第15話 照魔の鏡

文字数 1,216文字

 怒鳴っていても一切反応はなく、虚しさがつのるだけだった。
 そのため、綺麗な花が咲き誇る1本道を歩き出した。
『いい香りもするし綺麗な花だな。しかし道は、この1本しかないのか……これを進めってことか?』
 ずっと歩いていても疲れないし、お腹は空かない、喉も渇かない、眠くもならないし、日も暮れないのは不思議だが、すでに体感では1週間ほど歩きずめだ。



「いつまで歩けばいいんだ。これ」
 とぶちぶちと愚痴がこぼれる。
 しばらく歩き続けると、やっと目の前に立派な役所のような建物が見えてきた。
『やっとかよ。さっさと行こう』
 と思い駆け足になった。

 到着すると思ったより大きな建物だった。観音開きの扉もかなり大きい。
 早々、『扉を開こう』と()()()ら自動的に開いた。
『観音開きの自動扉か。珍しいな』

 早速、中に入ると受付の綺麗な女性が近寄ってきた。
「白藤勇輝さんですね」
「そうだけど、よくわかったね」
 と爽やか笑顔で返事をすると、
「お待ちしておりました。準備はできていますので、9階の912号室に行って下さい」
 と案内されたので、早速912号室に向かった。
『ちゃんとエレベータまであるんだな。あまり地上と変わらないなー』
 と思った。

 部屋の中に入ると、まるでコンサートホールのようだった。
 観客席が2階席のように高くて後ろから3分の1くらいしかなく、1番前の中央だけ丸く出っ張っており、そこには特別な一つの座席が見えた。
 ホールの中央には、とても大きな横長の楕円形の鏡が蓮の花の形をした台座に乗っていた。

 すると若い男性が近寄ってきて、
「1番前中央の特等席に座って下さい」
 と言うので、その通りに座った。
 後方の観客席を見ると、先ほどの祖父母が座っていた。
『なんだ。ここに居たのか』
 他には、先に亡くなった親戚や恩師に先輩、友人、知人などが座っていた。
『挨拶でもしておくか』
 と思った矢先、大きな鏡が光り始めた。
『何が始まるんだ?』
 と観ていると、内容はナントびっくり!!
 “自分の産まれてから死ぬまでの人生”が映し出されていたのだ。

『ま……まじかよ。嫌だ! 冗談じゃない、やめてくれーーー』
 と思うが、どんどん進んでいく。
 これは例えていうならば映画だ。
 しかも、最悪なことに自分の言動以外にも心の中での汚い想い(本音)もセリフ化されていた!

 懸命に勉強に打ち込み有名大学に合格したシーンでは、観客席から拍手が起きた。
『ふふーん。そうだろう。勉強は真剣に努力したからな』
 と鼻が高くなった。
 しかし他には、ほぼガッカリ感や、
『なんてことを……』
 と悲しみと批判が、その都度伝わってきた。
『最悪だ。何が楽しくて、こんなのを見せつけるんだ! 嫌味かよ』

 2時間ほどすると、凝縮された人生劇場がやっと終わった。
 大恥もいいところだ。
『屈辱過ぎる』
「こんなの観せて、何が楽しんだ!!」
 と怒鳴った。
 しばらくすると落ち着いてきて、無力感で全身脱力状態になった。
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