第3話 男子VS女子

文字数 1,523文字

 緊急の放送が終わるや否や、男子たちが次々と不満を漏らし始めた。

「先生の指示に従えって言っても、肝心の担任がいないんですけど」

「あーあ、早く帰ってテレビで夕方ワンワン観たかったのに」

「うるさいな、今はそれどころじゃないでしょ?」

 女子も負けじと、男子にむかって文句を言った。

「うるさいのはどっちだよ。雷くらいで悲鳴上げやがって」

「なんですって?」

 先陣を切って騒ぐ見崎くんが女子を敵に回し、戦争勃発の空気が漂った。

「全員、席に戻ってください!」

 一触即発の危機を察したのか、藤咲さんがみんなにむかって指示を出した。女子はすぐに従ったけど、見崎くんと数名の男子は動こうとしなかった。僕と染川くんは自分の席に戻り、この緊迫した状況を見守ることにした。

「別にいいじゃん。担任が来るまでは自由時間だろ?」

 見崎くんに挑発され、藤咲さんが「いいから席に戻って!」と大きな声を出す。

「委員長の方がうるせーし!」

「ひっこめ藤咲!」

「委員長だからっていい気になるなよ!」

 待っていましたとばかりに、他の男子たちも一斉に口を開いた。

「な、なによ……」

 藤咲さんが容赦のない罵声に言葉を失うと、それまで読書をしていた紙山さんがスッと立ち上がり、見崎くんを睨みつけて言った。

「ちょっと見崎くん、いい加減にしなよ!」

「うるせーな、紙山はすっこんでろよ」

「これ以上騒いだら先生に云いつけるからね!」

 紙山さんが男子を相手にひとりで戦っている。彼女は実家が本屋の藤咲さんとは仲が良かったから、黙って見ていられなくなったのかもしれない。

 こうなったら放っておくわけにはいかない。そう思って奮起しようとした時、後方でガタンッと椅子が動く音がした。振り返ると原町くんが立っていた。

「見崎、いいから座れよ」

 原町くんが眼鏡を上げながら静かに言った。彼とは小学校からの付き合いだけど、こんな風に女子を庇うのは初めてかもしれなかった。

「原町、女子の味方すんのか?」

「読書の邪魔だって言ったんだ。無駄に声がでけぇんだよ」

 女子の味方と言われてカチンと来たのか、原町くんは見崎くんを睨みつけた。

「てめぇ、やんのか?」

 見崎くんがたちまち原町くんに詰め寄った。僕は咄嗟にマズイと感じて、後先考えることなく彼らの間に割って入った。

「待って待って、二人とも落ち着きなって!」

「あ?」

 すぐ目の前で見崎くんに凄まれた。この分だと最初に殴られるのは僕かもしれなかった。

「おいおい、雷くらいで大騒ぎすんなよなぁ」

 でもその時、自分の席でデビルマスクを読んでいた染川くんが顔を上げて、この険悪なムードを一変させた。

「何だよ、最初に騒いでたのは染川だろ?」

 彼の手のひら返しに拍子抜けしたのか、見崎くんが力なく抗議した。

「あれ、そうだっけ?」

 染川くんは気に留めない様子で、ふたたび漫画を読み始めた。

「んだよ、みんなクソ真面目だな」

 一気に敵が増えて分が悪いと思ったのか、見崎くんは渋々席に戻っていった。僕はほっと息をついて、持つべきは友だと心の中で感謝した。

「原町くん、助けてくれてありがとう」

 見ると、紙山さんと藤咲さんが原町くんの席の前にいた。原町くんは「助けてないし」と否定したけど、紙山さんの中で彼の株が上がったことは言うまでもなかった。

 数分後。担任の向井先生が職員会議から戻ってきて、すぐにホームルームが始まった。

 校内放送の通り、生徒は雨足が弱くなるまで下校禁止となり、僕たちは学校に閉じ込められることとなった。ただ体育祭が近かったから、生徒の多くは放課後も残って準備をする必要があった。

 ちなみに僕と原町くんは応援歌作りの担当で、替え歌と歌詞を書いたプラカードを作るのが目下の任務だった。









ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み