にじゅういち

文字数 453文字

「いらっしゃいませぇえ~」

 店の敷居を一歩跨いだ瞬間、複数の声が俺を迎え入れてくれる。

 久し振りに入ると、何だか不思議と温かく包まれている感じがする。
 一人の店員が、両手で襟元を正しながらスタスタと歩み寄ってきた。

「何かお探しですか?」

「初デートに向けてオシャレな服を買いたくて」

「アウター、インナー、パンツ新作入っていますよ。どういったものをお探しでしょうか?」

 このサバサバとした隙のない接客は、一年前と全く変わらない。

 彼はもう俺のことを忘れているだろうが、俺の記憶にはしっかりと刻まれている。

「この店で一番、僕に似合いそうなアウターはありますか?」

「そうしましたらですね・・・」

 相変わらず最短距離で素早く移動して、一つのカーディガンを手に取った。

 そして、俺の胸の前にドンと掲げられた。



 それはまるで、地平線から大地を照らす朝陽のように眩しく、真っ赤に輝いていた。



お客様でしたら、こちらが一番お似合いだと思います」

 鰐渕さんはいたずらにニヤリと笑い、俺もまた、ニヤリと笑った。
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