第21話 ホテル下53番街

文字数 1,645文字

ボクはしっていました。
ボクが死んじゃっているってコト。
みんなはしりません。
なんでだろう。
ボクはみんながわかりません。
ただ、ニコニコしてます。
うれしいのかな?
上には大きなホテルがあって、みんなはそこをホテルだって言ってるけど、あそこはボクたちを見張っているワルイ大人たちがいます。
大人たちのボスはしはいにんって呼ばれてるげど、ボクはしはいしゃだってわかっています。
しはいしゃは、ボク達を大人にしてくれると約束してくれました。
なりたい自分にさせてくれる約束を交わします。
そこに善悪の区別などは一切無く、まるで個々の宿命であるかの様な支配者の意識は悪魔そのものではないでしょうか。
私には判断がつきません。
人間の善悪についてなど、たった7年の生涯で判るはずがない。
この特区は入り口はあれど出口はなく、そんな世界で苦しむだけの毎日を送らねばならない。
これがなりたかった大人の姿なのか。
自分でも判らない。
ならばいっそ、私は私でなく、ボクのまんまでよかったっておもっています。

それは、ある夕方の、みんなでごはんを食べたあとのことでした。
たくさんのキレイな絵がかざってあるところには、びっくりするくらいの丸い大きなテーブルがあって、しはいしゃとボクと、みうちゃんとかいくんは、いつも座っているばしょにいました。
おなかいっぱいになって、だけど、まっ白なお皿にはチョコレートがあって、みんなでよろこんでいるとしはいしゃが言いました。

「君たちはこの街でたくさん良いことをしたね。だからご褒美をあげるよ」

って。
ボクたちはわるいことはしてないけど、よいことってなんだろ?
みうちゃんとかいくんとボクはキョトンとしました。しはいしゃは笑いながらしゃべってます。

「チョコレートさ。これを食べるとね、みんなが将来なりたかったオトナになれるんだよ。そして、ちょっとでも楽しい気分になれたら、また戻れるからね」

ボクはしってました。
みんなはボクをバカだっていってたけど、ボクはバカなんかじゃなくて、ふつうなんだってこと。
もどれるってのは、きっと生れかわるんだってこと。みうちゃんも、かいくんも、もうしんでじゃってるのをしらないから美味しそうにチョコレートをたべました。
おくちのまわりがまっくろで、おもしろかったです。
みうちゃんは、おいしそうにチョコレートをたべてました。もしゃもしゃと。
そして、こてんって、ねむっちゃったんです。
でもボクは、ゆめをみているみうちゃんのなかみが見えました。
どうしてかはわからないけど見えました。

すっごくひろいところで、みうちゃんはおねえさんたちのまんなかで、歌をうたいながらおどっていました、
みうちゃんもキレイなおねえさんになっていました。とてもキレイなおねえさんでした。
お客さんがたくさんいて、そのまんなかに、みうちゃんのおとうさんとおかあさんがいました。
ボクはおかしいなっておもいました。
だってみうちゃんは、おとうさんにたたかれてしんじゃったんだもん。
だって、おかあさんはそれを見ていただけなんだもん。
ボクにはわかりませんでした。

オトナはキライです。
だってこわいから。


かいくんはチョコレートがだいすきみたいです。
だからお皿の上のチョコレートを、かまずにずっとなめていました。
けれど、みうちゃんみたいにしばらくすると、こてんってねむってしまいました。
かいくんはカッコいユニフォームを着ていて、バットをかまえてました。
ビューンってとんでくるボールがバットに当たると、白い玉はお空にきえていまいました。
みんなはよろこんで、かいくんをおうえんしてくれています。
テレビをみながらはくしゅしているオトナは、かいくんのおかあさんでした。
またボクはふしぎになりました。
だってかいくんは、お熱をだしたときにおかあさんがなんにもしてくれなかったからしんじゃったんだもん。
わんわんないても、おかあさんはしらんぷりしてただけだったのに、なんかへんなのっておもいました。やっぱりオトナはキライです。
だって、わかんないもん。
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