第9話 シドニーで恩師と会う ~楽しい出来事を作る~

文字数 1,891文字

楽しい出来事が多いと、楽しい人生となる。
自らの行動で楽しい出来事は作り出すことができる。

シドニーでのこと。
少しばかり面白い出来事があった。
私と広沢は高校時代の恩師とシドニーで会った。
と言っても、シドニーの街でバッタリ鉢合わせたわけではない。
広沢が出国前、事前に先生と連絡を取りシドニーで会う約束をしていたからである。
待ち合わせ場所はシドニーのタウンホール近くのホテルのロビー。
私たちは高校時代の思い出を語りながら徒歩でそこへ向かった。
――森山美智子先生(仮名)英語教師。
私たちが高校二年の時、大学卒業したての新任教師としてやってきた。
若い女性教師ということもあり、男子生徒たちの間で人気があった。
「青春あるある」ではあるが、中には森山先生に恋心を抱いていた生徒もいたらしい。
言わば、青春時代の『ほろ苦い(・・・・)思い出』の存在である。
一方、私はと言うと「青春あるある」の範疇に収まることなく、そのようなことには興味が無かった。
それどころか、森山先生の記念すべき初日の授業で、私は「教科書に落書きをし、外ばかり見ている」などといった尾崎豊に浸っていた為、初日から叱られ注意される始末であった。
言わば、青春時代の『モロ苦い(・・・・)思い出』の存在である。
広沢は私とは違い優等生だった為、そのようなことも無かったはずである。
森山先生がたまたま広沢のクラスの副担任だったので、広沢は森山先生と卒業後も年賀状のやり取りが続いていた。
それで、森山先生が今年の夏に学校の国際交流行事としてオーストラリアに来ることを知り「シドニーで会いましょう」と約束を取り付けていたわけである。
そうこうしているうちに「約束の場所」のホテルに到着。
私たちはロビーのソファに座りくつろぎ、先生の到着を待った。
ほどなくすると満面に笑みを浮かべた森山先生が現れた。
「二人とも久しぶりぃ」
「お久しぶりです」
私と広沢も立ち上がり森山先生と挨拶を交わした。
高校卒業して3年しか経っておらず、変わりもなく、すぐに森山先生だとわかった。
ホテルの喫茶コーナーに移動し、そこで話をすることとなった。
森山先生がごちそうしてくれるとのことで、先生と広沢はコーヒーを、私は紅茶を注文した。
「大学生活はどう?楽しい?」
「ええ、とても」
「サークル何か入った?」
「ええ、おれは剣道部で、龍崎は……」広沢がその先を私に促す。
「軽音とESS(英語研究会)です」
「えっ!あの龍崎君がESSにぃ?」どうやら森山先生の中では、私は英語とは無縁の存在だったらしい。
「あはははは」私も含め一同笑った。
互いの近況報告や学生時代の懐かしい思い出話など、森山先生との会話が弾んだ。
シドニーで高校時代の恩師に会い、こうして一緒にお茶を飲んでいるとは、なんとも不思議な気分だった。
この時、私はふとあることに気がついた。
学生時代、教師と生徒の間には「見えない仕切り」のようなものがあった。
教壇に立つ教師、「あちら側がおとな」で、生徒「こちら側がこども」のような仕切りである。
ところが、こうして森山先生と3人でシドニーのホテルの喫茶コーナーで一緒にお茶を飲んでいると、あの時、感じていた「見えない仕切り」が取り払われていることに気がついた。
なんとも私も広沢も学生時代とは違い「森山先生と同じ側」にいるのである。
私はふと感じた。
――あぁ、大人になったな……
おかしなことに、なんだか自分が少しばかり成長し大人になった気がした。
勿論、これは日本国内でも恩師とお茶をすれば感じることかも知れない。
しかしながら、シドニーというシチュエーションが「大人になった」という感覚をさらに特別なものへと演出してくれたことも事実である。
シドニーで森山先生と、とても素晴らしい時間を過ごすことができた。
森山先生との面会は広沢がすべて手配してくれたわけであり、御相伴にあずかる立場ではあったが、やはり積極的な行動が、楽しい出来事を作り出すということが判った。
そして楽しい出来事は人生の宝物としていつまでも心に残るモノなのだと。
この出来事もまた、旅の良い思い出となった。

自らの行動で楽しい出来事は作り出すことができる。
旅は楽しい出来事を作るとてもよい機会なのである。
そうである。

――じつのところ誰の人生にも「まだ見ぬ楽しい出来事」が無限にある

旅はそれを私たちに教えてくれるのである。

次回、私たちはシドニーの若者と思いがけない交流をすることとなる。

【旅のワンポイントアドバイス09】
面白そうと感じたら、それを行動に移す。そうすることで楽しい思い出が1つ、また1つと増えていく。自分が行動することで楽しい思い出は作られてゆく。


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