第26話 バスでの長距離移動 ~水曜どうでしょう~

文字数 1,940文字

いろいろな経験をすることで他者の気持ちが判るようになる。
体験したことのある者どうしが判る気持ちというものがある。

アデレードでのこと。
私と広沢はこの街から一気にウルルを目指す。
この旅の見どころの1つであるエアーズロックへ行くためである。
エアーズロックとはオーストラリアの真ん中にある巨大な一枚岩。周囲は9㎞、高さは348mに及ぶ巨石である。世界遺産にも指定されている。
エアーズロックは先住民族アボリジニの聖地としても知られている。
「エアーズロックかぁ」広沢が感慨深げに言った。
「楽しみだな」私がその言葉の後を継いだ。
アデレードからエアーズロックのあるウルルまでの移動は長距離バスを利用する。
理由はシンプルに安いからである。
バスのトランクにバックパックを預け、長距離バスへと乗り込む。
オーストラリアの長距離バスも日本のそれとさほど変わりは無かった。
座席の広さは日本の観光バスと同じくらいで、その狭いスペースに座り長時間の移動をする。
当然、その狭い座席で睡眠を取ることになる。それがやたら疲れる。
『長距離バス=やたら疲れる』
この等式は、ここオーストリアでも同じである。
この旅で長距離バスを利用してきて、いろいろと判ったことがある。
主なバス会社はグレイハウンドとパイオニアであるが、どちらかというとパイオニアの方が乗り心地は良い。グレイハウンドの方がどことなく疲れる。
今回の旅で最も長距離となるウルルまでの長距離バスは、なんと、グレイハウンド。
つまり、より疲れる方のバスである。
ウルル行きのバスがグレイハウンドだと知った時、申し訳ないが、正直、げんなり。
「あぁ、こりゃかなり疲れるぞ」
そして、その予想通りの結末となった。
オーストラリア縦断の旅は、まさに楽しいことばかりであったが、唯一ツライ思い出が、この……
――長距離バスでの移動
昼の移動はまだマシで、本当にキツイのは夜の長距離バス移動である。
夜を徹して走行する為、バスの中で睡眠を取る。
深夜バスを利用したことのある人は判ると思うが、バスの座席ではまともに眠ることはできない。さらには移動距離が長距離になればなるほど、疲れが溜まる。
ウルル行きのこのバスは荒野の一本道をひた走りするわけだが、これがわりと道に起伏がありバスが揺れる。
狭くてあまり身動きも取れない上、さらに揺れる為、身体中がバキバキに痛くなる。
夜中にふと目が覚めて、カーテンの隙間から外を眺めると、真っ暗闇を走っている。
「自分は一体、こんなところで何をしているのだろうか」
と、全身の痛みと相まって、なんだかとても微妙な気持ちになる。
私も広沢も互いに「キツイ」とか「イタイ」という言葉をあまり口にしない。
二人とも剣道部だけに、痛みやキツさには慣れている。
とは言え、おそらく広沢もこの長距離バスから、一刻も早く解放されたがっていることは間違いない。
『水曜どうでしょう』という番組でミスターや大泉洋氏が「サイコロの旅」での長距離バスでの移動を異様に嫌がっている。そう、異様に嫌がる。
私にもその気持ちがよく判るのは、このオーストラリアでの長距離バス移動の経験のおかげである。
果てしなく続く真っ直ぐなハイウェイを昼夜問わず走り続け、翌日の夕刻になり、ようやくエアーズロックが見えてきた。
エアーズロックがよく見える場所にバスが停車した。乗客達が降りはじめた。
ここから遠巻きにエアーズロックを眺めるらしい。
「おぉ、あれが噂にきくエアーズロックかぁ」
写真で見たことのあるアノ大きな岩山が前方に見える。おそらく巨大なのだろうが、この場所からはそのサイズ感はつかめないが……
――ようやく観えた!
長距離バスからの解放も近づいているだけに、エアーズロックを目にした時には、尋常ならぬ感動を覚えた。
この日は、すでに夕刻になっていた為、エアーズロックには立ち寄らず、そのまま宿にバスは向かった。
暗くなりかけた頃、何も無い荒野のような土地にある宿の前でバスが停まった。
明日はいよいよエアーズロックの頂上まで登る。楽しみである。
そしてなによりも、アノ長距離バスから解放され、ホッとした。
しかし、これもまた旅の良い思い出にもなるから不思議である。

旅はとても楽しいものだが、ツライことも時にはある。
しかしそれすら貴重な経験となり旅の良い思い出となる。
そうである。

――じつのところ誰の人生にも「まだ見ぬ貴重な経験」が無限にある

旅はそれを私たちに教えてくれるのである。

次回、私たちはあの巨大なエアーズロックの頂上に立つこととなる。

【旅のワンポイントアドバイス26】
旅でいろいろな経験をすることで、いろいろな気持ちが理解できるようになる。旅で味わった経験や感情をしっかりと記憶しておくと、その後の人生にも大いに役立つ。


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