ハロウィンナイトパーク
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「ボクとワタシの修行の成果」東雲飛鶴
昨年参加したコラボ企画の続編です。なお、本作単体でも楽しめます。
続きものになっていますので、よかったら昨年の作品↓を読んでからお楽しみください。
https://novel.daysneo.com/works/episode/ac4f01e5205611d6b7b26aa013968830.html
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こんなに仕込みしたのに、絶対余っちゃうぞコレ……
今年初参加の彼等には、人通りの多い好立地は望むべくもなく、ひとしきり売店の配置が終わったあとの空き地をあてがわれてしまった。
こんな僻地でどうしろってんだよ。
店長も大丈夫だなんて無責任なこと言って……
けっこう自身あったのに
調子はどう?
まあ、不利なのは分かってたけど、さすがにこれはキツいか
このままじゃワタシたち、店長に恩返しどころか、
また迷惑かけちゃう!
せっかく店長に作り方教わったのに、
いっぱい修行したのに、
これじゃあ……
なんとかするから、ちょっと待っててね
あの子たちどうだった?
テコ入れしてあげないと、心折れちゃいそうです
あんまりヘコんでるから、なんとかするって言っちゃったんですけど……
こまったわ……
大丈夫だと思ったんだけどなあ
技術的な問題はほとんどないはずだよ。
店長は呑気すぎですよ。
あの子たちはまだこちらに来て一年しか経ってないんです。
いきなり商売をしろといっても、やっぱりハードルが高かったんじゃないでしょうか。
直接見に行って分かったんですが、人の流れが手前でぷっつり切れているんです。
せっかくがんばって仕込みもしたのに、あの子たちこのままじゃ。
なんとかしないと……
これからいいもの作るから、ちょっと待ってて!
店長とウェイトレスは顔を見合わせると、いぶかしげに小首をかしげた。
先輩あんなこと言ってたけど、ホントになんとかしてくれるのかなあ?
ぜーんぜんニンゲン来ないよ?
ダメにきまってんでしょ!!
自分の立場わかってんの???
それは起こった。
これ、ください
ほ、ほっほほほ、ほんとに、
お客様!?
びっくりして逃げちゃったじゃないかー
せっかくの初のお客さんだったのに……
いらっしゃいませ
ヘンなニンゲン。でもまあいいや。売れたし。
あああもおおお、どーすんだよこの在庫おおおおお
ニンゲン集める方法なんて知らないもん……
あのメガネ女、いつまで待たせる気なのかな
閉園までに売り切れなかったら、食ってやろうかな
ニンゲンは食べないって。
ここにいられなくなっちゃうぞ。
それに、ニンゲンよりずっとおいしいもの、
いっぱいあるもんね!
たとえば……
俺のお菓子とか……さ。
……でも、すごくおいしいよ。このお菓子。
こんなにおいしいのに食べに来ないニンゲン、ムカつく。
い、いつのまに
(気配がしないから驚いたぞ)
500円になります。
(ワタシも気付かなかった)
ありがとうございます。
こちら、どうぞ。
そして、もう一度周囲を伺うと、小走りに去って行った。
先、言いなよ。
なんか、来る客みんな、おかしくね?
なんかヘンなニンゲンばっか来る。
……あのメガネ女の仕業?
まあ、客が来るだけマシだけど……
ここまで迷いこんできた、とかじゃなくて……
まっすぐここを目指してきてる。
これって何だ?
ホントにここで合ってるの?
広場のオバケが言ってたんだけど、
この町でいちばんおいしいお菓子を売ってる屋台が
フードコートの一番奥にあるから、
ね?
俺はこの町一番のパティシエだ。
……たぶん。
ぶっちゃけ説得力ないんだけど……
まあいいわ。
とにかく、他にお菓子の店はなさそうだし、ここに間違いないはず。
さっさと、お菓子をよこしなさい。
いそいでオバケのところに戻らなきゃいけないんだから。
はい、これ。500円。
丁度あるはずよ。
――ちょっと聞いていいか?
お客さん。
オバケのところに戻るって、どういう意味?
んー……と、
その……いいことがある、って聞いて……
その、いいこと、って何?
