第13話 狼を裁くな!
文字数 1,105文字
メシヤに注目が集まったのは、ウルフ賞にたびたびノミネートされ、公式にではないがいくつも賞を獲得しているからである。年少なのと、その研究内容のため、本人にもその事実を知らされていない。ただ、暮らすのに不自由しない小遣いが、なんらかのルートで届く手はずになっている。ウルフ賞の賞金はざっと10万ドル。それをいくつも授与されているのであるから、少なすぎるといっても過言ではない。
「世界中にマークされても致し方ありませんわ」
レマがエンターを弾いた。
「本人はのほほんとしてるけどネ」
屈強なガーディアンに護られていることを、彼はどの程度知っているのだろうか。
「研究というといまのトレンドを追ってしまいがちですが、メシヤさまは忘れ去られた過去のテーマを掘り起こしている傾向がありますわ」
ビジネスにも言えるだろう。いまボールがあるところに群がっていてはいけない。ボールが来そうなところにポジションを移すのだ。
「歌病だから自然とそうなるヨ。人と同じが嫌いなんて次元じゃないネ」
エリとメシヤの不思議ちゃん対決を見てみたい。
「本当に不思議なお方ですわ。普通一人の人間の興味のある事なんて範囲が限られているものですが、ここまで多分野に深掘りする方はかつて存在したでしょうか」
専門家がその分野しかこなせなくなっている現状は、好ましいといえない。
「学校の進路を迷う生徒の気持ちが分かるネ。ほんとは色んなことをやりたいのニ、いまの制度だと道が限定されちゃウ」
大谷はその突破口を開いてくれた。
「可能性を狭めてしまいますわ。このままではつぶしの利かない人間をたくさん生み出してしまいます」
身に覚えのある人は、余計なことをするな!と怒られた経験があるだろう。
「北伊勢高校はそんなことないヨ。メシヤのお膝元ってのもあるけド。他地域のカリキュラムを見てるト、登校拒否が増えるのも分かるかナ」
いましていることが身に沁みて学べるようにならないと、効果は望めない。学校教育であるからして、教え手の力量が大きく左右する。理系科目だろうと文系科目だろうと、覚えておいて無駄なことなど一つも無い。
「ウルフ賞の賞金が北伊勢エリアの発展に使われていることも、メシヤさまに教えたくて教えたくて喉から出掛かっていますわ」
そういう裏の取り決めが交わされている。
「どうだろうネ? あれでメシヤも知らんふりをすることがあるかラ」
エリはメシヤのそういうところが好きである。
腕時計型の端末が、警報を告げた。
「お姉さま、行きますわよ!」
「おウ!」