第9話 喪失感と渇望

文字数 1,622文字

 旅行から帰っても、心に穴が空いた感覚が無くならない。
 美登里さんのことが、正直忘れられないのだ。
 喪失感を抱えつつも、日付は進み高校の入学式を迎えた。
 いよいよ高校生活がスタートしたのだ。

 クラス編成も終わり、各自の自己紹介が始まる。
「白藤勇輝です。関東中央中学から来ました。皆さん、よろしくお願いします」
 と定番の挨拶をした。
 すると、担任が、
「おぉ! 受験を優秀な成績で合格したというのは君だったのか」
 と言ったのだ。
 一斉に「おー!」と言う声と共に注目された。
 女子からは、別の視線も感じた。
 その効果もあったのか、前期の室長に就任できた。
 心の中で、
『やりぃー。楽に、室長就任を果たせたぞ!』
 と名誉欲を満足させていた。
 これで、あの忌まわしき小学5年の1学期以外は全てクラス委員長の座に就いたことになる。



 流石にあの日本一の大学を目指す生徒が集まる超進学校だ。
 授業の難易度が高い。
 美登里さんのことを一刻でも忘れられるため、勉強に打ち込んだ。



 1ヶ月ほどし、ゴールデンウイークに入った。
 初日の朝に、自分の携帯電話が鳴った。
 出てみると、どう電話番号を知ったのか分からないが中学が一緒の女子からだった。

 名前を聞くと、
『あぁ、あの、結構可愛い子だったな』
 と頭に顔が浮かんだ。

「会って欲しいの。ハッキリ言うとデートして下さい」
 と言ってきた。

 心の空白を、埋めれるかも知れないと思いOKした。
 早速、支度をして待ち合わせの場所に向かった。

 相手も丁度、来たところで同時に着いたという感じだ。
 その後、映画館に行き、食事もし、ウィンドショッピングを楽しむと夕方になっていた。
 彼女の誘導なのか、広い公園に来ていた。
 2人で公園のベンチに座って、話をしていると、意を決した感じがしたと思ったら、キスされていることに気づいた。
 驚いたが、こちらも攻めに出た。
 彼女を公園の人気のない奥へ連れて行き、押し倒した。
 彼女も抵抗しない、そのまま身を預けてくる。
 そして色欲の赴くまま情事を重ねた。

 次の日も会うことになったが今度は彼女の家に案内された。
 待ち合わせ場所から彼女の家に向かう道中で、両親は夜まで不在だと教えてきた。
 途中でコンビニに寄り避妊用のゴムを買った。
 その後は当然のように情事を重ねた。

 彼女の家から帰ったその夜に、また携帯電話が鳴った。
出てみると、また同じ中学の女子で、
「同じ高校で出会って、友達になった子がね。卒業アルバムを見て白藤くんを紹介して欲しいって頼まれたの。明日会ってあげて、デートしてあげてくれないかな?」
 と言ってきた。

『しかし、自分の携帯番号はどこから漏れたのやら……まぁ男子の数人には教えていたので、そこから漏れたのだろう』
 と思った。

 OKをして、翌日待ち合わせの場所に行くと、2人が待っていた。
 同級生が、高校の友人を自分に紹介すると、
「じゃあ、頑張ってね!」
 と言って帰っていった。

 2人になってデートをしていると、積極的にアプローチしてくる。
 悪い気はしないので、乗ってやっていた。
 すると夕方前には、彼女の家に案内された。
 少し田舎らしく敷地の広い家で、離れがあった。
 彼女の部屋は、その離れだそうだ。
 部屋に入ると、
「私、まだ未経験だから経験したいの」
 と誘ってきたのだ。
『こんなあっさりと身体を許すものなのか?』
 呆れたが、そのまま頂くことにした。
『なんて、ちょろいんだ! 勝手に女子から自分に寄って来る』
 そして、心の空白が埋まる錯覚がした。

 そんな日がその後も、()()()()()()()()()()のだ。
 そのため、女性に対しての感情が薄くなっていった。

 不幸なことに勇輝は、思い出せなかった。
 美登里さんが失恋で傷ついていたことを、いや無意識に考えるのを避けていた。
 最初は、心の虚しさを埋めるために女性を抱いていたが、そのうち女性のことを色欲を満たす存在としか見えなくなってしまっていた。
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