新五幕 マキアとエンとの再会(1)
文字数 4,374文字
二人の男性に求婚されて今後の騒動を心配した私であったが、拍子抜けするくらい日々は順調に過ぎていった。
公認のライバルとなったエリアスとルパートはお互いを牽制するあまり、抜け駆けして私にアプローチすることができなくなった。自滅したのだ。アルクナイトが邪悪な笑みで、二人を「ばーか」と評していた。
私としては時間のループを壊すことに今は集中したいので、この展開を喜んで受け入れている状態だ。
いや恋愛に興味有るよ? したいよ? でもそれはマキアとエンを護り切って、ループで区切られた十日目の先へ進んでからの話だ。
そんな想いで私は鍛錬に励んだ。筋肉量は簡単には増えないが、エリアスとルパート、それにアルクナイトが訓練の相手を務めてくれたおかげで、反応速度がだいぶ上がったと自負している。勇者と聖騎士と魔王に手ほどきを受けた人間は、世界広しと言えど私くらいのもんじゃないだろうか。
そして今日、万全の態勢で私達はついに、レクセン支部から来た二人を招き入れることになった。この日の為にずっと準備してきたのだ。
私、エリアス、ルパート、キース、そしてギルドマスターは若干の緊張感と共にその瞬間に臨んだ。
「はじめまして、レクセンから参りましたマキアです」
「…………エンです」
冒険者ギルドの会議室、既に着席してテーブルに付いていた私達の前へ、マスターに案内されて若い二人は姿を現した。
(マキアだ、エンも…………!)
生きている。二人が生きて喋っている。一周目で悲しい別れをしていた私は感慨深くなって涙が零れそうになった。
(また声を聞けて嬉しい。絶対に今度は死なせない)
必死で涙を堪 える私の左手を、テーブルの下でエリアスが握ってきた。これ一周目も有ったなぁとか考えていると、右手も温かい熱に包まれた。右隣のルパートだった。
うわあぁぁぁぁ。二人の男性に手を握られているよ。涙は引っ込んだが、照れ臭くて手汗を搔きそう。
そしてマキアとエンも別の理由で泣きそうになっていた。
「……あの、お一人様、半端ない魔力量の方がいらっしゃいますよね。少年に見えるのですが……?」
震える声でマキアが指摘した。彼の怯える視線の先には、意外過ぎる程に付き合いが良くて、この会議にも同席していたアルクナイトが居た。安物のイスの上でふんぞり返る彼を見て、マキアだけではなくエンも冷や汗を搔いていた。
「ああ、心配しなくていい。彼は俺達の協力者だ。見た目よりもだいぶ大人の方だ」
マスターが軽い調子で紹介したので、レクセン支部の二人は少し落ち着きを取り戻して着席した。
「凄い助っ人さんがいらっしゃるんですね。普段はどんなお仕事をされているんですか?」
「魔王様だ」
マキアは目をパチクリさせて、エンは眉間に皺 を寄せた。
「…………はい?」
「彼は三百年前に人類と戦った、魔王アルクナイトその人だ」
「……………………」
マキアとエンは顔を見合わせた後、もう一度確認した。
「あの、比喩表現とかニックネームとかではなく、本当に本当に魔王様なんですか?」
「正真正銘、本物の魔王様だ。ちなみに向かって右端に座っているお人は勇者の一族出身だ」
エリアスが軽く左手を上げた。右手は私と繋いだままだ。
「はいぃ!? 勇者と魔王が列席しているんですか!? 俺が参加しようとしているこの会議は、政府主催の大陸会議ですか!?」
「訳解んないよな? 俺もそうだったよ。でも数日もしたら慣れるから」
「そういうもんッスか……?」
混乱するマキアの横から、エンが珍しく自主的に喋った。
「勇者と魔王、両名の強大な力を必要とする程に、今回の任務は大仕事になるのですか? 自分はアンダー・ドラゴンの本拠地を探るだけだと聞いていますが?」
「ああ、それねぇ……」
マスターは生え際が後退した頭を掻いた。そして私達を見た。
「いいよね? 言っちゃっても」
軽いな。ルパートが頷いた。
「ああ。彼らはある意味、当事者だ。知ってもらって身辺を警戒してもらった方が良いだろう」
