第8話 シドニー観光の移動手段 ~まさかのメルセデスベンツ~

文字数 1,902文字

幼い頃、外国の車に乗ることが夢だった。
私が初めて乗った外車は意外な形状の車であった。

シドニーでのこと。
市内の移動は主に徒歩と市内バスが中心である。
シドニーの街は見どころがコンパクトにまとまっている為、徒歩でも十分移動が可能。
異国の見知らぬ街なので、どこを歩いていても見るものすべてが目新しく楽しい。
私も広沢も徒歩での移動を好んだ。
ところがシドニーならではの移動手段というものもある。それは……
――船
シドニーでは対岸の街まで、船で移動することができる。
その為、船による移動も選択肢の1つとなる。
勿論、移動手段としてだけでなく、観光目的のクルーズ船も出ている。
このシドニー・ハーバーのクルーズ船がとても素晴らしいと聞く。
――『天気の良い日には船に乗る』
これがシドニーでの最高の贅沢とまで言われている。
空を見上げる、広がる青空、天気は上々。まさにクルーズ日和である。
「今日は船に乗ろう」広沢が言った。
「おぉ、イイねぇ」私も即同意。
最高の贅沢を味わう為、私たちは船着き場へと向かう。
シドニーのハーバークルーズには、『コーヒー・クルーズ(コーヒー付き)』、『ランチョン・クルーズ(昼食付き)』など、様々な種類のクルーズが用意されている。
私たちはもっともシンプルに海上からの眺めを楽しめるクルーズに申し込んだ。
チケットを手に、乗り場番号を確認し、いよいよ乗船。
低い唸り声を上げ、クルーズ船はゆっくりと向きを変え、次第に速度を上げてゆく。
広い海原へと颯爽と白波を立て進んでゆく。これが、本当に……
――気持ちが良い!
シドニーは冬と言っても日中は温かく、爽やかな潮風に吹かれ最高の気分となる。
見どころは何と言ってもオペラハウスとハーバーブリッジ。
オペラハウスの大きな白い屋根を海側から眺め……



巨大なハーバーブリッジを下から見上げる。



海から見る両者の景色は陸から見るのとはまた一味違う。
陸から見る景色、海から見る景色、はリバーシブルの洒落たジャケットを楽しむようなもの。どちらの景色もとても美しく嬉しい気分にさせられる。
シドニーを「いやぁ~満喫しているなぁ」と思わず言葉がこぼれる。
世界には海から眺めると美しい街が各所にあるが、ここシドニーも間違いなくそのうちの1つ。
シドニー湾を一周してクルーズ船は船着き場に戻った。
「なかなか良かったな」私は言った。
「そうだな」広沢も頷く。
シドニー湾のハーバークルーズを堪能し、天気と同じく気分も上々。
次はバスでの移動。
シドニーの街では少し距離の離れている場所への移動はバスが便利である。
市内をくまなくバスが走っており、料金も安い。
乗り方は、前乗り、前払い、前降り、である。
シドニー市民に混ざりバスに乗ると、私たち旅行者に微笑みかけてくれるご老人もいる。
バスに乗るだけで、どことなくシドニーの街に溶け込んだ気分に浸れる。
しばらくして、目的地に到着。私たちはバスを降りた。
ところが、ここで……
――驚くべきものを目にした!
「広沢!アレ見ろよ!」私は降車したバスの正面を指さした。
「おおおっ!」意外なモノを目にして広沢も声を上げた。
私が指差した先にあったモノ、それは……
――ベンツのエンブレム
スリー・ポインテッド・スター、円の中の三点の星。
メルセデスベンツのエンブレムがバスの正面にあった。


(写真はイメージ)

「俺たちどうやらベンツに乗っていたようだぜ」少し嬉しそうに私は言った。
「本当だなぁ」広沢も笑った。
日本ではベンツと言えば高級外車。
その「ベンツのバス」に乗っていたことに少しばかり驚いた。
「ベンツってバスも作っていたのか」
そもそも、ベンツがバスを製造していたことにも驚いた。
私たちは学生なので、そうそう外車に乗る機会もない。
さらには幼少期にランボルギーニやフェラーリなど海外のスポーツカーに憧れを抱いた世代でもあり、外車に対して特別な思い入れがある。
外車に乗ったというだけで「おっ!」とテンションが上がってしまう。
それだけに、この思わぬ発見は嬉しかった。
この時のメルセデスベンツのバスが、私が初めて乗った外車となった。
これもまた旅の良い思い出となった。

幼い頃の夢、いつか外国の車に乗ってみたい。
旅において、その夢がふと叶ったわけである。
そうである。

――じつのところ誰の人生にも「まだ見ぬふと叶う夢」が無限にある

旅はそれを私たちに教えてくれるのである。

次回、私たちはシドニーの街で意外な人物と会うこととなる。

【旅のワンポイントアドバイス08】
海外に赴いた時には、バスのエンブレムにも注目。メルセデスベンツなどのエンブレムを見つけた時に、写真に撮っておくと、それもまた旅の良い思い出となる。



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