いち

文字数 464文字

 人は何かにお金を使うとき、支払った金額と同等もしくはそれ以上の対価を求める。1杯380円の牛丼、1時間5千円のマッサージ、1台200万円の高級車。価格は違えど、それぞれに相応の対価がある。財布からお金が出ていっても、その分の対価を享受することができれば良い。そして、享受できる満足感を支払い前にイメージできれば、人は喜んでお金を出すのである。

 俺もそのはずだった。この服を着れば人生が180度変わる。きっと、今では想像できないような薔薇色の未来が待っている。そう思ったからこそ高いお金を出したのだ。

 カーペットの上に置かれた藍色の硬い紙袋から、ゆっくりとそれを取り出してみる。鮮やかで燃えるような赤いカーディガンだ。袖を通してスタンドミラーを見れば、先程までとは全く違う自分が映っている。
 なんと言っても色が良い。生地の感じも、デザインもバッチリだ。『似合わない』なんてことは、決してない。正直2万円の出費は少々痛かったが、満足だ。


 いや、満足のはずだった。


 鏡を見ているうちに、


 俺はだんだん腹が立ってきた。
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