第10話 急死

文字数 1,281文字

 1ヶ月が経過した頃、自宅で1人寛いでいると正午過ぎに突然の激しい頭痛に襲われた。
 激痛に耐えれず、ドサっと床に倒れた。
『恵は勇真を連れて実家に遊びに行っているため夕方まで帰らない。これはマジで……非常にまずい』
 と思うが、身体を動かすことも出来ず救急車も呼べないなか、とうとう意識を失った。



 勇輝が目を覚ますと、視点が高いことに気づく。
『なんだこりゃ』
 と思い周りを確認すると、斜め下のベッドに遺体が横たわっており、顔には白い布が掛けられているのが見えた。
 何故だか、その遺体は自分だと分かる。
 思わず廊下に出てみて、部屋の扉の上を確認すると“霊安室”と書かれていた。
 全身に衝撃が走った。
 しかし自分自身を確認してみても、ちゃんと身体が見える。
 足もしっかりと付いている。
 身体を触ってみても、触った感覚がある。
 思わず、
「ふざけるな! 生きている人間を霊安室に寝かせるなんて、冗談じゃ済まないぞ」
 と叫んだ。
 腹が立って仕方ないが、周りには誰もいないし病院関係者からも反応がない。
『何が何だかサッパリ状況が理解できない!』

 病院内を動き回るが、誰も自分のことを気にもしない。
 受付やナースセンターで、問いかけても無視される。
 イライラが募ってきたところに妻の恵が、入り口の方からコチラに歩いてくるのが見えた。
 目が赤く腫れており表情からとても落ち込んでいて、憔悴しているのが分かる。
 早速、近づき
「恵、状況を説明してくれよ」
 と話かけるが恵まで自分を認識しないし、声にも反応しない。
「お前まで無視かよ!」
 大声で怒鳴ったが、それでも無視された。

 恵についていくと、そのまま霊安室に行きついた。
 一緒に中に入ると、恵は遺体にかぶさり、
「勇輝さん。ごめんなさい。私が自宅に居れば発見が早くて助かったかも知れなかったのに!」
 と泣きじゃくったのだ。
『え? 何て言った? 自分は助からなかった。と言ったのか? 自分は死んだと言うのか? いや。身体はあるし動ける。話もできるし考えることもできる』
 余計に混乱してきた。

 恵に再度話かけてみる。
「なに言ってるんだ。自分は生きてるって。冗談はよせよ」
 しかし、反応はなく泣き続けている。

 心を落ち着けて冷静に状況を確認してみることにした。
 1.自分は生きているのに、死んだことになっている。
 2.誰もが、自分を見ても認識しない。
 3.声をかけても、誰も反応しない。
 まるで、見えておらず声も聞こえていないとしか考えられない。
 それでも、やっぱり状況が理解できない。

 今度は恵から、声を発した感じとは違ったかたちで意思が伝わってきた。
『あなたが色々な女性と遊んでいるのは知っていたけど、それでもちゃんと私の元に帰って来てくれていた。心から愛していたのに! 一時は別れようと考えたけれど、勇真もいるし本当の父親と過ごさせてあげたかったら止めたのよ』
 と……
 浮気がバレていたことに驚いた。
『分からないようにうまくやっていたのに、気づいていたのか! それでも我慢して気づかないふりをしていたのか……』
 少し罪悪感が出てきた。
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