第19話 遺題継承

文字数 971文字

「どうしても解けない・・・」
 あのニカルがモニターの前でうんうん唸っている。

「お前でも解けない問題があるのか」
 画面を覗くと、頭がくらくらしそうな記号が並んでいた。

「あ、神籬(ひもろぎ)さん。遺題といってもまだ存命の方なんですよね。さっさと解いてわたしも問題を出したいところなのですが」
 俺みたいな直感型とは、頭の構造が違う。

「これは純粋な数学の問題じゃ無いな」
 即、社会に役立てようとする意志がうかがえる。

「これはモーニントンさんって方の出題なのですが、いくつかある問題の内、解答を明示している人もいて・・・。なんといいますか、わたしとは発想が違うのです」
 解ける問題だけやる人間と、不可能だと言われても挑戦する人間と、どちらが魅力的だろうか。

「なんてやつだ?」
「ええと、ハマグリQ太郎っていうちょっとふざけた名前の人です」
 ああ・・・、あいつか。

「とっつきやすい話もありますよ。SNSでの心理戦がテーマです。現実社会でのリアルの実像と、ネット世界で繰り広げられる印象とが見事に違うわけですが、わたしたちが取るべき最善の行動とはなにか? という雑談レベルのものまであります」

「チャットGPTにAI動画加工。我々はすでに人でないものと対話している。偽情報に踊らされている可能性もあるわけだよな」

「はい。ごくまっとうな意見を言ったり明らかにおかしな事柄に対して疑問を呈したりすると、わらわらと批判コメントが集まってきます。実際足を運ばずとも世論誘導できるので、お手軽ですよね」

「よくあるのが、『いつの時代だ』とか、『いまどきそんな古くさい』って嘲笑だな」
 昔からある制度は、長年の叡智が詰まっている。いろんなことを試したが結局これがベストだよね、というシステムが生き残り、社会を安定させる。なんでもありにして、社会が混乱しても、その推進者は責任を取らない。

「オンとオフを使い分けると言いますが、今は常にオンの状態ですよね。オフのあいだにその人独自のプライベートな体験が必要だと思います。わたしはアップルもAndroidも使いません。人の行動をトレースされるなんて吐き気がします」
 kanon_OSの作成者だけのことはある。

「AI自体は優れたシロモノですが、悪意を持った人間が使うと途端に凶器に変わります」
「対抗策か・・・」

「人間の気まぐれに従うことですね」



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登場人物紹介

奇特人間大賞・藤原メシヤ。

彼の元には、いつもハチャメチャが押し寄せてくる。

お転婆娘・安倍マリア。

ギャルであり、敬虔なシスター。

メシヤを止められるのは、マリアだけ。

江戸時代から脈々と続く、大手ゼネコンの御曹司、十九川イエス。

メシヤにとって無くてはならない、心の友。

イスラエルからの留学生・裁紅谷エリ(姉)。小柄だがフィジカルお化け。最初は身分を隠していたが・・・

同・裁紅谷レマ(妹)。エリは双子の姉。落ち着いているように見えるが、9マイル先のターゲットを錆びついたマシンガンで撃ち抜ける。

【東洋】あずまひろし。北伊勢市内のパチンコ店・エンペラーにて勤務。ろくに学校も出ていないが、父親のスパルタ教育により、体だけは頑丈。後輩・キョン子に、なぜかなつかれている。

【西本願寺京子】京都の名門・西本願寺家の長女。学年的にはメシヤたちと同じである。躾の厳しい実家を飛び出し、北伊勢市内のパチンコ店・エンペラーで勤務する。職場の先輩、東洋《あずまひろし》に、キョン子と呼ばれる。どうやらヒロシのことは以前から知っているようだが・・・。

【科納ニカル】かのにかる。科納エレクトロニクスの令嬢。子供向け番組『コンピューター・ニカルちゃん』で一世を風靡。ロンドンインペリアルカレッジを首席で卒業後は、神籬探偵事務所で助手を務めている。

【奈保レオン】なぽれおん。年齢、星籍不詳。メシヤと同じ1年G組に席を並べる。数学、歴史が得意。破天荒(誤用ではない)なメシヤの、良き理解者。

【ジェニー・オブライエン】人類史上最高峰の知性と評される宇宙物理学者。メシヤと日本贔屓。頭脳労働者のためか、結構な大食漢。研究所は大西洋の孤島だが、北伊勢市内にもよく出没する。

【必勝ミドル】ひちかたみどる。雲水翁の内弟子。凡庸な12歳であったが、五大所山の修行でメキメキと腕を上げる。先手必勝をモットーとする。

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