第44話 亡霊
文字数 1,557文字
公式の出向ではありませんとか言ってたのに、あちこちの
美しく着飾った女性が1ダースいようが100ダースいようが、あの姉弟子が現れたなら
宮廷育ちで風雅も優雅も恋やら愛の駆け引きも主食におかずに間食にしてきた彼女にとって、この国の牧歌的な程の社交会など、前菜にもなるまい。
スナック菓子をつまむ程の手軽さで、衆目を集め、ホイホイ男を転がされては、見ていて面白いという物見高い者以外には
あれは道場破りに近い。
元首令嬢の婚約者候補を、分かっていて引っかけたのだ。
パーティーの間中、婚約者候補は他の客同様に
宮廷文化に憧れている若い令嬢に対する「これが宮廷流なんだよ。こんなもんじゃないよ」という挨拶代わりとも、通り魔事件とも言えるわね、と
女主人が、あの夢見る乙女をなんとかうまいことフォローしてくれていればいいけれど。
全く、嵐のようだったと思いながら、
久しぶりに
そもそも時差があり実家の家族と電話で連絡しようとすればどうしても夜中になってしまうのだが、その後も仕事をしたりしているのだろう。
夕食後、しばらくして
「遅い」
部屋の奥から不機嫌な声がした。
「あら、時間なんて関係あるんですか」
「・・・まあ、関係はないけど。でも、待ってた」
「お待たせしました」
「人質稼業も大変かい?」
違う声に、頷く。
「まさか、こうなるとは思ってなかったのでね。案外、
笑って、
「なんと面倒な。雪で良かったとは決して思わないけど、春じゃなくて、良かった」
父親の顔をして、
さ、早く来てと
「雪ったら、私たちの事なんて忘れたのかと思っちゃう」
「そんなわけないわ。私の愛しい方」
「時間も距離も関係なく、愛しているよ」
「・・・・まあ、しつこい」
3人は在りし日と同じように笑い転げた。
「・・・おはよ、おつかれ」
朝方、寝起きの
「おはようございます、おやすみなさい」
「はいはい。・・・ねぇ。
「何だよ?」
「昨夜、雪様のお部屋から楽しそうな声が聞こえたんだけど」
「ああ、通話かな?
二人は仲のいい母娘で、連絡は頻繁にしているし、
ああ、このセンスって
「・・・いえ、女と男の声よ?」
聞いたことがある、忘れるはずの無い声。
・・・でも、まさか。