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文字数 1,377文字

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『タツヤ、最終試験だ』
 俺、タツヤはお父様に呼び出され、この屋敷の中で最も大きな彼の部屋にてそう告げられた。俺は、人間界で俗に言われる「死神」の一族の血を引く子どもだった。そして父親はその死神の一族のトップに君臨している。因みに母親はおらず、俺が小さい頃に亡くなったと聞いている。そして俺には兄弟もいないので、俺は必然的に王の一人息子ということになる。
 死神の血を引き、一族であるからには、やはり完全に一人前の死神にならなければいけないという暗黙の了解がここには存在している。そして、一人前として認められるためにはいくつか突破しなければいけない試験があり、それが「『最終的に』人間を殺すこと」だ。これは「殺人を犯せ」ということではなく、対象を正当な方法で死に導くのが死神の役目であるから、それを行えということだ。
 今、彼が告げたように次の試験が「最終」なので、ここに至るまでにいくつも試験を超えてきているわけだが、特に人間という存在に何の興味も持っていない俺は、今までそれを難なくこなしてきた。
『最終試験ですか、お父様』
『あぁそうだ、タツヤ。お前が本当に死神になる覚悟があるかどうかを試させてもらう。いくら我が息子とはいえど、試験は皆平等。家族だからといって、試験免除という贔屓をするわけにはいかないからな』
 死神とはいえども、持っている身体は人間と同じ。要は存在方法の差でしかないので、人間になることも出来る俺たちは、ここで試験に落ちたら人間になる――即ち、一人前の死神になれる権利を剥奪される――というしきたりがあった。だから、もしここで不合格となれば、家族といえども俺はその場でこの父親と生き別れることになる。死神のしきたりとはそんなものだ。情だの何だの、そんなものが介入する余地など一切ない。全ては行動と結果だ。
『今回も必ずクリアしてみせますよ。寧ろ、家族という条件如きで贔屓など、この一族の名に響きます。一切無用です』
 俺はフッと笑いながらそう返答した。不合格になる気など一切なかったからだ。人間に興味なんてないのだから、人を殺めることの抵抗など皆無に等しい。そんな俺を見て同じく笑った父は、次の言葉を発した。
『では、肝心な試練の内容を伝えよう。今からお前には人間界で一週間程、人間の生活をしてもらう』
『はっ? お父様、それは――』
 どういう意味ですか、と言おうとしたが、彼の手のひらがスッと差し出されて遮られた。今まではターゲットに近付いてすぐに実行だったはずだ、こんな展開聞いてない。
『ひとまず最後まで聞け。一概に死神になるといっても、人間をきちんと理解しておくことが必要だ。そのためにも最終試験では一定期間、ターゲットの近くで生活してもらう。その上で指定された期間が過ぎた時、その人を殺すことができたら合格だ』
『……随分容易な内容なんですね、お父様』
 敢えて淡々と返事をしたつもりだったが、少しばかり力んでしまった。予想外の試験内容で、若干不服に思っていたのが表れてしまったようだ。しくじった、と思う。
『ほう、お前は随分強気じゃないか、タツヤ。期待してるぞ』
 他人の様子に目敏い彼はやはり力んだことに気付いたらしいが、だからといって咎めることはなく、ただただ太い声で笑っていた。その笑いが落ち着くと表情を元に戻し、試験の説明に戻った。
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