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文字数 1,534文字

『あぁ、それは物凄く簡単な理由。私の両親が死神に殺されたからよ』
 何でもないといったように、まるで昨晩の夕飯が何だったかを言うのと同じくらいのトーンで、彼女はそう言った。
『は……? いや、いやいや、ちょっと待て』
 彼女の口から真実が言葉となって現れてくる度に、俺の頭は混乱してゆく。それは決して、こういった話が聞きたくないからではない。本当に意味が分からないからだ。
『それはおかしい、だって、死神が死へ導いた人は自殺なり病死なり、不自然にならない死因で認識されるようになっている。そもそも死神の存在すら認識できないんだから、人間であるお前がまずそんなこと知れるはずがないんだよ』
『それは見えない人の場合の話でしょう、私はこの目で見てるもの』
『そもそもお前今、別に施設に入ってるわけでも何でも――』
『あら、自宅で暮らしている人が皆、実の家族だけだと思わないでほしいわね。今一緒にくらしてるのは里親にあたる人たち。殺されたのは血の繋がった生みの親。これで納得した?』
 話している内容と彼女の表情には大きな隔たりがある。本当に、何てことないといった顔をしてこんなことを話しているのだ。こいつは本当に、自分のことを殺したというのか。自分はもういないから、まるで他人事のようにこんなことを話せるのか。
『……お前、実の両親が殺されているのに、よく……』
『こんな平然としているな、って? そりゃそうよ。自分のことを捨てた人が死のうが殺されようが、金輪際関わってこなきゃ何だっていいもの。ただ、そんな人の血を引き継いでいることが忌々しいのは事実だけど。死神が見えることもそうだし』
『えっ?』
 自分で一旦飛ばしてしまった訊きたかったことを彼女の方から口にするとは思わず、目線が上がったのが自分でも分かった。それでも、彼女の表情は全く変わらなかった。何を見ているのか分からない、無表情のままだ。
『私の元の家系って代々、霊に纏わる仕事をしていたのよ。理屈はよく分からないけど、この血を引き継いだ者は皆、人間以外のものも見えるの。死神も霊と系統は似たようなものでしょう、生身の人間じゃないことは共通だし。だから私はあなたたちが見えるの』
『……でもお前、捨てられたって――』
『そうよ、ぎりぎり記憶が残っているくらいの幼い頃に私は捨てられた。あの人たちにとって大切なのはお互いの存在と仕事だけで、予定外にできた私のことなんてどうでもよかったみたいね。
 でもある日、“何か”に呼ばれて、かつて住んでいた家の方に呼び寄せられたの。そうしたら、元両親が斬り殺されているのをこの目で見ることになった。それが小学生半ばの頃の話』
 息が詰まりそうになった。先に彼女が結果を言っているから、これが俺たち死神の手によって引き起こされたことなのは分かっていた。それでもその死神が苦しく思うのも、実に滑稽な話だ。それを顔に出さないように耐えていると、彼女は引き続き口を開く。
『その時は何が何だか分からなかったし、正直、私も暫く経ったらそんなこと忘れてたの。そもそもあまり自分の親だったという認識がないし、酷いことされてきたのは事実だから、本能的に覚えていたくなかったのかもしれないわね。でも、そう。あれは、一か月くらいは前だったわね』
『一か月前?』
『出先から家に帰ろうとしていた時に、誰かに呼ばれたの。そしたらそこには明らかに人間じゃない“何か”がいて、その人が言ったのよ。“久しぶりだね、覚えているか”って。その時にあの時のことを思い出したし、あの時に殺した犯人はその死神だったということをその人から知らされた。そして、最後に言われたのよ。“もうすぐ、君の元にも死神がやってくる。殺されたいなら願うと良い”ってね』
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