第16話 傷ついた雛鳥
文字数 2,974文字
ついに宮廷で使い走りをしていた見習い家令まで離宮に連れて行ってしまったと宮廷の人々は噂しているらしい。
実際、
兄弟子姉弟子から「お前達、今日から離宮で皇帝陛下と
「
テーブルで残雪の焼いたバナナのケーキを食べてお茶を飲んでいる蛍石と五位鷺がそれを嬉しそうに見ていた。
「えぇ、ずっといいわ。小生意気なチビだと思ってたけど、年相応に可愛くなったこと」
「うん、
女皇帝と兄弟子に褒められて、
それから残雪は子供達に家令服を脱がせてワンピースやセーラーカラーの服を着せると、上機嫌。
家令の子供達は、宮廷に上がるようになって以来、人前で家令服を脱ぐのは久々だ。
「雪様、これじゃだめですか?」
元の家令の姿では許されないのかと少し不安になった
「これもとってもカッコいいけど。毎日卒業式みたいじゃ疲れちゃうじゃない?おチビさんのうちしか着れない服着ておかないともったいない。ねえ、見てみて」
残雪は大きな鏡を見せた。
おさげにひまわりのリボン、白地に水色の水玉模様のワンピース姿の
なんと爽やかで可愛らしいのだろうと
その姿を見て、実の両親であるはずの
「さて。あなたたちもおやつにしましょう。うちには焼けたそばからケーキを食べてしまう大きなネズミさんが2匹もいるから、別にプリンを作っておいたのよ」
デカい鼠とは自分達の事だと
それからしばらくして、
「雪、弟弟子を紹介するよ」
小さな家令は、緊張した様子で、
宮廷から
彼なりの精一杯の挨拶に「カラクリ人形みたい。なんて可愛いの!」と残雪は大喜び。
「
残雪の目の高さと同じになり、男児はますます戸惑った。
「おチビさん。初めまして。私は、雪というの。お名前は?」
彼は何か言いたげに
母が死んで以来、罪を賜った今までの名を口にしてはならないときつく言われていた。
「・・・ああ、まだ家令の名前がないんだ。雪が考えてよ」
「責任重大ね。すてきな名前にしなくちゃね」
言いながら
「とりあえず、着替えちゃう?チビッコ達がアナタが来るのわくわくして待ってるから、すぐに水あそびに巻きこまれちゃいますよ」
「水着になるかい?」
雛鳥は首を振った。
「なら、動きやすい服にお着替えしよっか」
「おりこうさんね。うちのチビッコ達なんて走り回って逃げるか、走りながら脱皮だわ」
次の瞬間、残雪が眉を寄せた。
男児の小さな胸元に赤いケロイド状の傷跡があった。
「・・・まあ、大変。痛かったわね・・・」
雛鳥が一度首を振ってから、小さく頷いた。
「・・・寒いとまだ痛むでしょう?あとで皆で温泉に入るといいわ。
そんなわけあるか病院に行け、と典医の
慢性的な腰痛やら関節痛やら頭痛やらに悩まされている
「猿も熊も鹿も、怪我したら温泉で治すんだよ」
「猿も熊も鹿も、病院あったら行くわよねえ」
残雪が笑って言うのに、つられて雛鳥も笑った。
「まあ、かわいいさんねえ。ちょっと待ってね。おやつがあるから」
手早く服を着せられて、子供用の椅子に座らせられた。
チョコレートのアイスクリームと、赤いサクランボの入ったソーダがテーブルに並んだ。
「パイナップルのソーダなの。飲める?」
雛鳥がまた頷き、炭酸に少し驚いた顔をしたが、嬉しくなったようで微笑んだ。
「・・・
ほぉ、いいな、と
「とっても可愛い鳥なのよ」
胸がふんわりと赤褐色に染まった小鳥。
「群でいてね。皆で木に止まっていると、お花が満開みたいに綺麗なのよ」
嬉しそうに言う。
「どう?嫌なら、そうねぇ、もっと強そうな・・・。うーん、大きな鳥?ダチョウとかエミューとか?」
「普通、猛禽類じゃないか?」
「・・・奥様、いいです。
慌てた様子で雛鳥が小さな声でそう言った。
ダチョウやエミューになっては大変と思ったのと、この胸が花の色をした小さな鳥が気に入ったのだ。
醜い、不吉、不潔、そう言われたこの傷を、花のようと言われた事に、子供ながらに救われた思いだった。
「まあ、奥様だなんてここで言われたの初めて。雪と呼んでね。
そう言って
すぐに庭先から騒がしい声がした。
突然、子供が4人、窓の向こうから顔を出した。
全員がずぶ濡れ。
「ママ!川に落ちた!」
可愛らしい少女が、そう言った。
「あそこまで水遊びしてて今更川になんか落ちたって同じよ」
残雪はそう言い、アイスクリームをひと匙ずつ
「雪、川に落ちたらどうしたらいいの?」
「ななめに泳げばいいのよ。良い
そっか、とうまそうにアイスクリームを舐める。
「はい!チビッコの皆さん、新しいメンバーです」
五位鷺が言うと、全員が雛鳥を見た。
「
「・・・
今までは一番下だったが、後輩が出来たと
「雪、大変、雨が降りそうよ」
水浸しで現れた女が言った。
「蛍もずぶ濡れね。今更雨なんか降ったって変わらない・・・」
残雪が吹き出した。
「そりゃそうね」
蛍も笑い、アイスを受け取った。
「蛍!新しいおチビちゃんよ。
雪が抱き上げて、蛍石に見せた。
「雪が名付け親ですよ」
「・・・お前、ラッキーね。私と同じくらい」