「お菓子をくれたら、奇跡を見せるよ」海月海星
今日はハロウィン。私は夫と娘と一緒に遊園地に来ている。なんでも、仮装をしていると入場料が半額になるようだ。娘の聖香はもう4歳なので、遊園地くらいつれていきたいと思っていたので丁度良かった。
夫が運転する、私たちを乗せた車が遊園地に到着した。
「よし、着いたぞ。やぅぱりけっこう混んでいるね」
ドラキュラの仮装をしている夫が少し疲れた様子で言う。
「あなた、お疲れ様。聖香、遊園地着いたよ」
魔女の仮装をしている私が、妖精の仮装をしている聖香のほうを見て言う。本当に絵本の中からでてきた妖精みたいに可愛らしい。
「わーい! ゆうえんち、ゆうえんち」
聖香は普段はこの時間まで起きていることはあまりないので、さっきまでは眠たそうだったが、一気に元気になった。
「こんなところに遊園地ができてたなんて知らなかったね。とりあえずチケットを買いに行こうか」
夫がそう言うと、私たちは車を降りて、聖香を真ん中にして、手を繋いで入場ゲートまで歩いた。
「すいません。大人2人で子供が1人です」
「はい! かしこまりました。皆さん仮装されているので、入場料は半額でーす」
カボチャの被り物をした受付嬢がリストバンドを渡してくれた。
「カボチャさん、カボチャさん。聖香、カボチャさんにお菓子あげるー」
聖香が窓口の受付嬢に、持ってきた飴を差し出す。届かないので、夫が抱きかかえてあげている。テレビを見て、お菓子をもらったり配ったりするイベントだと覚えたのだろう。
「ふふっ。ありがとう、かわいい妖精さん。お菓子をくれた君には、今日奇跡を見せるよ」
そのカボチャの被り物の中で、優しい笑顔を見せてくれているであろう、受付嬢がそう言った。一体何が起きるんだろう。
「ほんと? パパ、ママ楽しみだね!」
心から嬉しそうな笑顔で聖香が私たちに振り返る。その笑顔を見ていると、私たちも楽しみになってきた。
「そうだね。じゃあ聖香、中に入ろうか」
「うん!」
再び聖香を真ん中に手を繋いで、私たちは遊園地の中に入った。
遊園地の中は、ここが現実だということを忘れるような幻想的な光景だった。様々な仮装をしている人々。かなり気合が入って、リアルな仮装をしている人もいる。そして夜に映えるライトアップをされた、たくさんのアトラクション。観覧車の車輪の部分には、巨大なジャックオーランタンのイルミネーションが輝いていた。
「わぁー、すごいね! パパ、ママ。聖香あれ乗りたい!」
聖香は観覧車を指さして走り出す。
「ほらほら、走ると危ないよ」
聖香の笑顔に、すっかり運転の疲れが取れた夫が、優しくたしなめる。
「じゃあ、最初は観覧車に乗りましょうか」
私たちは観覧車に乗りに行った。観覧車の上から見る景色は、夢のよう、としか言えないほどきれいだった。
「かんらんしゃすごかったね! きれいだった!」
心底嬉しそうな聖香が満面の笑みで言う。
「そうだね。聖香、次は何に乗りたい?」
「お馬さんのりたい!」
私が聖香のほうをみて言うと、聖香はメリーゴーランドを指さして言った。
「いいよ。行こうか」
メリーゴーランドにつくと、そこにある馬はかなりリアルだった。本物としか思えないほどに。
「ご家族の皆さん! どうぞ、こちらにお乗りください」
カボチャを被った受付嬢が案内してくれたのは、ペガサスと、それに引かれている馬車だった。
「聖香、羽根のついたお馬さんのる!」
聖香がペガサスに乗り、私たちは馬車に座った。見れば見るほどリアルだ。
「それでは出発しまーす」
係りの人がそういうと、メリーゴーランドが動き出した。そして、しばらく回っていると信じられない出来事が起きた。聖香がまたがっているペガサスが、私たちが乗った馬車を引いて、空に駆け上がった。
「お馬さん飛んでる! パパ、ママすごいよ!」
聖香が驚いた顔で、こちらを振り返る。しかし、私たちも驚いていた。こんなことが起こるなんて……。
「お菓子をくれた君には、今日奇跡を見せるよ」
受付嬢の言葉を思い出す。なるほど、たしかにこれは奇跡だ。夢としか思えないほどに。
しばらく、ペガサスは駆け回ると、観覧車の前で一度止まった。そこにあったジャックオーランタンのイルミネーションは、笑顔に変わっていた。
あれは夢だったのか、奇跡だったのか。聖香のおかげで見れた、ハロウィンの夜の不思議な出来事だった。