1 雨の夜に

文字数 364文字

ああっ、どうしよう……
 女子高生の由希乃は、バイト先の本屋の店先で途方に暮れていた。
 着替えて外に出ると夜更けの商店街は少し強めの雨が降っていた。
置き傘もないし……ゴミ袋でも被って帰るしかないかなあ
 諦めて店内に戻ろうとしたとき、背後から声がした。
これ、使って
 振り返ると、弁当屋の若い店員が、折りたたみ傘を自分に差し出していた。
 店から飛び出してきたのか、彼の体はあちこち濡れていた。
あ、お向かいの……いいんですか?
うん。他にも傘あるから。

女の子が濡れて帰るとかヤバいでしょ。ほら

 由希乃はおずおずと手を伸ばした。
あ、ありがとう、ございます。

これ、あとで乾かしてお返しします

いつでもいいよ。じゃ、気をつけて
 それだけ言うと、彼は小走りに弁当屋へと戻っていった。
 由希乃はぺこりとお辞儀をすると、男物の黒い折りたたみ傘を開いた。
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登場人物紹介

橘 由希乃(女子高生) 
商店街の本屋でバイトしている。内気だがすぐテンパり、暴走しやすい性格。
そのため、人見知りなのか強引なのか分からないと評される。

多島 勝也
本屋の向かいにある弁当屋でバイトしている若者。現在、資格試験の勉強中。
自分に自信がなく、つい素っ気ない態度を取って誤解されがち。

弁当屋の主人
勝也の叔父。妻と二人暮らし。気配を消すのが得意。子供がおらず、勝也を息子のように可愛がっている。イチオシのお惣菜は、チーズとちくわの磯辺揚げ。

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