新二幕 冒険者ギルドを根城にする魔王ってどうよ(3)
文字数 3,936文字
☆☆☆
「なぁ俺、顔赤かったりするか……?」
ルパートが眉をハの字にした情けない顔で尋ねて来た。実際は頬が紅潮した恋する乙女の風貌だったが、落ち着かせる為に優しく言った。
「大丈夫、ほぼ平常に戻っていますよ」
「良かった……」
安堵の溜め息を吐いたルパートであったが、息を漏らす仕草すら色っぽい。キースの魅了は恐ろしい技である。
「小娘、おまえは完全に素に戻ったようだな」
「私は見つめ合った訳ではなく、うっかりキース先輩の瞳を覗き込んでしまっただけだから。そういえばアルクナイトは魅了の瞳についても知っていたのね?」
「前の周回で、酒場でエリーが白に魅了されるところを見た」
「えっ、私達が酒盛りした夜のこと? あそこにもアンタ居たの? その外見でよく酒場に入られたね?」
「小金を店主に渡したら入店できた。エリーの観察日記をつけることが俺のルーティンワークだからな」
どんだけ好きなんよ。そりゃエリアスさん、家出してでもアルクナイトから逃れようとするわ。あと子供を酒場に入れた店主は捕まれ。
「ふう~~~~」
ルパートが私の横に座り直し、ベッドの上で深呼吸した。だいぶ自分を取り戻せたようだ。そのタイミングでキースと、彼に連れられてギルドマスターが部屋に入ってきた。
「……っ!」
マスターはアルクナイトを一瞥 してすぐに表情を引き締めた。彼が只者ではないと感知したのだ。しかし身構えなかった。相手に戦う意思が無いことも瞬時に見抜いたようだ。流石は世界に名を轟かせた冒険者だっただけはある。
「こいつは……驚いたな。キースの言っていたことは事実だったようだ。よもや本物の魔王様にお目にかかる日が来るとは思わなかったよ」
「いかにも。我こそが魔王アルクナイトである」
アルクナイトはイスに座ったままマスターに名乗った。脚を組み替えて偉そうだった。
「貴様がこの冒険者ギルドの責任者か?」
「……ケイシーと申します。宿泊するお部屋が必要とか?」
「そうだ。適した部屋を速やかに提供せよ。叶わぬ場合はこの小娘と同衾 することになる」
「それは駄目、絶対!」
復活したルパートが、青少年を犯罪から護るスローガンのような口調で止めた。
「マスター、魔王様は300歳以上だ」
「正確に言うと482歳だ」
「……そんな大人の男を、ウィーと同じベッドで寝させる訳にはいかないだろ?」
「エリーと違って子種を仕込むつもりは無いぞ?」
ばっ、馬鹿! 何てこと言うのよ! また顔が火照ってしまう。
「こういう卑猥なことを平気で言っちゃうお人なんだ。別の部屋で寝かせないと」
「そもそも、どうして魔王様の宿を冒険者ギルドが世話することになったんだ?」
マスターが冷静なツッコミを入れた。
「ふん、白に聞いていないのか。宿屋が満杯だからだ」
「そこではなく、どういった経緯で魔王様はウチの従業員と知り合ったのですか?」
ああ、まただよ。時間逆行してからエリアス、ルパート、キース、ずっと誰かに状況を説明し続けてきた。今度はマスターか。仕方が無いこととはいえ非常に面倒臭い。
私はルパートを上目遣いで見た。
「……俺に説明しろってか?」
「私よりも先輩の方が断然説明が上手いので。……駄目ですか?」
「ま、まぁしょうがねぇな。俺に任せておけ」
ルパートは鼻の頭を指で掻いてから、マスターへ時間逆行の長~い説明を始めた。何て乗せられ易い男なんだろう。でもそうか、こうやって甘えればルパートは動いてくれるのか。ちょっとズルい気もするけど、いつもは私が彼の使いっ走りをやらされているのだから、たまにはいいよね。
ルパートが事情を話している最中、アルクナイトがまた余計な茶々を入れて邪魔しそうになったので、机の引き出しに入れておいた飴玉をあげた。騒々しいお子様を黙らせるにはお菓子作戦が一番だ。
