第18話 夜のマーケットでハプニング  ~葉っぱの正体~

文字数 1,941文字

知らぬが仏というが、やはり事実を知ることは大切。
事実を知った後、衝撃を受け愕然とすることがある。

メルボルンでのこと。
私と広沢は、多くの人で賑わい活気に満ちた夜の市場にいる。
夜の闇に電球が煌々と灯され、簡素な屋台をオレンジ色に照らしている。
日用品、衣類、食料、装飾品、お土産など、あらゆる品が売られている。
ひとつひとつ出店を見て歩いているだけで、気分が高揚し楽しい気持ちにさせられる。
まるで日本の祭りのようだ。
「せっかくだから何か買おう」広沢が言った。
「そうだな」私も祭り気分で何かを買ってみることにした。
広沢が屋台の前で足を止め、熱心に商品を物色し始めた。
どうやら気になるモノを見つけたらしい。
「よし、これを買おう」
広沢が選んだモノはなんとも革のハーフコート。やけに大きくかさばり荷物になるモノを買うのだなと思った。
しかし、よくよく見ると「インディ・ジョーンズが着ていそうな」格好の良いハーフコート。
映画好きの広沢らしいモノを選んだな、と納得。
さて、次は私の番である。
「俺は何を買おうか」
私は荷物にならないように、なるべく小さいモノを買おう。
ふと見ると、屋台に指輪やネックレスなどの装飾品が並べられている。
装飾品はわりと好きなので、その中から選ぶことにした。
たいした荷物にもならず、大きさも丁度良い。
様々な珍しいデザインのものがある。
「俺はコレだな」ネックレスを選んだ。
せっかくなので、日本ではあまり目にしないデザインのものを選んだ。
楓に似た「植物の葉」のデザイン。
――これは何の植物の葉なのだろうか……
そんなことを考えつつ、店主に小銭を渡し、その場でネックレスを首に掛けた。
ところが、ここで恒例の思わぬ……
――ハプニングが発生!
なんともその「植物の葉」の正体が、すぐに発覚した。
私たちが出店を見て歩いていると、一人のオーストラリアの青年が声を掛けてきた。
青年は私のしているネックレスを指差し言った。
「そのネックレスの葉っぱ。何の葉っぱか知ってる?」
――ん?
いきなり声を掛けられ、少々驚いた。
今、買ったばかりで、丁度、疑問に思っていたことである。
「ノー(いいえ、知りません)」私はそう答えた。
すると青年はその葉っぱの正体を教えてくれた。
私はその正体を知って愕然とした!なんと!青年はこう言った……
――マリファナだよ
「んんんんん!マジかぁあ!」
正直、これには本当に驚いた!マリファナといえば違法薬物!
私は知らずして違法薬物となるマリファナの葉のデザインのネックレスをしていたのである!
なるほど、日本ではあまり見ないデザインのはずだ……
「教えてくれて、ありがとう」
私はその青年にお礼を伝えた。
これは、かなりの衝撃的な出来事だった。私は、まさかの、知らずして……
――アウトロー(無法者)!
知らないということは怖いことである。
これでは、まるで「私はマリファナ愛好家です」と言っているようなものである。
麻薬の売人が目にしたら、近づいて来てもおかしくないだろう。
もちろん私は超真面目なので、そのような違法行為には全く興味はない。
売人が近づいてきたら即行で、漫画のように足を回転させてぴゅ~っと走り去るだろう。
身に着けるのであれば、もうちょい自分に似つかわしいモノを身に着けたい。
この事実を知って、本当に良かった。やはり「知っている」ということは大切だ。
しかし、なぜか私はこの旅の最中はこのネックレスをずっとつけていた。
もちろん売人に声を掛けられることもなかった。
屋台で普通に売られているものだから、まぁ、大丈夫だろう。
一応気に入って買った品、せめてオーストラリアにいる時くらいはつけておこう、とでも思ったのかも知れない。
最終的には、日本への入国前に外した。
ところが、その後、少し不思議な出来事が起きた。
帰国後、ネックレスの葉がパキっと折れてしまったのである。
元々さほど丈夫な材質では無かったかも知れないが、何の衝撃も加えていないのに折れてしまった。
「あぁ、これは身に着けるなという意味なのだろう」
私はそう解釈して、旅の思い出の品としてネックレスを箱に入れ封印した。
身に着けることは無いが、これもまた旅の大切な思い出としておこう。

青年から葉っぱの正体を知らされ大きな衝撃を受けた。
知っておくことの重要性をこれほどまでに実感したことはない。
そうである。

――じつのところ誰の人生にも「まだ見ぬ衝撃の学び」が無限にある

旅はそれを私たちに教えてくれるのである。

次回、私たちは夢の街アデレードでハプニングを体験することとなる。

【旅のワンポイントアドバイス18】
自分にはまったく関係のないと思われる違法行為に関する知識も知っておくとよい。
知識や情報は旅においていろいろと役立つ。情報はひとつでも多い方がよい。


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