第25話 書店でハプニング! ~有り得ない出来事~

文字数 1,784文字

旅では通常起こり得ないことが起きることがある。
有り得ない出来事は旅の思い出として記憶に残る。

オーストラリア滞在中のこと。
思わぬ出来事を体験した。
私は旅の記念品として、街の観光案内用の無料のリーフレットを集めていた。
ところがこのリーフレット、バックパックの中に入れると折れ曲がりしわになってしまう。
そこで私はクリアファイルを現地で購入することにした。
「クリアファイル買ってくる」私は言った。
「そうか」広沢が言った。
すでに日は暮れているが、まだまだ街には明かりが灯っている。
私は夜の街に、独りクリアファイルを買いに出掛けた。
文具店はわりとすぐに見つかり、クリアファイルは手に入った。
――よし、これでOK!
さて、宿に戻ろうかと思ったその時。
ふと見ると、通りに全面ガラス張りの明るく綺麗な書店があった。
何を隠そう、私は本がかなり好きである。
「うむ、オーストラリアの書店か」
その書店に寄っていくことにした。
店内には店員さんの他に、それぞれの棚にまばらに客がいた。
棚に並べてあるのは、すべて洋書。
いやいや、ここはオーストラリアだから洋書とは言わないか……
私も棚を見上げ、どのような本があるのかズラリと並ぶ背表紙のタイトルに目を走らせる。
すると、ここでとんでもない……
――ハプニングが起きた!
「エクスキューズ・ミー」
いきなり声を掛けられ、振り返ると……
――えっ!誰!
信じられないほどの美しい女性が私に微笑みかけ立っている!
一般的にオーストラリアは美男美女が多い国と言われている。
実際、街を歩いてみても、それは本当だと判る。
そして、今、目の前に立っている女性もまさにそうなのである。
息を吞むほどの美しい女性が私に話し掛けてきている。
――一体、何が起きた?
あまりの驚きに、一瞬、何が起こったのかよく判らない。
私よりも少し小柄ではあるが背が高く、美しい金色の髪をしている。
若い頃のシャロン・ストーンを可愛らしい感じにしたような美しい女性である。
そのような女性が、私に微笑み掛けているのである!
日本で生活をしていて、このような女性に声を掛けられることなど、無い!
――まず、無い!
絶対に、無い!これはとんでもないハプニングである!
もし、仮にあったしても「何の勧誘だろうか?」としか思わないだろう。
そして、即行逃げる!
しかし、ここはオーストラリア。事情は違う。
その女性は笑顔で楽しそうに私に英語で話し掛けてくる。
私もそれに英語で答える。
普通に会話をしてはいるが、内心どうして私が話し掛けられているのか判らない。
話の途中から、どうやらこの書店の店員さんだと判った。
――ひと安心……
私も現地の人と英語で会話をしたかったので、楽しい気持ちになってきた。
話の内容はと言うと……
「オーストラリアはいかがですか?」
「日本では何をしていますか?」
「この街ではどこを見ましたか?」
「あそこは行かれましたか?」
などなど、ごくごく普通の一般的な会話である。
とても親切に、私にいろいろとこの街のことを教えてくださった。
――なんと親切な人!
相手の女性もとても嬉しそうに話してくれるので、正直、私も嬉しかった。
これはこれでとても楽しい時間を過ごせた。
おそらくは日本が好きで日本に興味のある人だったのではないかと思われる。
そこに日本人らしき私が店内に現れたので、声を掛けてくださったのだろう。
少し驚いたが、嬉しい出来事でもあった。
宿に戻ってから、この出来事は広沢には話していない。とくに話すべき内容でもないと思ったからである。おそらく広沢はこの文章を読んで知ることとなる。
なにげなくふと立ち寄った書店で起きたちょっとした小さな出来事。
とはいえ、人生においてもなかなかない体験となった。
まるで映画のワンシーンのような美しい出来事だった。
そしてこれもまた、旅の良い思い出となった。

旅において通常では有り得ない出来事が起こることがある。
そのような不思議な体験は記憶にも深く刻まれる。
そうである。

――じつのところ誰の人生にも「まだ見ぬ不思議な体験」が無限にある。

旅はそれを私たちに教えてくれるのである。

次回、私たちはあのエアーズロックを目指しウルルへと向かうこととなる。

【旅のワンポイントアドバイス25】
旅において通常では有り得ない少しばかり不思議な出来事が起きることもある。そのような出来事も覚えておくと、旅の良い思い出となる。


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