「ぶはっ」
しかし次の瞬間アルクナイトは盛大に噴き出した。唾液と言う名の魔王汁を私の顔面に噴射して。
「ぎゃあっ、何すんの!?」
「おまえが悪い! ソーダ味かと思ったらハッカじゃないか!」
アルクナイトは手の平に吐き出した水色の飴玉を忌々し気に睨んだ。私はそれを紙でくるんだ後に、再び飴の入った缶を彼に差し出した。
「ごめんごめん。もう一つ好きなの選んでいいから」
「ふん、口直しだ」
橙 色の飴玉を選んだ魔王は、それを口の中でコロコロ転がして、数秒後にまた噴いた。
「今度は紅茶味か! オレンジ味だと思ったのに!」
「紅茶嫌いだった?」
「そうではなく、思っていたものと違う味がすると人は驚くものなんだ! 缶にフルーツのイラストが描いてあるから普通はオレンジだと思うだろ!?」
「あ、これ中身補充し直したやつだから。缶のイラスト関係無いよ」
「何だそれ、客をおちょくるトラップか!?」
「あのさぁ……。俺が一生懸命説明している横で何やってんだ?」
ルパートが恨めしそうに咎めた。
「すみません」
「小娘が悪い」
「あの……なんでウィーは魔王様とタメ口で会話をしているんだ?」
マスターが訝 しんだ。
「キースもルパートも俺も、魔王様の放つ気配に圧倒されているってのに。ウィーだって戦士の訓練は受けている。魔王様の強さを肌で感じているはずだろう?」
「それ、俺も不思議に思ってた。ウィーは初対面の時から魔王様にこんな感じだったよ」
二人から問い詰められた私は素直に答えた。
「それが……私にもよく判らないんです。どうしてだか、アルクナイトを見ても怖いと感じなくて」
それどころか懐かしい家族に会ったような感覚に陥 る。これは何なのだろう。
見つめる私の視線から逃れるように、アルクナイトは腕組みをしてそっぽを向いた。
「そんなことよりケイシーとやら、概要を理解できたのか?」
「はぁ、時間の輪に閉じ込められていると言われても正直ピンと来ませんが……、冷静な判断を下せるルパートまでもが信じているとなると、現在世界で何かが起きているということは確かなのでしょうね」
マスターはルパートのことを随分と買っているんだな。私よりもたった一年先輩の彼を、セスやキースを差し置いて出動班の主任にするくらいだものな。
私はここで、マスターに重要な質問をした。
「最近アンダー・ドラゴンと言う犯罪組織が勢力を広げていますが、彼らを討伐する命令が国から、王国兵団と冒険者ギルドに出されたのではないですか?」
「!…………」
マスターが発言した私をまじまじと見た。
「何で知っている? まだギルドの誰にも話しちゃいないんだが」
「未来で見て来たからです。ギルドはアンダー・ドラゴンの本拠地を見つけることが任務。隣町のレクセン支部と協力し合う手筈では?」
「……そうだ。レクセンから二人、人手不足のこちらへ助っ人を回してもらえるように調整している」
「その二人の職員は、マキアとエンと言う名の青年に決まるはずです」
「それも未来で知ったのか?」
「はい」
マスターは頭をガシガシ乱暴に搔いた。ああ、少ない毛髪が絶対にダメージを受けたろーな。
「くそっ、言い当てられた! 本当に俺達は十日間を繰り返しているのか!?」
彼の中で時間逆行が現実となった瞬間だった。アルクナイトが畳み掛けた。
「現実を受け入れろケイシー。この問題を解決する為に、俺はおまえの部下達と手を組んでやった。後はここには居ないがエリアス・モルガナンとも共闘関係にある」
「えっ、モルガナン家は勇者の一族でしょう? 魔王様はかつての宿敵と手を取り合ったのですか?」
「非常事態だ」
白々しい噓を息をするように吐くものだ。非常事態の前から幼馴染みだったやん。
