新一幕 勇者と聖騎士と魔王(2)
文字数 3,901文字
「何でっ……」
ルパートは私に詰め寄った。
「何でおまえがそれを知っている! 誰から聞いた!?」
ルパートは私の肩を掴まえてガックンガックン揺らした。わあぁ脳みそがシェイクされるうぅ。
エリアスが間に入ってくれたが、いつもより遠慮がちの制止だった。「恋人と親友に裏切られた」。このフレーズでおおよその事情を察したのだろう。
「言えよ! 誰から聞いたんだ!」
「先輩ですよ!」
揺さ振られて酔い掛けたが大声で主張した。
「ルパート先輩が、未来で私に話してくれたんです!」
「そんな馬鹿なことが有ってたまるか!」
「有ったんですよ! ちなみに先輩の悪評が流された時に、味方になって噂を打ち消そうとしてくれたのがルービックさんですね? 現在43歳のエリート聖騎士」
「なっ……、おま、何でルービックさんのことまで知ってんだよ?」
ルパートは明らかに狼狽えていた。ここで畳み掛ければいけるかもしれない。いや彼を倒したい訳ではないが。
「未来の先輩のご紹介です。私の恋人にルービックさんはどうかって」
「俺が……?」
「ルパート貴様、私のロックウィーナ嬢に男を斡旋しているのか!?」
エリアスがルパートに突っ掛かった。注目してほしい点はそこじゃない。でもまぁ、私とルパートの微妙な関係を説明するにはいい機会かもね。
「ルパート先輩は過去に私をフッたくせに、私が恋人を作ろうとすると邪魔をするからとっちめたんです。それで未来の先輩は、私の恋人作りに協力する約束をしたんですよ」
「え……」
エリアスが私とルパートの顔を交互に見た。
「ルパートに振られた……? レディ……貴女はルパートが好きだったのか?」
アハハハ。とっても恥ずかしいが、ルパートの過去を暴露したのだから私も潔く認めよう。
「はい。六年前に告白しました。先輩は私の初恋の相手でした」
エリアスが目を剥き、ルパートは照れ臭そうに横を向いた。
「今も……そうなのか?」
らしくない弱い声で尋ねてきたエリアスに、私は明確に答えた。
「いいえ全然。今となっては黒歴史です」
「良かった」
「おい」
胸を撫ぜ下ろしたエリアスは、ルパートを視線で牽制した。
「しかしそうなるとルパートの態度が腑に落ちない。レディを袖にしておいて、どうして付き纏い行為をするんだ?」
「付き纏いって……」
「しているだろう? まるで恋人のようにレディを束縛している。彼女を拒絶したくせに」
「うっ……」
エリアスに問い詰められてタジタジになったルパートはいい気味だが、時間が惜しいので助け舟を出した。
「先輩の私への感情は、妹を心配する兄なんだそうです。それで私に言い寄る男性を吟味しているらしいですよ。すっごい迷惑なんですけどね」
「それはウザいな」
「おい」
「とにかく先輩、これで私が時間を逆行したと信じてもらえましたか? 今の私が知らないはずの情報を持っていたでしょう?」
「でもよ……、そんな夢みたいな話が現実に有る訳ないじゃん」
疑い深い奴め。
「ルパート、レディが話した事柄は全てキミに当てはまるのか?」
「それは……まぁ。でもさ、時間を遡 るなんて不可能でしょ?」
「ふむ。レディ、私についての情報は無いか? 未来の私はどうだったか教えてくれ」
未来のエリアスについて……。情報有るけどさ、私と結婚して子供を四人もうけるとか言っちゃっていいの? めっちゃ気まずいんだけど。
「おいウィー、まばたきが異様に多くなってるぞ?」
「目に埃が入っただけです」
「眼球を傷付けたら大変だ。私に見せてごらん」
「どっはぁ!! 近、エリアスさんお顔が近いです! だ、大丈夫、埃はもう取れましたから!」
