第14話 三途の川

文字数 875文字

『これが世に言う三途の川ってやつか?』
 と感じたが、いつの間にか祖父母の姿は消えていた。
 探すと、川の対岸に居て、
「勇輝~~~、こちらに渡ってこーい!」
 と聞こえてきた。
『いつの間に、移動したんだ? よくあんなに遠いところから声が届くな。元気な爺さんだ』

 川は幅1km以上あり、しかも深く、流れも速い。
「これを泳いで渡るのかよ。冗談キツイぜ」
 ふと川岸を見ると、遊びで付き合った女性との間にでき無理やり中絶させたはずの赤ちゃんが幼児の姿にまで成長していて、黙々と石を積み上げているのを発見した。
 不思議だが何故か自分の子供だと分かる。驚いた。
 流石に、このまま放っては置けないので一緒に連れて行こうと、
「おーい。自分が父親なんだ。今からこの川を渡るから一緒に行こう」
 と声をかけた。
 しかし、まったく声に反応しない。
 しばらく声をかけ続けるが心を閉ざしているようで、ただ黙々と石を積み上げているばかり。
『目が死んでるな……、こりゃ無理だ』
「参ったなー」
 と更に何度か語りかけるが、すべて無駄に終わった。

「もう知らねーぞ」
 と諦めて1人で川を渡ろうとすると川底に生きていた時の名刺や貯金通帳にお金、そして自慢の腕時計、指輪などの貴金属類が沈んでいるが見えた。
「お! これは、俺の物だ!」
 と必死になって拾うのだが、何故か手は届くのにすり抜けてしまうため拾うことが出来ない。
 何度も何度も拾おうと懸命になるが、いつまで経っても触れることすらできない。
 とうとう諦めて川を渡ることにした。
『チキショー。勿体ねーーー』

 流されながら溺れながらも必死になって渡りきると、ずぶ濡れ状態の酷い有り様だ。
『うえ~。格好悪りー』
 周りを見ると祖父母の姿はどこにもない。
「呼んでおいて居なくなるなんて薄情じゃないか!」
 と腹が立った。

 ふと川を見返すと舟に乗って渡ってくる老人が見えた。
『なんだそりゃ?』
「何故、自分には舟が来なかったんだ! 不公平じゃないか!! 自分は天下の加藤中商社(かとなかしょうしゃ)の役員だぞ。舟を呼ぶくらいの金はあるんだ!」
 と怒鳴ったが虚しく声が響くだけだった。
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