ヒミツ!!
チラシ作ってきたから、今から配ってくるわね!
えーっと、あちらにはこういうものってないのかしら。
宣伝したいことを、こんなふうに紙に印刷して、歩いてる人に配るのよ。
お菓子の写真が載ってる……
お店のメニューみたい……
これ配ったら、どうなるの?
じゃあ今から向こうで配ってくるから
大丈夫、ちゃんとお客さん来るようにするから!
客ならさっきから何人も来てるよ
あれって先輩じゃなかったの?
――まさか
とにかく行ってくる!
二人ともがんばってね!
なんか様子がおかしいな。
一体広場で何が起こってるんだ?
何があっても驚かないけどねー
……でも、オバケのことは気になるよね
このチラシのお店、ここで合ってます?
お菓子三つ欲しいんですけど
合ってます、ここです、だいじょうぶです
(ガサコソ)
はい、1500円になります
どうもー
チラシでいきなり三個も売れた……
チラシって魔法かなんかなのか?
ひとつもらえるかな
(ガサゴソ)
お客さん、チラシで来たんですか? それともオバケ?
あ……えーっと、
恥ずかしながら、オバケの方だよ
お嬢さん
あ、じつは俺等、オバケが何をしてるか全く知らなくて
でも店離れられないから確かめにも行けなくて……
まあお客さん来てくれるから迷惑してるわけじゃないんだけど
知らないところでなんかやられるのって……ちょっと不安で
でも心配するほどのことでもなさそうだよ。
あのね……オバケにこの店のお菓子をあげると、
恋愛成就のお守りがもらえるんだ。
ああ、だからモゾモゾしたカンジの女の子ばっか来てたのか
でもなかなか言い出せずに困っていたんだ。
今夜も、本当なら一緒にここへ来たかったんだが……
だがこの町で会社を興して、やっと定住することが出来そうなんだ。
そんな時、出会ったのが彼女なんだが……
どう言い出せばいいのかわからず、モヤモヤしたままここに来てしまった
すげえ……
私と従業員が数人の小さい会社なんだ。
ここに来て、彼女と一緒ならどんなに楽しかったかな、
なんて思いながらふらふらしていたら、
あのオバケがすっと近寄ってきて
「オカシヲクレタラ、アナタノセナカ、オシテアゲル」
って言うんだ。
心底ぎょっとしたよ。
だけど、何故かオバケの言葉が信用できた。
だから、――オバケが指定したこの店に来たんだ。
なんか読めてきたきがする
お菓子を食べてくれなかったんだね。
こんなにおいしいのに……
せっかく修行したのに……
もう一つもらえるかな。
ちゃんと味わってから、オバケの所に行きたいんだ。
お金はいいから、食べてくれ!
シャチョさん!
ありがとう
じゃあ……
(モグモグ)
これは……
なんて美味いんだ
これを食わずに俺は、
オバケにくれてやろうとしてたのか……
おいしいよね?
くやしいのわかるよね?
オレたちも、去年この街に移住してきて
カフェでパティシエの修行をしてるんだ。
シャチョさんと同じだね。
私は君たちの方を信用するよ
君たちの、このお菓子の力を借りて。
私はリアリストなんだ。
不確かなオバケのお守りよりも、
自分が信じたこの味を頼りに、彼女にアタックしたい。
それなら、許してくれるかい?
今夜ここに来てよかった。
また近いうちに会おう。
務めているカフェはどこにあるのかな?
なんでチラシあげたの?
テレビでみたことある。
びじねすまんってやつが交換してるやつだけど、
字がいっぱい書いてあるだけだな……
先輩が作ったチラシ、店の案内も書いてあったから
これ上げればいいかと思って
あー、地図とか書いてあるね
難しい字はあんまり読めないけど……
これで、シャチョさん、ちゃんとお店に来られるよね
シャチョさんスイーツ好きっぽいしな
チラシ全部配ったから戻ってきたわよ
大人買いってのしてった、です
それはそうと、オバケの件なんだけど……
一体誰なんだ
あんな売れ方したって嬉しくない……
二人のこの一年の努力の結晶が
このお菓子たちなのに……
ワタシ、オバケに文句言ってくる!!