「おいコラ離れろ!!」
エリアスの不意打ちアップに腰が抜けそうになった。でもショックを受けたおかげで一つ思い出せた。
「エリアスさんのご実家モルガナン家は勇者の一族! 結婚式では指輪じゃなくて短剣を交換するんですよね?」
「!」
エリアスが真顔になった。
「……その通りだ。短剣の交換に立ち会うのは近親者のみで、他の参列者には知らされない情報だ」
「え、マジで……? つーか、何で短剣?」
「互いの覚悟の交換なんだ。親族ではないレディがそれを知っているということは、つまり……」
エリアスは私の左手を自身の両手でそっと包み込んだ。
「未来で貴女は伴侶として、私の隣に並んだんだな」
エリアスさんたら察しが良過ぎぃぃ。
「ちょっ……何だソレ、俺は認めねぇぞ!」
抗議したルパートにエリアスは冷めた目を向けた。
「どうしてキミの許可が要る。婚姻は私とレディ、二人の間の問題だ」
そうだね。
エリアスは私には素晴らしい笑顔を見せた。
「求婚を承諾してくれてありがとう。これからは婚約者としてロックウィーナと呼ばせてもらおう」
承諾してないです。あくまでも未来の話です。
「呼び方はお好きなように。でもあのっ、結婚について今は考えられません。私には友人を救うという大きな目的が有るんです。その為に時間を遡ってきました」
「それは先ほど聞いた、レクセン支部に居るという二人のことか?」
「そうです。彼らは深緑の月、21日に殉職してしまうんです!」
「今年のか? ……もうすぐだな」
エリアスは周囲を見渡した。草原を涼しい風が通り抜けた。
「少し落ち着いて話そうか。ロックウィーナ、そこに座ろう。ルパートも彼女の話を冷静にもう一度聞いてみるんだ」
ルパートは渋々といった風だったがエリアスに従った。流石に私が持つ情報の多さに不自然さを感じたのだろう。
草の上に腰を降ろした私は語った。
犯罪組織アンダー・ドラゴンのアジトを探る命令が、国から冒険者ギルドに出されたこと。エリアスとレクセン支部から来た二人が、助っ人として任務に加わったこと。
一つ目のアジトで連絡係の男を取り逃がしたせいで、二つ目のアジトで首領達に待ち伏せされたこと。そして……。
「エンは殺されて、マキアは私とキース先輩を逃がす為に魔法で自爆したんです。二人ともまだ若かったのに……友達になれたばかりだったのに……」
エンとマキアの最期を思い出して私の瞳から涙が溢れた。右からエリアスが、左からルパートが腕を伸ばしてきて泣いている私の肩を抱いた。二人の男にガッチリ押さえられて身動きできなくなった。気持ちは嬉しいがこれではホールド状態だ。
息苦しさと男臭さを感じながら、私はあの少女のことも話した。
「……彼女はおそらく神と呼ばれる存在です。彼女と対話したおかげで私は過去に戻ってこられたんです」
「マジかよ……そんな。神なんていきなり言われてもさ……」
聞き終わったルパートはまだ疑っていた。エリアスは私を信じようとしてくれているが、自分で体験した訳ではない奇想天外な話だ、彼もまた半信半疑の状態だろう。
どうしたらいいんだろう。どうしたら信じてもらえるんだろう。私一人でやれることなどたかが知れている。信頼できて強い人の協力が絶対に必要なのに。
「俺の手助けが必要か? 小娘」
途方に暮れていた私の頭上から偉そうな声が降ってきた。何だ? 三人全員で空を見上げた。
「アルクナイト!!」
いち早く視認したエリアスが叫んで立ち上がった。太陽がまぶしかったが私とルパートも確認できた。
「魔……王」
銀髪の少年が空中に浮いて私達を見下ろしていた。うわぁあの人、いつから居たの?