「当事者……?」
「あの、俺達が何か……?」
不安そうなレクセンの青年二人に、マスターは真剣な眼差しで向き直った。
「落ち着いて聞いて欲しい。このまま行くとキミ達二人は……」
つられてマキアとエンも真面目な表情となった。
「明日確実に死にます」
二人は同時に噴き出した。
「んー何かさ、明日アンドラの首領と鉢合わせするみたいなんだよね。それでエンくんは刀で斬られて、マキアくんに至っては炎魔法で自爆しちゃうみたいなんだ。あ、でもね、行動次第で悲惨な未来は回避できるみたいだからドンマイドンマイ」
「ドンマイじゃねぇぇ!! このハゲ!」
ルパートがマスターを怒鳴った。私の手をぎゅっと握ったままで。
「誰がハゲじゃあ!」
「もっと他に言い方があんだろーが! 見ろ、むせちまってんだろーがよ!」
唾が気道に入ってしまったらしく、マキアが激しく咳込んでいた。いきなり相手に真顔で死ぬとか言われたらそうなるよね。
マキアの背中を擦 りながら、比較的早く立ち直ったエンが聞いた。
「明日とはどういうことです? どうして未来の出来事が判るのですか?」
答えたのはアルクナイトだった。
「未来を見て来たからだ。十七回もな」
「未来を……? 透視魔法か占いで?」
「いいや。この身で実際に体験してきた。お前達もそうなんだ、忘れているだけで。俺達は全員時間のループの中に囚われている」
「ループ……」
アルクナイトは十日毎 に世界が繰り返されていること、最後は私の結婚式で締め括られていること、少女の姿をした神の存在を二人に話して聞かせた。
「もっとも、最終日に俺は別の場所に居るので、おまえ達の細かい行動については把握していない。小娘、二人に詳しく話してやれ」
「あ、うん……!」
とてもつらい未来。でも変える為には知ってもらわなければならない。私は左右から手を繋いで励ましてくれている、エリアスとルパートにパワーを貰って頑張った。
できるだけ丁寧に、私が持つ最終日の情報を残さず彼らに伝えた。
「……………………」
「……………………」
聞き終わったマキアとエンは、何とも言えない表情で私を見ていた。
「いきなりこんなことを言われても信じられないよね? でも本当のことなんだ。私は二人を死なせたくない。だから、信じられなくても行動には気をつけて欲しい」
「……いや、信じますよ」
エンが言った。
「あなたの話では、俺は首領の側近の男に殺されるんですよね? そいつも俺と同じ覆面姿で、俺が兄と慕う相手だって……。俺、その男に心当たりが有るんです。誰にも話していませんでしたが、俺には過去に同じ組織に属していた兄弟子が居るんです」
「俺も……」
マキアは両腕で自分自身を抱きしめながら感情を吐露した。
「実はここ一週間、連続で炎に焼かれる夢を見てるんですよ」
「そう言えばおまえ、夢見が悪いって言っていたな」
「うん。もしかしたら自爆して死んだっていう、前の周の記憶が引き継がれているのかもしれない」
……そうだったんだ。マキアは二周目でも悪夢に苦しめられていて、エンは慕っていた兄弟子と敵対することを知った。
「二人にとってはつらい未来だと思う。でも私達は変えたくて、ループを打ち破る為に仲間を増やして準備してきたの。あなた達にも協力してもらいたい。一緒に十日後へ進む為に」
「もちろんです。未来を知っているんだ、いくらでも手は打てる」
「ああ。絶対に生き延びて先へ進んでやる!」
力強く宣言した二名を見て私は安堵した。良かった。きっと一周目とは違う流れになる。
とても嬉しくて、エリアスとルパートに繋がれている手を握り返した。ありがとう、二人が支えてくれたおかげだよ。
私の気持ちに呼応して、左右の男達の手に更なる力が込められた。
「……っ痛ぁぁぁぁぁぁ!!」
それが強過ぎて、私は悲鳴を上げてしまった。テーブル対面の席に座るマキアとエンが、突然の大声に驚いて後退 りした。
「すまないロックウィーナ、力加減を誤った!」
