第13話 導き

文字数 1,822文字

 すべてが終了すると、何をしていれば良いのかサッパリ分からない。
 とりあえず親族や親しかった親戚、友人、そして職場にも出掛けて行ったが、やはり自分は認識されないし声も届かない。
 更には、次々と心で想っていることが伝わってきて苦痛だった。
 こんな苦痛で、淋しく、孤独な日々は本当に辛かった……



 そして1週間が経過したある日のこと、
 突然すーっと目の前に、とうの昔に亡くなった父方・母方の祖父母4人が現れた。
「お! 爺さんと婆さんじゃないか。自分が見えるのか? 爺さんたちは、結構昔に死んだはずだよな?」
 と問いかけると、
 母方の爺さんが、
「見えるとも。そして俺たちはとっくに死んでいるよ」
 と平然と答えてきた。
 そして、
「お前を迎えに来たのだよ。勇輝や、信じられないのも無理はないが、お前はあの時に死んだのだよ。残念だが、助からなかったのだ」
 と告げてきた!
「なに言ってるんだ。冗談でも言って良いことと悪いことがある! 自分は生きているよ。証拠にこの身体がまだ動くじゃないか!! ちゃんと足も付いていて歩けるぞ。幽霊みたいに足はヒラヒラしてない!」
 と反論する。

 すると、
「勇輝、お前は病気で倒れてから1回でも食事をしたのか?」
 と聞いてくる。
「ん? んん? そういえば、何も食べていないな」
 と今更ながら気づかされた。

 続けざまに、
「では、鏡で姿を確認したことはあるのか?」
 と聞いてきた。
 これも一度も意識していなかったので、改めて鏡の前に立ってみた。
『!!』
 すると鏡には自分の姿が映らなかった!

 更に、
「自分の体に触れてみなさい」
 と言ってくる。
「そんなの今までだって、何度も自分の身体くらい触ってるよ」
 と身体に触りながら、言い返した。
 すると、
「そうじゃない。もっと手を身体の中に押し込むのだ」
 と指示してくるのだ。
「もう、なんなんだよ」
 と言いながらもその通りにすると、手は身体をすり抜けてしまったのだ!!
 思わず言葉を失った。

『今までも何回か死んだのかもとは思ったが、これは有り得ない。やっぱり、周りの冗談ではなく事実として受け入れるしかないのか』
 と思っていると、感情を読まれたのか、
「どうやら、理解したみたいだな」
 と言ってきた。
「無念だと思うが、諦めて着いてきなさい」
 と言うので渋々、後を追っていくことにした。
「本当は49日間、地上に居てお世話になった方々にご挨拶に伺って良いことになっているが、勇輝の場合は居ても仕方なかろう」
 とまで言われてしまった。

 後について行くと、
「まだ勇輝は、自分の死を受け入れるのが早い方で助かった。過去世で懸命に勉強したかいがあったな」
 そして、母方の婆さんが、
「全然耳を傾けない人や最後まで説得に応じなくて、天使様や菩薩様にお願いしなくてはいけない場合もあるの」
「それでも全く認めない人が本当に多いのが現状なのよ。困っちゃうわよね」
 と言ってきた。
 次に父方の爺さんが、
「しかし勇輝は、今世は有能さだけ発揮して、後はなーんも発揮しなかったな。逆に悪智慧だらけで酷い有様じゃったわい」
 と悪態をついてきた。

「過去世? 何だそりゃ? 話には聞くが本当にあるのか? まぁ死んだことは、恵やおやじとおふくろがさ、あんなに悲しんでいたし、自分のお通夜や葬式まで見させられれば『自分は死んだんだな』とは嫌でも思うよ」

 すると父方の婆さんが、
「過去世はあるのよ。あとそのために、お通夜やご葬儀があるの。お別れ会という意味合いもあるけどね。
 儀式の本当の目的はね、
 お通夜は、肉体と精神()が1日経過して分離するのを待つため、
 ご葬儀は、本人に死んだ事実を自覚させるためなのよ」
 そう説明してくれた。
「ふ~ん。そんな意味があったんだな」
 と、ちょっと関心しながら答えた。

 すると母方の婆さんが、
「しかし恵さんは、今世のお前には勿体ないお嫁さんだったわね」
 と言うと、
 父方の爺さんが、
「まったくじゃわい。次に地上に生まれる時は、わしのお嫁さんになってもらおうかの~」
 と笑っていた。
 正直、かなりムカッとした。独占欲か。

 父方の爺さんは、続いて、
「地上の仏教も肝心な教えの部分が抜け落ちて単なる1分野として学問化し、形式だけ続ける葬式仏教にまで落ち込んでしまったのもあるがな」
「長い年月で形骸化してしまったんじゃ。まっこと嘆かわしい」
 と、ぼやいていた。

 そんな会話をしていると、やがて目の前に川が現れた。
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