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文字数 1,533文字

『明日数学の小テストかー、今回の分野ちょっと苦手……』
 彼女のイメージからすると弱気な発言だな、と思った直後、その呟きは投稿されてからそこまで時間が経っているわけではないのに、反応が来た数がそこそこ多いということに気付いた。そういや、先日に彼女の投稿内容は見れた範囲で見させてもらったが、どんな人とどのくらい繋がっているのかまでは気にも留めていなかった。
 ……そもそも先日のツイート遡りの時点でプライバシーの侵害に大いに匹敵すると思うが、許してほしい。
 心の中でそう思いつつ、俺は彼女がフォローしている人、されている人を一通り覗いてみることにした。とは言っても、数が多いので一人ひとりをじっくり見ている暇はない。一覧で見れるプロフィールで判断していくしかなかった。
 しかし、ほとんどの人に同じアルファベットの略称が書かれていたり、略称が書かれていなくても自分のフォロワーがその人をフォローしている旨が表示されていたりする時点で、彼女の繋がりの大多数は同じ学校の人なのだと判明した。中高一貫だし、一学年の人数もそこそこ多い学校なので、その事実には頷くしかなかった。どうやら同学年の人がほとんどみたいだし、そういうことなのか。やはり、彼女がもう一つの顔を表に出すことはなさそうだった。
「やっぱり手がかりはなさそう、かぁ……」
 飽きるほど見た自校の略称やアイコンの楽しそうな写真をスクロールしながら諦めていたその時、パッと目に留まったアカウントがあった。名前は「澪」とある。IDから推測するに「ミオ」と読むのが正しそうだが。プロフィールは何も記載がなく、アイコンも真っ黒。これまでに流した彼女の繋がりの中で、明らかに異質なものだった。名前の横に鍵のマークは表示されていたが、そのままタップしてみる。
「……ん?」
 そのアカウントは、彼女がフォローされているのみで、他には何も繋がりがなかった。彼女がフォローしていることもない。ツイートの有無は分からないので、唯一の特徴とすれば、プロフィールのURL欄に何かのURLが貼られているのみ。変なサイトに飛ばないことを願いながら、恐る恐るリンクをタップしてみた。
「……あ、」
 これ、ブログだ。とにかく、変なサイトに飛ばされなかっただけ一安心だった。ブログのタイトルが順番にナンバリングされている辺り、そこそこの数の記事があるようで、更新頻度もまずますだ。平均して月に一度くらいは更新されていそうだった。最初から読んでみるくらいの時間はありそうだったので、「1」から順番に読んでみることにした。どうやら、二年ほど前の文章のようだった。
『誰かに言うわけにもいかないけど、自分の中で消すこともできない。せめてこうして文章にしてみたら、少しだけ気持ちが軽くなれる気がする。何でブログという形にしたのかは自分でもよく分からないけど、続けてみようかな。気が向く限り。』
 そんな書き出しから、澪の日記は始まっていた。どうやら、自分の気持ちを他人に言えない性格のようで、それを吐き出す唯一の場としてこのブログを書いているらしかった。それが二年後もこうして続いているのだから、当時の選択は正しかったんじゃなかろうかと思う。
 その後もいくつか読み進めていったが、予想通り、と言うべきか。原則として、明るい話題の話は出てこなかった。大概、現実の息苦しさにもがいている様子が窺える内容ばかりだった。こうして言葉にして吐き出すことで、この人はなんとか息をしていたのかもしれない。それは自分にはない感覚だったので共感はできなかったが、何故か読み飛ばすこともなく、順番に読んでいる自分がいた。
 その後「10」くらいまで読み進めた時、ふと引っかかった文章があった。
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