「わりぃ! おまえってば思っていたより華奢 なんだな」
ほぼ同時にエリアスとルパートが詫びて来て、そして「ん?」という顔になった。
「ちょっと待てルパート、おまえも彼女と手を繋いでいたのか?」
「そう言うアンタもか? テーブルの下でコッソリと何やってるんだよ、このムッツリが」
「人に難癖をつけられる立場か? 私は心細そうなロックウィーナを元気づけようとしただけだ」
「俺だって」
二人は火花を散らし合った後、今度は私を非難してきた。
「おまえも隙が多いぞウィー、何でエリアスさんの手も握ってんだよ!? そこは俺だけにしろよ、ビッチちゃんか!」
「いいや私の手を取るべきだ! 今度からルパートが手を伸ばしてきても叩き落とせ!」
「だから痛い、痛いですってば! 二人とも一旦手を放して!」
喧嘩中も二人は手を握ったままだった。
「ウィーが痛がってるだろ、放せよ!」
「おまえこそだ、彼女を苦しめるな!」
ガコン。
何故か空中に金ダライが二個出現し、それぞれがルパートとエリアスの頭にクリーンヒットして消えた。
「いてっ」
「くそっ……、このツッコミ方法はアルだな!」
ようやく二人の手が離れた。やれやれ。アルクナイトがいつも以上に見下す視線で男二人をねめつけた。
「馬鹿者共が。真面目な会議中に何をしている? 小娘にセクハラをかますな」
「セクハラじゃなくて、エールを送っただけだから」
「そうそう」
アルクナイトは全員に見せつけるように溜め息を吐いた。
「面倒臭い馬鹿だ。白、おまえの瞳で魅了してやれ」
名指しされたキースはニッコニコの笑顔で、しかし低い声で応 えた。
「本当に困った人達ですよねぇ……。魔王様に言われたように、二人を僕の虜 にしてしまいましょうか。そうすればロックウィーナへの被害が無くなりますからねぇ」
「すみませんでしたぁ!!」
ルパートは慌てて謝ったが、今周ではまだ魅了の瞳の恐ろしさを知らないエリアスは余裕だった。
「ではルパート、おまえはロックウィーナ争奪戦から降りる、それでいいんだな?」
そんなエリアスに片手で前髪を上げたキースが近付いた。
「エリアスさん、僕をよく見て下さい……」
「は? …………………………………………。ぐっはぁぁ!!」
キースと見つめ合うこと八秒間、エリアスはイスから落ちて会議室の床を転げ回った。あーあ、となる私達。
そして何が起きているか理解できずに怯えているマキアとエン。きっとこのチームで大丈夫かな? とかも思ってる。
大丈夫、大丈夫。私は心の中で呟いた。戦闘力については問題無いから。うん、それだけは大丈夫。太鼓判。
私はマキアとエンを安心させようと笑顔を向けたが、上手く笑えたかイマイチ自信が持てなかった。
公認のライバルとなったエリアスとルパートはお互いを牽制するあまり、抜け駆けして私にアプローチすることができなくなった。自滅したのだ。アルクナイトが邪悪な笑みで、二人を「ばーか」と評していた。
私としては時間のループを壊すことに今は集中したいので、この展開を喜んで受け入れている状態だ。
いや恋愛に興味有るよ? したいよ? でもそれはマキアとエンを護り切って、ループで区切られた十日目の先へ進んでからの話だ。
そんな想いで私は鍛錬に励んだ。筋肉量は簡単には増えないが、エリアスとルパート、それにアルクナイトが訓練の相手を務めてくれたおかげで、反応速度がだいぶ上がったと自負している。勇者と聖騎士と魔王に手ほどきを受けた人間は、世界広しと言えど私くらいのもんじゃないだろうか。
そして今日、万全の態勢で私達はついに、レクセン支部から来た二人を招き入れることになった。この日の為にずっと準備してきたのだ。
私、エリアス、ルパート、キース、そしてギルドマスターは若干の緊張感と共にその瞬間に臨んだ。
「はじめまして、レクセンから参りましたマキアです」
「…………エンです」
冒険者ギルドの会議室、既に着席してテーブルに付いていた私達の前へ、マスターに案内されて若い二人は姿を現した。
(マキアだ、エンも…………!)
