10 バイトの理由

文字数 551文字

 ひとしきりイベントを堪能した二人は、会場を後にした。
こんなに楽しいの、久しぶりです
そっか、そりゃ良かった
兄が亡くなってから家に閉じこもり気味だったし、最近になってもバイトしてたりで……あんまり友達と遊んだりしてないから
お兄さんのこと、うちの叔父さんから聞いたよ
え? そうなんですか
あと、お兄さんが亡くなったんでキミがバイトとか大変そうなんだなって、さ
私……家計が苦しくてバイトしてるわけじゃないんです
そうなの?
確かに、兄が家にお金を入れてはいましたけど、母も仕事してますから。でも、そのせいで母が家にいないことも多くて、一人で家にいると色々……
 由希乃は涙ぐんだ。
だから、好きな本屋さんでバイトでもすれば、気が紛れるかなって……
そっか。言いづらいこと、話してくれてありがとう
いいえ。あ、そうだ
ん?
こないだ、コンビニで答えられなかったこと……答えますね
 勝也は由希乃の肩に手を置いた。
だから……言いたくないことなら、ムリに言わなくてもいいんだ
 由希乃は小さく頭を振った。
そうじゃなくて。
前に傘を貸してくれたこと、ありましたよね
あの晩は結構な降りだったし、さすがに見過ごせる状況じゃあなかったからな
私、あんまり兄以外の男の人から優しくしてもらったことないんで……その……
(――え?)
 勝也はドキリとした。
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登場人物紹介

橘 由希乃(女子高生) 
商店街の本屋でバイトしている。内気だがすぐテンパり、暴走しやすい性格。
そのため、人見知りなのか強引なのか分からないと評される。

多島 勝也
本屋の向かいにある弁当屋でバイトしている若者。現在、資格試験の勉強中。
自分に自信がなく、つい素っ気ない態度を取って誤解されがち。

弁当屋の主人
勝也の叔父。妻と二人暮らし。気配を消すのが得意。子供がおらず、勝也を息子のように可愛がっている。イチオシのお惣菜は、チーズとちくわの磯辺揚げ。

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