第35話 ランチでハプニング ~食ッキング~ カカドゥツアー02

文字数 1,976文字

旅にハプニングはつきものである。
時に予想外の衝撃的なハプニングが起きることもある。

カカドゥでのこと。
イエローリヴァーでの野生のワニの探索を終え、昼食の時間となった。
私たちは楽しいツアーに満足しつつ上機嫌のままランチの席に着いた。
ツアー客専用のレストランでのビュッフェ形式のランチである。
わりと早朝から活動していた為、お腹もイイ感じに空いている。
ビュッフェは様々な種類の料理を思いっきり食べられる。
節約の旅をするバックパッカーにはとても嬉しい食事である。
区分けされた大きめのプレートに思い思いの料理を好きなだけよそおう。
とくに充実しているのが肉料理。
いろいろな種類の肉料理があるが、中には見慣れぬ肉もある。
私はスタッフに尋ねてみた。
「これは、何の肉ですか?」
すると、驚くべき答えが返ってきた。
「クロコダイル」
ワニである。先程、野生のワニと遭遇したばかりである。
一瞬、手が止まったが、せっかくなのでワニの肉も食べてみるのもよいだろう。
私はその肉料理もトングで挟みトレーに乗せた。
席に戻ると、広沢が言った。
「レバーがあったぞ!少し体調が良くないので、これをたくさん食べて回復を図る!」
なるほど、レバーをたくさん食べれば元気も出るだろう。
そう思いつつ、広沢のプレートをどれどれと覗き込んだ。
トレーには山積みになった黒っぽい肉料理が載っている。しかし、私が見るに、どうにもその肉はレバーには見えない。レバーっぽくも見えないこともないが、いやいや、どこか違う。
「なぁ、それレバーなのか?」私は尋ねた。
「あぁ、レバーだ」広沢が言った。
私はその肉は取ってこなかったので「そうなのか」とだけ返した。
(ところが、その後、この肉に関するとんでもない事実が発覚する…‥)
――ビュッフェ2巡目
「さて、次は何を食べようか」
そう思いを巡らせながら肉料理のコーナーを眺めていた。
ところが、ここで、またもや……
――ハプニングが起きた!
ふと見ると、先程、広沢が大量に食べていた肉料理が目に留まった。
「いや、これ、絶対レバーではないよなぁ」
そう思い、私はスタッフに尋ねてみた。
「この料理は何の肉ですか?」
すると、耳を疑いたくなるような衝撃的な答えが返ってきた。
そのスタッフが口にした答えとは……なんと!
――カンガルー!
「マジかよ!」
これには心底驚いた。いやいや、かなりの衝撃を受けた!
つい先日、メルボルン動物園で可愛らしいカンガルーたちと会ったばかりである。
それなのに、その数日後には、カンガルーが肉料理として目の前に並んでいるのだ。
――あぁ……こんなことが……
私は思わず膝から床に崩れ落ちそうになった。これは、かなりのショックだった。
なんともいえない複雑な気持ちになった。あの可愛らしいカンガルーが……
私はこの肉はプレートの上に乗せなかった。
席に戻り、この衝撃的な事実を広沢に伝えようかどうか迷った。
広沢が「おかわり」しそうな勢いで、それを頬張っていたので思いきって伝えた。
「広沢……」
「ん?」
「それ、カンガルーだってよ……」
一瞬、広沢の動きが止まった。顔には驚きの表情が貼りついている。
しかし広沢は「そうか……」とだけ言い、それを残さず食べきった。
広沢にも思うところはあっただろう。
しかし何の肉であろうと料理は料理。自分が選んだ料理は残さず食べる、偉いヤツだと思った。ヤツもまた侍であった。
この出来事は本当にショッキングであった。
しかしながら、これはオーストラリアの食文化であり、日本でも普通に動物や魚の肉が料理として食卓に並べられている。
カンガルーだけが特別ではないはずである。
現に私もワニの肉はプレートの上に載せている。
――私たちは生きていくために様々な動物たちの命をいただいている
この現実を身に沁みるほど深く再確認することとなった。
調理された料理だけを見ると、それが動物には見えない。
しかし、それは紛れもなく生きていた動物。
この旅を続ける為にも、ここオーストラリアでも多くの命をいただいてきた。
その多くの命のおかげで、私たちは旅を続けることが出来ていたのである。
「俺たちは命をいただいている……」
自分に出来ることは深い感謝の念を持つことしかない。
その多くの命の為にも、しっかり人生を生きることが大切なのだ。
ふとそんなことを考えた。

生きる為に多くの命をいただいている。
この出来事は衝撃的ではあったが深い感謝の学びを得た。
そうである。

――じつのところ誰の人生にも「まだ見ぬ感謝の学び」が無限にある

旅はそれを私たちに教えてくれるのである。

次回、私たちは荒野の地に巨大な物体を目の当たりにすることとなる。

【旅のワンポイントアドバイス35】
異国の地を旅すると、珍しい料理と出会うことがある。謎の料理を見た時には、その料理が何なのかを尋ねてみる。それを知った上で食べると深い感謝の学びとなる。


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