「え、ええ? 誰? 人間が空に浮かんでんぞ。強力な風魔法か?」
混乱するルパートに私が説明した。
「彼はアルクナイト。エリアスさんの幼馴染みで、三百年前に世界を混乱させた魔王です」
「はぁ!? 魔王!? 噓吐け! でも野郎、とんでもない魔力の持ち主だ……」
空中のアルクナイトは余裕の笑みで腕組みをしていた。彼を睨みながらエリアスも肯定した。
「ロックウィーナの言う通りだ。アイツは父が管理する領地の隣に棲む、正真正銘の魔王で我がモルガナン家の宿敵だ」
「えええ……」
アルクナイトの魔力に威圧されたルパートは現実を受け入れた。
「確かにスゲェ存在のようだ。ウィー、何で魔王のことを知ってたんだ?」
「彼とも会ったんです。未来で」
あ、魔王の話をすれば結婚式のことを引き合いに出さなくても済んだのか。うっかり。
アルクナイトのことは今の今まで忘れていた。と言うより忘れていたかった。だって尻文字でメッセージを送ってくる変態なんて私の人生に不要だから。
「おい小娘、失礼なことを考えているだろう?」
空飛ぶ変態に指摘された。危ない、表情に出ていたか。
「アルクナイト、私の婚約者を怯えさせるな!」
「俺はおまえに怯えそうだ、エリー。強引な性格はいくつになっても直らんな。小娘はおまえとの婚姻をまだ承諾していないだろうが」
「な、何故それを知っている!?」
「見ていたから」
「…………は?」
「気配を消して、ずっとおまえを見ていたから、エリー」
ぞわり。背筋を冷たいものが走った。きっとエリアスは全身に鳥肌を立てている。そうだ、魔王はエリアスのストーカーだったよ。
「人間とは前後左右に注意を払うくせに、上空に誰か居るとは考えない迂闊な生き物だ」
空に鳥以外の誰かが居るとは普通考えないからね。気配を察知するルパートの風魔法は、アルクナイトのバリアに無効化されちゃうんだったっけ。
「……なるほど、今日の私の行動は貴様に筒抜けだった訳か」
悔しそうに顔を歪めたエリアスへ、アルクナイトは高圧的な笑みでキツイことを言った。
「いや? 昨日も見ていたぞ。おまえデカイ図体してそこの小娘に背負われていたな? ぷっ」
エリアスは無言で背中の大剣を抜いた。
ルパートは私に詰め寄った。
「何でおまえがそれを知っている! 誰から聞いた!?」
ルパートは私の肩を掴まえてガックンガックン揺らした。わあぁ脳みそがシェイクされるうぅ。
エリアスが間に入ってくれたが、いつもより遠慮がちの制止だった。「恋人と親友に裏切られた」。このフレーズでおおよその事情を察したのだろう。
「言えよ! 誰から聞いたんだ!」
「先輩ですよ!」
揺さ振られて酔い掛けたが大声で主張した。
「ルパート先輩が、未来で私に話してくれたんです!」
「そんな馬鹿なことが有ってたまるか!」
「有ったんですよ! ちなみに先輩の悪評が流された時に、味方になって噂を打ち消そうとしてくれたのがルービックさんですね? 現在43歳のエリート聖騎士」
「なっ……、おま、何でルービックさんのことまで知ってんだよ?」
ルパートは明らかに狼狽えていた。ここで畳み掛ければいけるかもしれない。いや彼を倒したい訳ではないが。
「未来の先輩のご紹介です。私の恋人にルービックさんはどうかって」
「俺が……?」
「ルパート貴様、私のロックウィーナ嬢に男を斡旋しているのか!?」
エリアスがルパートに突っ掛かった。注目してほしい点はそこじゃない。でもまぁ、私とルパートの微妙な関係を説明するにはいい機会かもね。
「ルパート先輩は過去に私をフッたくせに、私が恋人を作ろうとすると邪魔をするからとっちめたんです。それで未来の先輩は、私の恋人作りに協力する約束をしたんですよ」
「え……」
エリアスが私とルパートの顔を交互に見た。
「ルパートに振られた……? レディ……貴女はルパートが好きだったのか?」
