第6話 学級委員

文字数 2,025文字

 白藤勇輝(しらふじゆうき)は、小学5年生の春を迎えた。
 成績は、いつもクラスのTOPをとっていた。
 学年順位は発表されないから分からないけど、最上位グループにいるのは、まず間違いない。
 毎日、一生懸命に取り組んだ予習・復習の結果だ。
 その分、努力してる。
 努力した分だけ、その結果が出るから勉強は楽しい。

 お父さんの(いさむ)が、勉強の仕方のコツやイメージ化して覚えること、ノートの書き方など、様々なテクニックを教えてくれたのも大きかったとは理解してる。
 でも親なんだから、そう教えるのは普通のことだし、どの家庭でも教わってると思っていたから、特に恩は感じなかった。

 また、学級委員を常連で務めてた。
 1年生の1学期から4年生の3学期まで、ずっと務めてた。
 他の学校は、学年で一度なったら他の期は就任できない取り決めがあるそうだけど、この学校には、そうした決まりはない。
 今まで何もしなくても勝手に投票され、ごく自然に学級委員に就任してた。
 自分は、ルックスに自信がある。
 女子たちから、モテていると自覚もしてる。
 そして成績もよく、学校で問題を起こしたこともない。
 だから学級委員になるのは自然であって、当然だと思ってた。

 だがこの春、一大事が起きた。
 5年生の1学期の学級委員を決めるときに、予想もしなかったんだけど手を挙げて立候補した男子が現れた。
 担任が、
「おぉ! やる気のある子だな。他には、いないか?」
 と聞いてた。

 自分は、それでも、
『みんなは、絶対に奴なんかに手を挙げない』
 と信じてた。
 なんと言っても、このクラスには自分がいるんだからさ!

 しかし、予想と違ってクラスのみんなは立候補した奴に賛成の手を挙げていた!
 愕然(あぜん)とした、プライドを傷つけられた。
 胸のあたりがチクチク痛い。
 屈辱だった。
 クラスのみんなに、裏切られたと思った。

 だけど決まってしまったから、今更どうしようもない。
 忍辱(にんにく)に耐え、なんとか我慢した。
 その日は帰宅後、自室で大暴れした。
「チキショー! あのヤローー、絶対に許さねぇーーー」
 と叫んだ。
 机の上のものも、みんな壁に投げつけた。
 色々なものが散乱した音がしたから、お母さんの(あかね)がびっくりして部屋に飛び込んできた。

(ゆう)ちゃん、どうしたの? 何があったの?」
 と心配してくれた。

 学校であったことをぜんぶ説明したけど、お母さんの答えは、
「それは、立候補した彼が偉いのよ」
「僕がこのクラスを責任をもってまとめます! と意思表明したのよ」
「勇ちゃんは、立候補しなかったのでしょ? それは仕方ないわよ」
 と言ってきた!

 自分の絶対の味方だと思っていたお母さんにも裏切られた気がした。
 お母さんは優しく抱きしめてくれたけど、
「この裏切り者! お前なんか理解者じゃない」
「自分のことは、全部解ってくれていると思ってたけど違ったんだ」
 心の中でそう思い、そして悟った。

 その夜、食事のときにお父さんにも同じことを話したけど、お父さんもお母さんと同じ意見だった。
『もう、こんな親なんて信用しない!』
 そう誓った。

 悔しい毎日が続いた。
 クラスのみんなも、なんにも文句も言わず奴を認めていた。
『このままでは、2学期以降も奴が学級委員になってしまう!』
 と危機感が湧いてきた。

 そう思いながらも、屈辱に耐え過ごしてた。
『成績の1位だけは、絶対に譲らねぇぞ!』
 と思い、勉強は手を抜かなかった。

 でも、転機は突然訪れた!
 ある日、クラスのみんなが下校した後、忘れ物をしたことに気づいたから学校に引き返したときだ。
 思わぬものを目撃した。
 それは、奴がある女子の笛を舐めていたんだ!

『こ、この変態野郎!』
 と腹が立ったけど、
『いや? 違う! これはチャンスだ!』
 思わず、携帯電話(ガラケーだったが)を取り出し写真に撮った。
 奴も写真を撮られたことに気づいてない。
『ラッキー♪ 偶然だけど、すっげー良いものが手に入ったぜ』
 その日は、もう忘れ物なんてどーでもよくなって、こっそり帰宅した。
『まぁ、宿題を持ってくるのを忘れた訳じゃないから、明日でいいや』
 と思ったのもあるけどね。

 翌日の放課後、その笛の持ち主である女子をこっそり呼び出した。
 そして、
「誰に聞いたかは、絶対に秘密にしてよ。いい?」
 と確認し、
「わかった。誰にも言わないから教えて」
 の返事をもらったあと、あの写真を見せつけた。
「!!」
 その女子は、思わず手で口を押え驚愕(きょうがく)した。
 当たり前の反応だ。
「白藤くん、教えてくれてありがとう」
 とお礼を言って、彼女は足早に去っていった。

 その翌日から、奴はクラス全員からの信頼を失った。
『ハハハハハハ! やったぜ! 自業自得だ!!』
 と大喜びした。

 当然のことながら、2学期からは自分が学級委員になった。
『もう二度と、この看板は譲らないぞ!』
 と心に固く誓った。

 余談だが、後ほど一部の男子たちにも身に覚えがあったらしく、奴はイジメにあったり孤立することはなかった。
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