12 お兄さんのこと

文字数 406文字

 翌日の夕方。
 勝也は由希乃の出勤時間を見計らって、店先の掃除を始めた。
(あ、由希乃ちゃん)
 目が合って、手を振ってみるが、由希乃は固い表情のまま会釈だけをして、店にそそくさと入っていってしまった。
(……どうすりゃよかったんだろ、俺)
 とぼとぼと店に戻ると、店長が声を掛けてきた。
おう、昨日はデートだったんだろ。ダメだったのかい?
まあ、ちょっと
結構脈あると思ってたんだけどな
あったよ。大あり。だけど……
なんだよ、何かあったのか?
弱ってるのに付け込むのも悪い気がして……遠慮したら、彼女を怒らせちゃったみたいでさ
ふーむ、そこまで落ち込んでるとも思えないんだがなあ
だって、彼女のお兄さんが亡くなったのは、もう二年も前だぞ
え!? そんなに経ってるの?
あー、言ってなかったけぇ?
言ってないよ。わりと最近かと思ってた
わりいわりい、じゃ、俺仕込みしてっから
んだよそれ……
 バツが悪くなった店長は、厨房へと引っ込んでしまった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

橘 由希乃(女子高生) 
商店街の本屋でバイトしている。内気だがすぐテンパり、暴走しやすい性格。
そのため、人見知りなのか強引なのか分からないと評される。

多島 勝也
本屋の向かいにある弁当屋でバイトしている若者。現在、資格試験の勉強中。
自分に自信がなく、つい素っ気ない態度を取って誤解されがち。

弁当屋の主人
勝也の叔父。妻と二人暮らし。気配を消すのが得意。子供がおらず、勝也を息子のように可愛がっている。イチオシのお惣菜は、チーズとちくわの磯辺揚げ。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色