私が買い出しに行ってる間に、
兄弟分が迷惑をかけてしまったみたいで
すまなかった。
もう察しはついてるかもしれないが、
犯人は、あいつだ。
悪気はなかったんだが……
なにせ、ニンゲン世界のことが不案内なのは皆同じ。
私がケジメをつけさせるので、どうか許してやって欲しい。
じゃあ、ちょっと行ってくる。
ください!
オバケのお守り目当て?
はやくちょうだい!
帰って。
まだいっぱいあるじゃんか
売ってよ!
いいから売れよ
ほら
あれはオバケが勝手にやったことで
こちらは迷惑してるの。
わかったら、お帰りなさい。
売れるなら問題ないじゃないですか
帰れ!!
なんか別のお菓子でも買えばいいよ
交換に使われるぐらいだから
もっと美味そうなの買っていこうぜ
おい、ニンゲン
聞き捨てならないことを言ったな
――なら、貴様のほうが美味いか食ってやる
た……すけて……
ツインテールが、ツインテールがユウトの首に!!!!
だすげて……
や、やばい……ごめ……うあああああ
な、なんで……二本じゃ……ぐええ
ニンゲンめ、己が行動のセキニンをとってもらうぞ
そんなことしたら
人間界にいられなくなるのよ!?
自分で立つことも難しくなり、触手に持ち上げられている者も。
そんなことでお前と一緒にいられなくなるのは
ゴメンだ!
あんたをバカにしたんだよ?
ニンゲンの分際で!!
そんなんちっせえことだよ。
だから、もう、いいんだ……
ホントにこの子たち死んじゃうわよ!
保護者だから仕方ないが
皆、意識は失ったままだ。
ここにいられない……
こいつは、こいつは俺のために!
むしろ、監督不行き届きで迷惑をかけたのは、
この私のほうなのだから。
ほら、お前も謝りなさい。
売れればいいと思ってて。
もらったお菓子、まだ食べてない。
これ、返すよ。
ゴースト先輩、例のお守り、まだあるか?
三つ欲しいんだけど。
パティシエの少年は、紙袋にお菓子とお守りを入れたセットを三つ作り、気絶したニンゲンの少年たちの傍らに置いた。
なんで!!
なんでこんなニンゲンなんかに!!
ニンゲンの世界だろ
――ニンゲンさんだろ?
まあ、ちょっとは魔族も神族もいるけどさ。
まだたくさんあります!
また来てくれて、うれしい!
だから、2個ちょうだい。
自分用とオバケ用にするから……
だから、お金は1つぶんでいいですよ。
お守り一緒に入れときますね。
あとお店のチラシも。
よかったら来てください。
……
なんだ、さいしょっから
こうすればよかったんじゃん。
安易に大丈夫だなんて言ってしまった
私の責任だ。
にもかかわらず、ここまで成長してくれて
私はとてもうれしいよ。
神様だもの。
(やべえ……かーちゃんだ)
(仮装してやがる……)
(ど、どうしよう、なんでここが分かったのかな)
(連れ戻されちゃうよお)
腕のいいパティシエさんの作った、
それはそれはおいしいお菓子があると聞いて。
(ガクガクブルブル)
去年、ふらっと家出したかと思えば、
遠くの街で菓子職人の修行をしていると風の便り。
元気にしているかしら、と今宵この街に来たのです。
息子さんには会えたんですか?
ご想像にお任せしますわ。
(もうダメだー……)
(店長呼んでくれ)
(ああ~どうしようどうしよう)
(こうなったら――)
きっと、みんな
おいしいって言ってくれると思うわ。
このお菓子。
来年も、買えます!!
また、来てください!!
ごきげんよう。
パティシエの少年は、大きなため息をつくと、その場にへたり込んでしまった。
ほら、立って。
なんか今夜はいろんなことがありすぎて、
正直もう疲れたよ。
もうちょっとがんばろ?
二人は店を畳むと、朝までアトラクションを楽しみましたとさ。
めでたし、めでたし。
そうそう、シャチョさんや、女の子たちのその後はまた別のお話ということで。
(了)
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