第14話 楽園
文字数 2,901文字
離宮は今や美しく改装されて、そればかりではなくほっとする人の暮らしが感じられた。
家令の
山のようにお菓子や果物を持ってくるのは、子供達の為。
「雪ちゃん、
大きな包みを見せる。
ほんの少し
「きれい。すてき、いいわね」
現在建設中の大聖堂のステンドガラスの飾り窓を
その周りに、母が彫り出した美しいアラベスク模様の彫刻を設置しようと考えていたのだ。
「これがあと6つ欲しいの。ママ、間に合いそう?」
「どうなのかしらね?今は
「これは私から。ほら、ぶどう畑を買ったじゃない?近くに新しい鉱山を見つけてね。先月行って来たの」
言いながら、まだ原石の巨大なルビーを見せる。
これでは確かに、
すぐに、足音がして
「春おばあたま!」
「チビ春!あんたは仔馬のような足音ね。まあ、これなあに?ひょうたん?」
春北斗が手に持っているものを見せた。
「カボチャよ。お夕飯に食べるの」
変でしょ、と残雪が笑った。
かぼちゃと言えば緑や橙色の丸い扁平のあの野菜だろうに。
「バターナッツっていうカボチャなの。
「総家令が、農作業しているの?!」
「そうなの。本当は、丸いのが良かったのよ。ハロウィンに飾るんだから。でも、できたらこんなの」
誰しもが初めてで手探りだったので、わからなかったのだ。
カボチャというのは、一回縦に伸びてきっとここから丸くなるんだなあ、なんて
こんなにお花が咲いて楽園みたい、と彼女は無邪気に喜んでいた。
「大袈裟ね、カボチャの花よ?」と
「まさか、カボチャに品種があれこれあるなんて知りませんでね」
「パパ、また取れたの?」
「そうだよ。一日7つは取れるね。カボチャばっかり、どうしようね」
パパ、と呼ばせているのか。
「総家令。ごきげんよう」
「お久しぶりです。ギルド長も、皆様ご健勝でしょうか」
「ええ。ありがとう存じます」
「ああ、これはお見事だ」
まるで本物の花のように見える。
触れたら柔らかく瑞々しいのでは思う程に生き生きと彫られている。
石だと言うのに、なぜこんな表現が出来るのか。
まだ製作途中の
妻は素晴らしい才能だと
「叔母上にお会い出来て良かったね」
「ええ。ここは居心地はいいけれど、新しいニュースはないから」
宮城から転居して数年たつが、すっかり世間に疎くなってしまった。
この離宮を新たに宮城としての機能にするのかと思ったらそうではなく、
「・・・出稼ぎの皇帝陛下と総家令って言われているのよ」
「・・・退屈?!退屈なの?雪」
どうしよう、と、
腕には太子を抱えて、その太子はカボチャを抱いていた。
議会で見かける女皇帝よりだいぶ健康的な印象で、
あのとんでもないスピードで議題が上がり次々可決否決と処理されて行く議会において、
まだまだ勉強不足、議題について行くのがやっとの青息吐息の若手ギルド議員にとっては、憧れでもあり怖れでもある。
宮廷に与えられたギルド議員達の部屋にも出入りをしてあれこれ資料を持って来たり時間調整をする可憐な双子の女家令が「宮廷議会は知性でもってぶん殴り合うんです」「どうぞご遠慮なく」と微笑んだのに、当初、彼女達の可愛らしさに浮き足だっていた若手議員がすっかり顔色を無くしたのにはおかしかったが。
「まあ、陛下、殿下。失礼致しました。ご機嫌よう」
「お久し振りです事。・・・いいんですのよ。どうぞおかけになってくださいまし・・・」
なぜか丁重に
やはり蛍石は、残雪と結婚したつもりなのだ。
彼女なりに姑の妹に気を回しているという事らしい。
「蛍、退屈なもんですか。毎日やることいっぱいで、忙しいくらいよ。でも、情報がなくてつまらない」
「私達との暮らしに不満なのかと心配だわ」
「そんなわけないわ」
「本当?」
まるで少女のような女皇帝に
沢山のお菓子を渡され、
「このクマの形のお菓子と、この飴も好き」
「じゃ、全部持っていこう」
カゴに山のようにお菓子を突っ込んでそのまま子供のいる庭に走り出したのに、
「・・・あなた達、家族なのね・・・」
黒北風は、しみじみと言った。
信じられないほど、不安になるほど。
宮廷に関わる人間達がどれほど特殊なのかは知っている。
この美しく幸せな家庭を守るのに、あの女皇帝と総家令がどれだけの努力をしているかも。
そして、それは、努力という範囲では済まない事も。
どれだけの犠牲の上に成り立っているのか。
だからこそ心配が募る。
けれど、この姪っ子は変わらない。
呑気なのか覚悟が決まっているのか、何も考えていないのか・・・。
「・・・雪ちゃん。廃妃されてご実家にお戻りだったご継室が2人、亡くなったそうよ」
「・・・そう」
彼等がなぜ廃妃に処されたのは詳細は誰にも話してはいないが、恐らくこの叔母も母も、きっと知っているのだろう。
特に、父はギルドのうちでも情報収集能力や分析にとても長けているから。
今はギルド議員長として宮廷の議会で手腕を発揮しているそうだ。
見た目がのんびりしているが、ああいう村長様みたいなタイプがある集団では活躍する。
「まだ、公表はしてないけれどね。おひとりは交通事故ですって。どなたか女性とだとか。もうおひとりは、急なご病気ですって」
それから、
「ご正室は?」
「ご正室?いえ、特には・・・」
「・・・そう」
残雪はまた頷いた。