第33話 戦いの傷跡 ~知っておきたいこと~

文字数 1,344文字

旅において思わぬ現実を知り驚かされることがある。
知らない方が楽かもしれないが、知っておいた方が良いこともある。

ダーウィンでのこと。
私と広沢はブレーキの効かない例のクルマを走らせている。
ふと目の前に公園のような広場が見えたので、

クルマを降りた。
どこをどのように歩いたのかは定かでないが、私たちは少しばかり特別な場所に迷い込んでしまった。
そこは海辺近くの公園のような緑の芝生に覆われた広場。
明るい場所ではあるが、不思議なことに強い圧迫を感じる重たい空気の場所だった。
「ここ、なんか空気、重くね?」私が言った。
「そうか?」広沢はとくに何も感じていないらしい。
私はそのような空気の違いに敏感である。確かに、この場所の空気は重たい。確実にダーウィンの市街地の空気とは明らかに違っている。
物々しい空気に覆われていて、どことなく息苦しさも感じる。
――この場所は一体何なのだろうか
しばらくそのまま先に進むと、その重たい空気の理由が判明した。
広場の所々に傷ついた戦闘機や大砲なのどの銃器が点在していた。
「なるほど、そういうことか」
――戦争跡地
どうやら、戦争の跡地のようである。
1942年、第二次世界大戦でダーウィンは、なんとも64回にのぼる爆撃を受けていた。
一体、どこの国がこの平和の国オーストラリアを爆撃したのだろうか?
じつは、なんとも……
――日本
日本がオーストラリアのダーウィンを爆撃していたのである。
「知らなかった……」
この事実を知り大きなショックを受けた。
オーストラリアと言えば、コアラやカンガルーといったのどかな平和なイメージしか抱いていなかった。
ところが、そのオーストラリアをよりによって日本が爆撃していたことに大きなショックを受けた。
「いや、ちょっとこれはショックだな。日本が爆撃していたとは」私は言った。
「そうだな」広沢も神妙な面持ちで言った。
広場の一角には戦争博物館があった。
私たちも入館した。戦争の傷跡を目の当たりにし、少々ツライ気持ちにもなる。
しかし、それだけに平和の尊さを再認識することが出来た。
そのような悲惨な歴史を繰り返してはならない。
可愛らしいカンガルーたちの姿とともに、強くそう感じた。
日本がオーストラリアを爆撃したことは、日本ではあまり知られていない。
一方、オーストラリアの方々は私たち日本人にもとても親切にしてくれる。
爆撃があったにも関わらず、こうして親切にしてくださることはとても温かいこと。
私はオーストラリアという国とその人々をさらに好きになった。
それだけに、やはりこの事実は知っておいた方が良いと思った。
ブレーキの効かないクルマで辿り着いた公園での出来事。
これもまた、旅の大切な思い出のひとつとなった。

ツライ事実であってもやはり知ることは大切。
しっかり向き合い事実を知ることで尊い学びを得る。
そうである。

――じつのところ誰の人生にも「まだ見ぬ尊い学び」が無限にある

旅はそれを私たちに教えてくれるのである。

次回、私たちは野生のワニと遭遇することとなる。

【旅のワンポイントアドバイス33】
海外を訪れた時、戦いの傷跡を目にすることもある。楽しい旅の途中ではあるが、やはりしっかりと見ておいた方がよい。そうすることで平和の尊さを心に深く感じることができる。


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