アハハハ。とっても恥ずかしいが、ルパートの過去を暴露したのだから私も潔く認めよう。
「はい。六年前に告白しました。先輩は私の初恋の相手でした」
エリアスが目を剥き、ルパートは照れ臭そうに横を向いた。
「今も……そうなのか?」
らしくない弱い声で尋ねてきたエリアスに、私は明確に答えた。
「いいえ全然。今となっては黒歴史です」
「良かった」
「おい」
胸を撫ぜ下ろしたエリアスは、ルパートを視線で牽制した。
「しかしそうなるとルパートの態度が腑に落ちない。レディを袖にしておいて、どうして付き纏い行為をするんだ?」
「付き纏いって……」
「しているだろう? まるで恋人のようにレディを束縛している。彼女を拒絶したくせに」
「うっ……」
エリアスに問い詰められてタジタジになったルパートはいい気味だが、時間が惜しいので助け舟を出した。
「先輩の私への感情は、妹を心配する兄なんだそうです。それで私に言い寄る男性を吟味しているらしいですよ。すっごい迷惑なんですけどね」
「それはウザいな」
「おい」
「とにかく先輩、これで私が時間を逆行したと信じてもらえましたか? 今の私が知らないはずの情報を持っていたでしょう?」
「でもよ……、そんな夢みたいな話が現実に有る訳ないじゃん」
疑い深い奴め。
「ルパート、レディが話した事柄は全てキミに当てはまるのか?」
「それは……まぁ。でもさ、時間を
「ふむ。レディ、私についての情報は無いか? 未来の私はどうだったか教えてくれ」
未来のエリアスについて……。情報有るけどさ、私と結婚して子供を四人もうけるとか言っちゃっていいの? めっちゃ気まずいんだけど。
「おいウィー、まばたきが異様に多くなってるぞ?」
「目に埃が入っただけです」
「眼球を傷付けたら大変だ。私に見せてごらん」
「どっはぁ!! 近、エリアスさんお顔が近いです! だ、大丈夫、埃はもう取れましたから!」
「おいコラ離れろ!!」
エリアスの不意打ちアップに腰が抜けそうになった。でもショックを受けたおかげで一つ思い出せた。
「エリアスさんのご実家モルガナン家は勇者の一族! 結婚式では指輪じゃなくて短剣を交換するんですよね?」
「!」
エリアスが真顔になった。
「……その通りだ。短剣の交換に立ち会うのは近親者のみで、他の参列者には知らされない情報だ」
「え、マジで……? つーか、何で短剣?」
「互いの覚悟の交換なんだ。親族ではないレディがそれを知っているということは、つまり……」
エリアスは私の左手を自身の両手でそっと包み込んだ。
「未来で貴女は伴侶として、私の隣に並んだんだな」
エリアスさんたら察しが良過ぎぃぃ。
私達の
結婚式という表現を避けた意味が無―い!!「ちょっ……何だソレ、俺は認めねぇぞ!」
抗議したルパートにエリアスは冷めた目を向けた。
「どうしてキミの許可が要る。婚姻は私とレディ、二人の間の問題だ」
そうだね。
エリアスは私には素晴らしい笑顔を見せた。
「求婚を承諾してくれてありがとう。これからは婚約者としてロックウィーナと呼ばせてもらおう」
承諾してないです。あくまでも未来の話です。
「呼び方はお好きなように。でもあのっ、結婚について今は考えられません。私には友人を救うという大きな目的が有るんです。その為に時間を遡ってきました」
「それは先ほど聞いた、レクセン支部に居るという二人のことか?」
「そうです。彼らは深緑の月、21日に殉職してしまうんです!」
「今年のか? ……もうすぐだな」
エリアスは周囲を見渡した。草原を涼しい風が通り抜けた。
「少し落ち着いて話そうか。ロックウィーナ、そこに座ろう。ルパートも彼女の話を冷静にもう一度聞いてみるんだ」
ルパートは渋々といった風だったがエリアスに従った。流石に私が持つ情報の多さに不自然さを感じたのだろう。
草の上に腰を降ろした私は語った。