生きている。二人が生きて喋っている。一周目で悲しい別れをしていた私は感慨深くなって涙が零れそうになった。
(また声を聞けて嬉しい。絶対に今度は死なせない)
必死で涙を
うわあぁぁぁぁ。二人の男性に手を握られているよ。涙は引っ込んだが、照れ臭くて手汗を搔きそう。
そしてマキアとエンも別の理由で泣きそうになっていた。
「……あの、お一人様、半端ない魔力量の方がいらっしゃいますよね。少年に見えるのですが……?」
震える声でマキアが指摘した。彼の怯える視線の先には、意外過ぎる程に付き合いが良くて、この会議にも同席していたアルクナイトが居た。安物のイスの上でふんぞり返る彼を見て、マキアだけではなくエンも冷や汗を搔いていた。
「ああ、心配しなくていい。彼は俺達の協力者だ。見た目よりもだいぶ大人の方だ」
マスターが軽い調子で紹介したので、レクセン支部の二人は少し落ち着きを取り戻して着席した。
「凄い助っ人さんがいらっしゃるんですね。普段はどんなお仕事をされているんですか?」
「魔王様だ」
マキアは目をパチクリさせて、エンは眉間に
「…………はい?」
「彼は三百年前に人類と戦った、魔王アルクナイトその人だ」
「……………………」
マキアとエンは顔を見合わせた後、もう一度確認した。
「あの、比喩表現とかニックネームとかではなく、本当に本当に魔王様なんですか?」
「正真正銘、本物の魔王様だ。ちなみに向かって右端に座っているお人は勇者の一族出身だ」
エリアスが軽く左手を上げた。右手は私と繋いだままだ。
「はいぃ!? 勇者と魔王が列席しているんですか!? 俺が参加しようとしているこの会議は、政府主催の大陸会議ですか!?」
「訳解んないよな? 俺もそうだったよ。でも数日もしたら慣れるから」
「そういうもんッスか……?」
混乱するマキアの横から、エンが珍しく自主的に喋った。
「勇者と魔王、両名の強大な力を必要とする程に、今回の任務は大仕事になるのですか? 自分はアンダー・ドラゴンの本拠地を探るだけだと聞いていますが?」
「ああ、それねぇ……」
マスターは生え際が後退した頭を掻いた。そして私達を見た。
「いいよね? 言っちゃっても」
軽いな。ルパートが頷いた。
「ああ。彼らはある意味、当事者だ。知ってもらって身辺を警戒してもらった方が良いだろう」
「当事者……?」
「あの、俺達が何か……?」
不安そうなレクセンの青年二人に、マスターは真剣な眼差しで向き直った。
「落ち着いて聞いて欲しい。このまま行くとキミ達二人は……」
つられてマキアとエンも真面目な表情となった。
「明日確実に死にます」
二人は同時に噴き出した。
「んー何かさ、明日アンドラの首領と鉢合わせするみたいなんだよね。それでエンくんは刀で斬られて、マキアくんに至っては炎魔法で自爆しちゃうみたいなんだ。あ、でもね、行動次第で悲惨な未来は回避できるみたいだからドンマイドンマイ」
「ドンマイじゃねぇぇ!! このハゲ!」
ルパートがマスターを怒鳴った。私の手をぎゅっと握ったままで。
「誰がハゲじゃあ!」
「もっと他に言い方があんだろーが! 見ろ、むせちまってんだろーがよ!」
唾が気道に入ってしまったらしく、マキアが激しく咳込んでいた。いきなり相手に真顔で死ぬとか言われたらそうなるよね。
マキアの背中を
「明日とはどういうことです? どうして未来の出来事が判るのですか?」
答えたのはアルクナイトだった。
「未来を見て来たからだ。十七回もな」
「未来を……? 透視魔法か占いで?」
「いいや。この身で実際に体験してきた。お前達もそうなんだ、忘れているだけで。俺達は全員時間のループの中に囚われている」
「ループ……」
アルクナイトは十日
「もっとも、最終日に俺は別の場所に居るので、おまえ達の細かい行動については把握していない。小娘、二人に詳しく話してやれ」
「あ、うん……!」
とてもつらい未来。でも変える為には知ってもらわなければならない。私は左右から手を繋いで励ましてくれている、エリアスとルパートにパワーを貰って頑張った。
できるだけ丁寧に、私が持つ最終日の情報を残さず彼らに伝えた。
「……………………」
「……………………」
聞き終わったマキアとエンは、何とも言えない表情で私を見ていた。
