さんに言われるがまま、注文されたクレープを作り始める。
中心に向かって逆三角形になるように生クリームをのせて、それぞれ注文された果物をのせていく。チョコソースを回しかけてから、生地をしたから半分に折る。あとは右からくるくる巻く。これにクレープが少し出るように紙を巻きつけて、少しだけ出ているクレープのところにアイスクリームと注文された果物、最後にチョコソースとカラーチョコスプレーを振りかければ、完成。
「お待たせしました、バナナクレープと、ストロベリークレープになります!」
私はお客さんに自分が作ったクレープを手渡す。
「佐藤さん! やればできるじゃない!」
「あ、ありがとうございます」
「ほら、次の注文分も作っちゃって!」
「は、はい!」
その後、遊園地の閉園時間まで、私はクレープを作り続けた。
「はあ、やっと終わったわね」
「お、お疲れ様です。それじゃあ、お先に失礼します」
「あ、ちょっと待ちなさい」
「え?」
田口さんは私を呼び止めると、いつの間に作っていたのか、クレープを渡してきた。
「今日、もう昨日かな? とにかく、佐藤さん頑張ってたから、ご褒美。その魔女の仮装可愛いわよ。お疲れ様」
そういって私の頭を、くしゃっ、と撫でると店締めの作業に戻った。
「あ、ありがとうございます!」
私はお礼を言って、屋台を出る。忙しかったけど、良い日だったな。
そんなことを思いながら、私はクレープを食べつつ遊園地の従業員用の出口に向かう。
「あ、お疲れ様で〜す」
「あ、お、お疲れ様です」
出口の前に行くと、一人の女性従業員が帰るところだった。
「クレープ美味しそうですね、私も食べたかったなあ」
「休憩入れなかったんですか?」
「私、ずっと遊園地の入り口にいたから、屋台の方まで行けなかったんですよ」
「ああ、そうなんですね。私の食べかけですけど、よかったら食べます?」
「良いんですか⁉ 嬉しい! ありがとうございます!」
女性は嬉しそうにクレープを受け取ると、美味しそうに頬張りながら食べる。
「美味しかったあ! ありがとうございます! それじゃあ、お疲れ様でした!」
女性はお礼を言って出口のドアノブに手を掛ける。
「鎌、見られないようにした方がいいですよ」
「え?」
私の言葉を聞き、女性は焦った表情で聞き返した。
「まだそれの意味に気付いてないみたいですけど、いずれ分かると思うんで。その時にまたお話ししましょう」
私は女性にそう言って、遊園地を後にした。