第34話 不幸を呼ぶ未亡人
文字数 2,755文字
両親が家令であり宮廷育ち、素質充分で順調に家令として育っている彼等からしたら、何を今更と言うところ。
更には基本的に宮廷においてそういった恋愛沙汰は嗜みのひとつともされ、切った張ったは御法度だが、惚れた腫れたはむしろ経験値であり一つの娯楽。
「
「・・・ありましたよ。お見合いなら」
元総家令夫人の縁談話に、
「差し支えなければ、どなたですか?」
「
今や彼女はギルド議員として頭角を表し、いずれ議員長になるだろうと言われている。
あの速度と情報量の宮廷議会について行くどころか引っ張って行けるのだから、傑物だと言えた。
「あそこの家、宮廷との縁を欲しがってますからね。金融業は継室候補群になれないから」
だから、
事実上離婚して死別した総家令夫人と縁談をと言うのだからなかなか腹が黒い。
「ところがね。周りからやいのやいの言われてお付き合いしてみたら。まあ、次から次に彼に不運が続いてね。まずは、グレーチング踏み抜いたとか、標識落っこちて来たとかのよくわからない交通事故。次に椎間板ヘルニア、次がご実家の階段の上から下まで転がり落ちて更に植木鉢まで落ちてきて骨折。で、年末に
「その次は、
「
「訳あり同士いいんじゃないかっていうまわりの都合が理由ね。訳ありと訳あり掛けたら、余計訳わかんないことになるに決まってるわよね」
「・・・今度は何が起きたんですか?」
「うん。じゃあまともに会ってみるかってなった途端に、ご自宅に雷が落ちて分電盤から火事。で、あの人、結構有名なタレントさんと不倫してたの雑誌3社に撮られたの覚えてる?その後、頭下げられて無かった事にって。と言うわけで、私は、不幸を呼ぶ未亡人って事で噂になってるのよ。それでも物好きがいるもんだけど、人質にまでなってしまえばもう縁談なんて来るもんですか」
さて、残業しなきゃ、と
「定期的に報告書を出さないと
"高貴なる人質"は名誉職とされている。
廷臣が賜る名誉職なのだから、国から給金なんか出さないという事。
彼女は、遠隔地から家業にも指示を出し、さらには特使としてこの地で手をつけなければ行けない事業はいくつもある。
文句も言いたいところだろう。
「毎日書く事なんかもう無いって言ったら、夕食のメニューでもなんでもいいから解答用紙を埋めろって言うのよ?無茶な担任教諭じゃあるまいし!」
家令の姉弟は、軽食を用意したからお夜食に食べなさいね、と女主人に用意されたものをつまみにビールを飲んでいた。
本日は、サンドイッチやスープやテリーヌやケーキやフルーツがテーブルに乗っていた。
昨日は軽食にと寄せ鍋が、土鍋で用意されていた。
昔からだが、
子供の時は離宮でも水遊びや雪遊びの後に彼女の言うおやつを腹一杯に食べて昼寝をしたと懐かしく思い出す。
女主人の華やかな交際履歴や愉快な恋バナというより、世知辛いまとまらなかった縁談の話をネタに話が盛り上がる。
「
しかし、
幼少期を彼女達と過ごした自分達にはやはり思い入れはあり、簡単におかしな相手と再婚されては面白くない。
まあ確かに、正式な書類は無いものの"元総家令夫人"では、そこそこ以上か、よほどの変わり種でもないとお互いを維持出来ないだろう。
それを考えると、
「ふん、あいつらチャラチャラしてるからよ。・・・にしても、雪様が不幸を呼ぶというより、むしろ、
あの二人の
度々、実家の棚卸しだ、商工会の会合や夜会だと出かけて行く彼女に、
結局、
留守番の子供と言うより、取り憑いてでもいるのかと言う有り様。
あの二人だ。
その愛しい人が見合いとなったら、まさしく呪ったり祟るに違いないと笑いあった。
「・・・災難と言えば。そう言えばさぁ、
あのいかにも姫、いかにも女王という彼女が、一体何が起きたのかと慌てていたのが面白かった。
「あったあった!あの時、ギックリ腰と同時に肺気腫でもはや何科なんだかって言って、
姉弟は思い出して腹を抱えて大笑い。
しかし、なんだかどうにも引っかかる。
これこそ、まさに降って湧いた不幸というエピソードではないか。
「・・・まさかぁ・・・」
「そうよ、だってあの頃、雪様はI国にいらしたんだものね・・・」
否定しながら、いや、否定するように姉妹はうすら笑いを浮かべた。
「・・・私、寝るわ。明日、雪様とど田舎のぶとう畑に行かなきゃなのよ。夜勤よろしく」