「いきなりこんなことを言われても信じられないよね? でも本当のことなんだ。私は二人を死なせたくない。だから、信じられなくても行動には気をつけて欲しい」
「……いや、信じますよ」
エンが言った。
「あなたの話では、俺は首領の側近の男に殺されるんですよね? そいつも俺と同じ覆面姿で、俺が兄と慕う相手だって……。俺、その男に心当たりが有るんです。誰にも話していませんでしたが、俺には過去に同じ組織に属していた兄弟子が居るんです」
「俺も……」
マキアは両腕で自分自身を抱きしめながら感情を吐露した。
「実はここ一週間、連続で炎に焼かれる夢を見てるんですよ」
「そう言えばおまえ、夢見が悪いって言っていたな」
「うん。もしかしたら自爆して死んだっていう、前の周の記憶が引き継がれているのかもしれない」
……そうだったんだ。マキアは二周目でも悪夢に苦しめられていて、エンは慕っていた兄弟子と敵対することを知った。
「二人にとってはつらい未来だと思う。でも私達は変えたくて、ループを打ち破る為に仲間を増やして準備してきたの。あなた達にも協力してもらいたい。一緒に十日後へ進む為に」
「もちろんです。未来を知っているんだ、いくらでも手は打てる」
「ああ。絶対に生き延びて先へ進んでやる!」
力強く宣言した二名を見て私は安堵した。良かった。きっと一周目とは違う流れになる。
とても嬉しくて、エリアスとルパートに繋がれている手を握り返した。ありがとう、二人が支えてくれたおかげだよ。
私の気持ちに呼応して、左右の男達の手に更なる力が込められた。
「……っ痛ぁぁぁぁぁぁ!!」
それが強過ぎて、私は悲鳴を上げてしまった。テーブル対面の席に座るマキアとエンが、突然の大声に驚いて
「すまないロックウィーナ、力加減を誤った!」
「わりぃ! おまえってば思っていたより
ほぼ同時にエリアスとルパートが詫びて来て、そして「ん?」という顔になった。
「ちょっと待てルパート、おまえも彼女と手を繋いでいたのか?」
「そう言うアンタもか? テーブルの下でコッソリと何やってるんだよ、このムッツリが」
「人に難癖をつけられる立場か? 私は心細そうなロックウィーナを元気づけようとしただけだ」
「俺だって」
二人は火花を散らし合った後、今度は私を非難してきた。
「おまえも隙が多いぞウィー、何でエリアスさんの手も握ってんだよ!? そこは俺だけにしろよ、ビッチちゃんか!」
「いいや私の手を取るべきだ! 今度からルパートが手を伸ばしてきても叩き落とせ!」
「だから痛い、痛いですってば! 二人とも一旦手を放して!」
喧嘩中も二人は手を握ったままだった。
「ウィーが痛がってるだろ、放せよ!」
「おまえこそだ、彼女を苦しめるな!」
ガコン。
何故か空中に金ダライが二個出現し、それぞれがルパートとエリアスの頭にクリーンヒットして消えた。
「いてっ」
「くそっ……、このツッコミ方法はアルだな!」
ようやく二人の手が離れた。やれやれ。アルクナイトがいつも以上に見下す視線で男二人をねめつけた。
「馬鹿者共が。真面目な会議中に何をしている? 小娘にセクハラをかますな」
「セクハラじゃなくて、エールを送っただけだから」
「そうそう」
アルクナイトは全員に見せつけるように溜め息を吐いた。
「面倒臭い馬鹿だ。白、おまえの瞳で魅了してやれ」
名指しされたキースはニッコニコの笑顔で、しかし低い声で
「本当に困った人達ですよねぇ……。魔王様に言われたように、二人を僕の
「すみませんでしたぁ!!」
ルパートは慌てて謝ったが、今周ではまだ魅了の瞳の恐ろしさを知らないエリアスは余裕だった。
「ではルパート、おまえはロックウィーナ争奪戦から降りる、それでいいんだな?」
そんなエリアスに片手で前髪を上げたキースが近付いた。
「エリアスさん、僕をよく見て下さい……」
「は? …………………………………………。ぐっはぁぁ!!」
キースと見つめ合うこと八秒間、エリアスはイスから落ちて会議室の床を転げ回った。あーあ、となる私達。
そして何が起きているか理解できずに怯えているマキアとエン。きっとこのチームで大丈夫かな? とかも思ってる。
大丈夫、大丈夫。私は心の中で呟いた。戦闘力については問題無いから。うん、それだけは大丈夫。太鼓判。
私はマキアとエンを安心させようと笑顔を向けたが、上手く笑えたかイマイチ自信が持てなかった。