「それだけのことが起きているのだと思い知れ、ケイシー。とりあえず今は俺様の為に部屋を用意しろ。そろそろ眠い」
マスターは頷いた。厳しい現実と魔王の滞在を受け入れたのだ。
「……承知しました。この部屋を出て、対面の一つ左の部屋をお使い下さい。誰かリネン室に行って、必要な寝具を用意して差し上げてくれ。すまんが俺は執務室に戻る」
「はい。私が行きます」
私はベッドから立ち上がった。流石にベッドメイクを先輩にさせるのは気が引けたから。すると、
「俺も行く。さっさと終わらせよう」
ルパートが手伝いを申し出てくれた。
「あ、でしたら僕も……」
独りでアルクナイトの傍に残されることを避けたがったキースも続こうとしたが、我儘な魔王に服の裾を摘 まれた。
「白は残って俺の話し相手になれ」
「ええ~?」
キースに子守りを任せて私とルパートはさっさとリネン室へ向かった。
洗ってあった枕カバー、シーツ、ブランケットを持って対象の部屋へ引き返した。
「あの、先輩、マスターへ説明ありがとうございました」
シーツを伸ばしながら私は礼を言った。調子に乗るかと思ったルパートは、何故か暗い口調で言った。
「……悪かったな、すぐにおまえの話を信じてやれなくて」
「え、あ、それは仕方が無いですよ。実際に体験しないとアレは……。時間逆行なんて言われても普通は疑いますって」
朝は孤独だったが、同じ目的を持つ仲間が沢山できたので、私は精神的にだいぶ落ち着いていた。もう信じてくれなかったルパートを怒っていないし、責める気も無かった。
「それでも、エリアスさんは最初からおまえを信じようとした」
……そうか。ルパートはエリアスと自分を比べちゃったのか。
慰めると余計に彼を落ち込ませそうで、私は言葉を掛けられなかった。
「……準備はできた。魔王様を呼びに行こうぜ」
黙ったまま二人で私の部屋へ戻った。扉を開けると困り顔のキースが出迎えた。
「どうしましょう。魔王様、落ちました……」
彼の視線が示す先を見て私は脱力した。大の字になったアルクナイトが私のベッドで爆睡していた。おーい。
「なぁ俺、顔赤かったりするか……?」
ルパートが眉をハの字にした情けない顔で尋ねて来た。実際は頬が紅潮した恋する乙女の風貌だったが、落ち着かせる為に優しく言った。
「大丈夫、ほぼ平常に戻っていますよ」
「良かった……」
安堵の溜め息を吐いたルパートであったが、息を漏らす仕草すら色っぽい。キースの魅了は恐ろしい技である。
「小娘、おまえは完全に素に戻ったようだな」
「私は見つめ合った訳ではなく、うっかりキース先輩の瞳を覗き込んでしまっただけだから。そういえばアルクナイトは魅了の瞳についても知っていたのね?」
「前の周回で、酒場でエリーが白に魅了されるところを見た」
「えっ、私達が酒盛りした夜のこと? あそこにもアンタ居たの? その外見でよく酒場に入られたね?」
「小金を店主に渡したら入店できた。エリーの観察日記をつけることが俺のルーティンワークだからな」
どんだけ好きなんよ。そりゃエリアスさん、家出してでもアルクナイトから逃れようとするわ。あと子供を酒場に入れた店主は捕まれ。
「ふう~~~~」
ルパートが私の横に座り直し、ベッドの上で深呼吸した。だいぶ自分を取り戻せたようだ。そのタイミングでキースと、彼に連れられてギルドマスターが部屋に入ってきた。
「……っ!」
マスターはアルクナイトを
「こいつは……驚いたな。キースの言っていたことは事実だったようだ。よもや本物の魔王様にお目にかかる日が来るとは思わなかったよ」
「いかにも。我こそが魔王アルクナイトである」
アルクナイトはイスに座ったままマスターに名乗った。脚を組み替えて偉そうだった。
