第105話 堀田邸 鷺山殿の部屋(1)

文字数 574文字

 豪壮な堀田邸は、夕日を浴びると、威容が際立った。

 屋敷へ小姓達が帰ると、一気に賑やかになる。
鷺山殿の侍女達も相当に居るのだが、粛々としている。
 小姓達は長旅、遠泳と、体力を使い切っているはずが、
少し浜辺で仮眠した後は、
旅先での浮かれた気分で興奮が収まらず、
部屋で相撲を取ったり、庭の松の木によじ登ったり、
庭園を駆け回ったり、はしゃぎまわっている。

 夕餉になればなったで、
団子や菓子を茶店で存分に食べたはずだったのに、
ふんだんに供される海の幸に皆、大喜びで、

 「御方様の津島参り、いつもお供したいなあ」

 「小姓より侍女の方が良いな!」

 等など、調子の良いことを言ってみたりする。

 仙千代は食後に顔を出すように信重から言われていたが、
若侍がやってきて、何と鷺山殿がお呼びだと言う。
 取次の若侍に、

 「仙千代、お叱りを受けるようなこと、何かしたのか?」

 と慮られる始末で、仙千代自身、

 「御方様が何故?」

 と驚くしかなかった。
 信重に侍っていれば、鷺山殿とは顔を合わせ、
談笑の機会もあったりしたが、
敢えて名指しで呼ばれることは今までなかった。

 鷺山殿の部屋は信重の部屋と中庭を挟んで真向いにあり、
信重同様、豪華な客間となっていた。

 許可を得て入ると、何ともいえない福々しい香りが漂い、
女人の居室だなぁと思う。
養母(はは)や姉達の部屋もいつも良い香りがした。

 




 
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