犯罪組織アンダー・ドラゴンのアジトを探る命令が、国から冒険者ギルドに出されたこと。エリアスとレクセン支部から来た二人が、助っ人として任務に加わったこと。
一つ目のアジトで連絡係の男を取り逃がしたせいで、二つ目のアジトで首領達に待ち伏せされたこと。そして……。
「エンは殺されて、マキアは私とキース先輩を逃がす為に魔法で自爆したんです。二人ともまだ若かったのに……友達になれたばかりだったのに……」
エンとマキアの最期を思い出して私の瞳から涙が溢れた。右からエリアスが、左からルパートが腕を伸ばしてきて泣いている私の肩を抱いた。二人の男にガッチリ押さえられて身動きできなくなった。気持ちは嬉しいがこれではホールド状態だ。
息苦しさと男臭さを感じながら、私はあの少女のことも話した。
「……彼女はおそらく神と呼ばれる存在です。彼女と対話したおかげで私は過去に戻ってこられたんです」
「マジかよ……そんな。神なんていきなり言われてもさ……」
聞き終わったルパートはまだ疑っていた。エリアスは私を信じようとしてくれているが、自分で体験した訳ではない奇想天外な話だ、彼もまた半信半疑の状態だろう。
どうしたらいいんだろう。どうしたら信じてもらえるんだろう。私一人でやれることなどたかが知れている。信頼できて強い人の協力が絶対に必要なのに。
「俺の手助けが必要か? 小娘」
途方に暮れていた私の頭上から偉そうな声が降ってきた。何だ? 三人全員で空を見上げた。
「アルクナイト!!」
いち早く視認したエリアスが叫んで立ち上がった。太陽がまぶしかったが私とルパートも確認できた。
「魔……王」
銀髪の少年が空中に浮いて私達を見下ろしていた。うわぁあの人、いつから居たの?
「え、ええ? 誰? 人間が空に浮かんでんぞ。強力な風魔法か?」
混乱するルパートに私が説明した。
「彼はアルクナイト。エリアスさんの幼馴染みで、三百年前に世界を混乱させた魔王です」
「はぁ!? 魔王!? 噓吐け! でも野郎、とんでもない魔力の持ち主だ……」
空中のアルクナイトは余裕の笑みで腕組みをしていた。彼を睨みながらエリアスも肯定した。
「ロックウィーナの言う通りだ。アイツは父が管理する領地の隣に棲む、正真正銘の魔王で我がモルガナン家の宿敵だ」
「えええ……」
アルクナイトの魔力に威圧されたルパートは現実を受け入れた。
「確かにスゲェ存在のようだ。ウィー、何で魔王のことを知ってたんだ?」
「彼とも会ったんです。未来で」
あ、魔王の話をすれば結婚式のことを引き合いに出さなくても済んだのか。うっかり。
アルクナイトのことは今の今まで忘れていた。と言うより忘れていたかった。だって尻文字でメッセージを送ってくる変態なんて私の人生に不要だから。
「おい小娘、失礼なことを考えているだろう?」
空飛ぶ変態に指摘された。危ない、表情に出ていたか。
「アルクナイト、私の婚約者を怯えさせるな!」
「俺はおまえに怯えそうだ、エリー。強引な性格はいくつになっても直らんな。小娘はおまえとの婚姻をまだ承諾していないだろうが」
「な、何故それを知っている!?」
「見ていたから」
「…………は?」
「気配を消して、ずっとおまえを見ていたから、エリー」
ぞわり。背筋を冷たいものが走った。きっとエリアスは全身に鳥肌を立てている。そうだ、魔王はエリアスのストーカーだったよ。
「人間とは前後左右に注意を払うくせに、上空に誰か居るとは考えない迂闊な生き物だ」
空に鳥以外の誰かが居るとは普通考えないからね。気配を察知するルパートの風魔法は、アルクナイトのバリアに無効化されちゃうんだったっけ。
「……なるほど、今日の私の行動は貴様に筒抜けだった訳か」
悔しそうに顔を歪めたエリアスへ、アルクナイトは高圧的な笑みでキツイことを言った。
「いや? 昨日も見ていたぞ。おまえデカイ図体してそこの小娘に背負われていたな? ぷっ」
エリアスは無言で背中の大剣を抜いた。