「貴様がこの冒険者ギルドの責任者か?」
「……ケイシーと申します。宿泊するお部屋が必要とか?」
「そうだ。適した部屋を速やかに提供せよ。叶わぬ場合はこの小娘と
「それは駄目、絶対!」
復活したルパートが、青少年を犯罪から護るスローガンのような口調で止めた。
「マスター、魔王様は300歳以上だ」
「正確に言うと482歳だ」
「……そんな大人の男を、ウィーと同じベッドで寝させる訳にはいかないだろ?」
「エリーと違って子種を仕込むつもりは無いぞ?」
ばっ、馬鹿! 何てこと言うのよ! また顔が火照ってしまう。
「こういう卑猥なことを平気で言っちゃうお人なんだ。別の部屋で寝かせないと」
「そもそも、どうして魔王様の宿を冒険者ギルドが世話することになったんだ?」
マスターが冷静なツッコミを入れた。
「ふん、白に聞いていないのか。宿屋が満杯だからだ」
「そこではなく、どういった経緯で魔王様はウチの従業員と知り合ったのですか?」
ああ、まただよ。時間逆行してからエリアス、ルパート、キース、ずっと誰かに状況を説明し続けてきた。今度はマスターか。仕方が無いこととはいえ非常に面倒臭い。
私はルパートを上目遣いで見た。
「……俺に説明しろってか?」
「私よりも先輩の方が断然説明が上手いので。……駄目ですか?」
「ま、まぁしょうがねぇな。俺に任せておけ」
ルパートは鼻の頭を指で掻いてから、マスターへ時間逆行の長~い説明を始めた。何て乗せられ易い男なんだろう。でもそうか、こうやって甘えればルパートは動いてくれるのか。ちょっとズルい気もするけど、いつもは私が彼の使いっ走りをやらされているのだから、たまにはいいよね。
ルパートが事情を話している最中、アルクナイトがまた余計な茶々を入れて邪魔しそうになったので、机の引き出しに入れておいた飴玉をあげた。騒々しいお子様を黙らせるにはお菓子作戦が一番だ。
「ぶはっ」
しかし次の瞬間アルクナイトは盛大に噴き出した。唾液と言う名の魔王汁を私の顔面に噴射して。
「ぎゃあっ、何すんの!?」
「おまえが悪い! ソーダ味かと思ったらハッカじゃないか!」
アルクナイトは手の平に吐き出した水色の飴玉を忌々し気に睨んだ。私はそれを紙でくるんだ後に、再び飴の入った缶を彼に差し出した。
「ごめんごめん。もう一つ好きなの選んでいいから」
「ふん、口直しだ」
「今度は紅茶味か! オレンジ味だと思ったのに!」
「紅茶嫌いだった?」
「そうではなく、思っていたものと違う味がすると人は驚くものなんだ! 缶にフルーツのイラストが描いてあるから普通はオレンジだと思うだろ!?」
「あ、これ中身補充し直したやつだから。缶のイラスト関係無いよ」
「何だそれ、客をおちょくるトラップか!?」
「あのさぁ……。俺が一生懸命説明している横で何やってんだ?」
ルパートが恨めしそうに咎めた。
「すみません」
「小娘が悪い」
「あの……なんでウィーは魔王様とタメ口で会話をしているんだ?」
マスターが
「キースもルパートも俺も、魔王様の放つ気配に圧倒されているってのに。ウィーだって戦士の訓練は受けている。魔王様の強さを肌で感じているはずだろう?」
「それ、俺も不思議に思ってた。ウィーは初対面の時から魔王様にこんな感じだったよ」
二人から問い詰められた私は素直に答えた。
「それが……私にもよく判らないんです。どうしてだか、アルクナイトを見ても怖いと感じなくて」
それどころか懐かしい家族に会ったような感覚に
見つめる私の視線から逃れるように、アルクナイトは腕組みをしてそっぽを向いた。
「そんなことよりケイシーとやら、概要を理解できたのか?」
「はぁ、時間の輪に閉じ込められていると言われても正直ピンと来ませんが……、冷静な判断を下せるルパートまでもが信じているとなると、現在世界で何かが起きているということは確かなのでしょうね」
