第3話 入国審査での出来事 ~日本人であること~

文字数 1,615文字

外から見るとわかる、とはシャア・アズナブルの言葉。
日本にいる時には見えなかったことが、海外から日本を見ると判ることがある。

シドニー空港でのこと。
私と広沢はハプニングに見舞われつつもオーストラリアに到着。
これからいよいよ入国審査である。
飛行機から降りた人たちが入国カウンターに並び、審査の順番を待っている。
怪しい人物はここで入国を止められる。
勿論、私たちにやましい点はないが、少しばかりドキドキするイベントである。
やはり審査と名の付く以上、ここは首尾よく決めたいところ。
入国審査でのハプニングだけは何としてでも避けたい。万が一にも、入国が認められないようなことがあれば、私たちの旅はここで終了となる。
――俺たちの夏がここで終わる……
「いや、終わらせてなるものか」
などと、高校球児のようなことを考えていると、私たちの順番がやってきた。
まずは広沢が審査を受ける。その様子を、少し離れて後ろから拝見。
入国管理局の審査官と広沢は笑顔で一言二言会話をして、すぐに通過。
「おや?」やけに早いなぁ。
いよいよ、私の番がやってきた。
ところがこれが本当にあっけなかった。
まずはパスポートと入国カードを渡す。
聞かれたことは「入国の目的は何ですか」主にこれだけだった。
私は、「ジャス・サイトシーイング(観光です)」と答えただけで、審査官は笑顔で通してくれた。
――え?それだけ?
おかしなもので、正直、逆に「もうちょい何か訊いてくれよ」という気持ちになった。
審査と言うほどの審査はほとんど行われていない。
「たったこれだけで通れるのか?」
あまりにもスムーズで驚いた。勿論、入国審査でのハプニングを期待していたわけではない。
しかし、ここまで何もないと、逆に「何かくれよ」と思いはじめる。
「押すなよ!押すなよ!」と言いつつも、全く押されないと、逆に「押してもらいたくなる」という、あの『ダチョウの法則』が働くのだろうか。
入国カウンターを通り抜けると、先に審査を済ませた広沢が待っていた。
「なんかあっけなかったな」私は感想を口にした。
「そうだな」広沢もそれに同意した。
しかし、ここまでスムーズに通れるのは一体、どういうことだろうか?
見るからに普通の学生観光客だと一目瞭然だからだろうか。
(私は髪を茶髪に染めているが、これはオーストラリアでは普通だろう)
それとも私たちが日本人だからだろうか。
おそらくその両方かと思われるが、やはり日本人であることが理由として大きいのではなかろうか。
日本人はどの国に行っても比較的スムーズに入国できると話には聞いていた。
しかし、ここまでスムーズに入国できるとは思わなかった。これには驚きである。
このことから日本人は海外の方から信用されていることがうかがえる。
海外へ出ると私たちは「日本人」という見えない看板を背負っているのだと思った。
その看板がイイ意味で作用してくれたのである。
勿論、日本にいる時はそのような看板を背負っているとは感じていなかった。
ところが、ひとたび海外に出ることで、その看板の存在を感じることになったわけである。
――外から見るとわかる
シャア・アズナブルの言う通りである。
日本人として信頼されることは嬉しい。
それだけに「日本人として行儀よく観光しなくては」と襟元を正される思いでもあった。
ともあれ、私たちはオーストラリアへの入国を遂げた。

日本にいる時、自分が日本人であることを意識したことはない。
日本から出ることで、自分が日本人であることを再発見できた。
そうである。

――じつのところ誰の人生にも「まだ見ぬ再発見」が無限にある。

旅はそれを私たちに教えてくれるのである。

次回、私たちはシドニーの街で少し変わった行動をすることとなる。

【旅のワンポイントアドバイス03】
現在はスマートゲート(セルフサービス型の入出国審査システム)がオーストラリアの主要な空港で導入されている。日本人もこのシステムでスムーズに入国することができる。



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