第57話 二匹の悪魔
文字数 2,138文字
"
総家令である
こうなってはもはや撤回出来る事は不可能。
「・・・・大したもんねえ。
何だかおかしくて、笑ってしまう。
「・・・笑い事じゃないですよ・・・」
「笑い事ですよ。普段、家令伯爵なんて威張ってるアンタがさぁ」
彼等にしたら残雪と子供達が生きるならそれはそう悪いものではないから。
ではどうする、彼女には未来があるとして。
「・・・
でしょうとも、と
「・・・全世界の殆どの人間がそう思うだろうよ」
「でも、他に選択肢が無いじゃない。アンタがそうしたのよ。・・・
当時は、
「・・・死んでからも邪魔をする。・・・悪魔め」
二匹の悪魔もいいところだ。
あの二人は、自分が欲しいものを全部手に入れて、勝手に死んでしまった。
残された方は、手に負えない世界を押し付けられて、戸惑い、何とか奮闘するけれど、どれが正解だったのかなんていつになっても計り知れない。
更には、同じように取り残されたはずの
「・・・
「雪様なら、確かに間違いなく幸せにしてくれるわよ。私らそれ見ていて知ってるんだから、よく分かるものね。・・・でもね、アンタが用意していたもの、それは全部退路だわ。アンタだけじゃない。私達が彼の方に提供できるのは、どう頑張ったって退路しかない。雪様に必要なのは、進路、未来。あの方、とても前向きな人だもの」
お前が
しかし
「どうやって前を見ればいいのかわからない、どうやって幸せになったらいいのかわからない私達はそれが眩しくって、そうだったらいいなあと嬉しくって。どうか幸せにして欲しいと縋り付いてしまいそうだけれど。・・・雪様にその未来を一緒に見れるかもしれない人が現れたなら、お前も、私達も、譲るべきよ」
それにしたってこれは酷い。
彼女を取り巻く状況は、何も変わっていないはずだ。
何が彼女に火をつけたのだろう。
もう少しで、手に入ったのにと悔やまれる。
「・・・姉上ですか・・・」
「私はアンタより長く家令業やってるわけだからね。しばらく
コリン・ゼイビア・ファーガソンが虜囚となるも生存している可能性が高い事は、
だが、それを伏せていたのは自分だ。
痺れを切らした
まずその同志の
この姉弟子が関与していたのだろう。
どこでどんなツテがあるものだかと肝が冷えた。
だからこそ
「なぜ、知らせる必要があるんです?今や崩壊した国の分析官の生死など、さして影響がない」
「さして影響がないなら、知らせてもいいんじゃない?」
かくして、
「嫉妬深くてずる賢いお前にバレないようにするの大変だったのよ。コリン様が生きていると知って、雪様がどれほど喜んだか」
戻って来た弟弟子が、雪様からですと言って自分をそっと抱きしめた時は、つい今までのあれこれを思い出し涙を溢しそうになった。
報われない我々の、報われない気持ちが何かとてもいいものに昇華されたような。
そんな事、それこそ家令の人生であまり無い話。
家令は宮廷の備品。
でもだからこそ、出来ることもあるだろう。
亡き女皇帝に、兄弟弟子に、そして残された彼女に報いてみせる、自分達はそう思ったのだ。