マスターはルパートのことを随分と買っているんだな。私よりもたった一年先輩の彼を、セスやキースを差し置いて出動班の主任にするくらいだものな。
私はここで、マスターに重要な質問をした。
「最近アンダー・ドラゴンと言う犯罪組織が勢力を広げていますが、彼らを討伐する命令が国から、王国兵団と冒険者ギルドに出されたのではないですか?」
「!…………」
マスターが発言した私をまじまじと見た。
「何で知っている? まだギルドの誰にも話しちゃいないんだが」
「未来で見て来たからです。ギルドはアンダー・ドラゴンの本拠地を見つけることが任務。隣町のレクセン支部と協力し合う手筈では?」
「……そうだ。レクセンから二人、人手不足のこちらへ助っ人を回してもらえるように調整している」
「その二人の職員は、マキアとエンと言う名の青年に決まるはずです」
「それも未来で知ったのか?」
「はい」
マスターは頭をガシガシ乱暴に搔いた。ああ、少ない毛髪が絶対にダメージを受けたろーな。
「くそっ、言い当てられた! 本当に俺達は十日間を繰り返しているのか!?」
彼の中で時間逆行が現実となった瞬間だった。アルクナイトが畳み掛けた。
「現実を受け入れろケイシー。この問題を解決する為に、俺はおまえの部下達と手を組んでやった。後はここには居ないがエリアス・モルガナンとも共闘関係にある」
「えっ、モルガナン家は勇者の一族でしょう? 魔王様はかつての宿敵と手を取り合ったのですか?」
「非常事態だ」
白々しい噓を息をするように吐くものだ。非常事態の前から幼馴染みだったやん。
「それだけのことが起きているのだと思い知れ、ケイシー。とりあえず今は俺様の為に部屋を用意しろ。そろそろ眠い」
マスターは頷いた。厳しい現実と魔王の滞在を受け入れたのだ。
「……承知しました。この部屋を出て、対面の一つ左の部屋をお使い下さい。誰かリネン室に行って、必要な寝具を用意して差し上げてくれ。すまんが俺は執務室に戻る」
「はい。私が行きます」
私はベッドから立ち上がった。流石にベッドメイクを先輩にさせるのは気が引けたから。すると、
「俺も行く。さっさと終わらせよう」
ルパートが手伝いを申し出てくれた。
「あ、でしたら僕も……」
独りでアルクナイトの傍に残されることを避けたがったキースも続こうとしたが、我儘な魔王に服の裾を
「白は残って俺の話し相手になれ」
「ええ~?」
キースに子守りを任せて私とルパートはさっさとリネン室へ向かった。
洗ってあった枕カバー、シーツ、ブランケットを持って対象の部屋へ引き返した。
「あの、先輩、マスターへ説明ありがとうございました」
シーツを伸ばしながら私は礼を言った。調子に乗るかと思ったルパートは、何故か暗い口調で言った。
「……悪かったな、すぐにおまえの話を信じてやれなくて」
「え、あ、それは仕方が無いですよ。実際に体験しないとアレは……。時間逆行なんて言われても普通は疑いますって」
朝は孤独だったが、同じ目的を持つ仲間が沢山できたので、私は精神的にだいぶ落ち着いていた。もう信じてくれなかったルパートを怒っていないし、責める気も無かった。
「それでも、エリアスさんは最初からおまえを信じようとした」
……そうか。ルパートはエリアスと自分を比べちゃったのか。
慰めると余計に彼を落ち込ませそうで、私は言葉を掛けられなかった。
「……準備はできた。魔王様を呼びに行こうぜ」
黙ったまま二人で私の部屋へ戻った。扉を開けると困り顔のキースが出迎えた。
「どうしましょう。魔王様、落ちました……」
彼の視線が示す先を見て私は脱力した。大の字になったアルクナイトが私のベッドで爆睡していた。おーい。