2 ひとりの夜
文字数 497文字
由希乃が自宅に戻ると、母親はまだ帰宅していなかった。
玄関で部屋を明かりを点けながら、由希乃はひとりごちた。
彼女の家庭は母子家庭で、現在は働く母と二人暮らし。しばらく前までは兄も同居していたのだが――。
家に一人でいると、兄のことを思い出してしまう。
だから、バイトを始めたのに。
あんまり効果ないなあ、と由希乃は思った。
だから、バイトを始めたのに。
あんまり効果ないなあ、と由希乃は思った。
由希乃は風呂の湯船に浸かりながら、向かいの弁当屋で働く若者のことを考えていた。
見た目大学生ぐらいの彼は、本屋で働き始めた数ヶ月前にはすでに弁当屋にいた。道の細い商店街なので、お互い顔を合わせることも一度や二度ではなかった。
しかし、由希乃にとっては、ドアの向こう側に見える、ただの書き割り。その中に立っているその他大勢の一人であって、どこの誰かなんて、まったく知らなかった。
今まで風景の一部だった存在が、今夜いきなり、自分に接触してきたのだ。
――気にならないわけがなかった。
見た目大学生ぐらいの彼は、本屋で働き始めた数ヶ月前にはすでに弁当屋にいた。道の細い商店街なので、お互い顔を合わせることも一度や二度ではなかった。
しかし、由希乃にとっては、ドアの向こう側に見える、ただの書き割り。その中に立っているその他大勢の一人であって、どこの誰かなんて、まったく知らなかった。
今まで風景の一部だった存在が、今夜いきなり、自分に接触してきたのだ。
――気にならないわけがなかった。
本、好きなら、いいな。