第62話 油3乗

文字数 904文字

「メシヤの料理っテ、相変わらず濃い味だよネ。それがまた美味しいんだけド」

 腹空かせた夜は一人で心で
 謝ってたさ背中を向けたままで
 
「塩っ気に油分に、ヘルシー路線とは真逆よね」
 美味しくないものを健康だからといって嫌々食べて、その先に何があるのか。

「低糖質・低脂質志向は、ウェイトトレーニングが隆盛になって、ますます拍車が掛かったよね」
 いくら筋骨隆々になっても、食の楽しみが無くなるのは御免こうむる。

「プロテイン代もバカにならんぞ。いくら美味くなったとはいえ、タンパク質の摂りすぎはそれはそれで問題がある」
 内臓の変化は、筋肉で隠されている。

「油は人間に欠かせませんからね。車と同じですわ」
 油注がれし者・メシヤが油好きであるのは、むべなるかな。

「研究データも大事だけど、直感を信じてもらいたいわね。からだに良い食べ物って、口にした瞬間に美味しいし、全身に染み渡るものなのよ」
 マリアの肌の透明さが、その説を裏付けている。

「脂ぎったおじさんは嫌だけド、太るのは運動量が足りないんだヨ」
 肌がシャワーの水をはじくと若さの象徴のように言われるが、脂ぎったおじさんも水をはじきそうだ。

「昔に比べたら食べ物が欧米化したってのもあるが、食べ物も贅沢になって身体も動かさないんじゃ肥え太って当然だ」
 余暇にお金を費やしてキャンプや山登りをするくらいなら、普段から土と水に親しむ日常生活を送ってみてはどうか。

「『文明の利器を使って時間をお金で買うんだ』ってしたり顔した評論家が言ってたりするけど、細かく見てくとそうした行動もすごく無駄が詰まってるんだよね」
 要らないモノがどんどん増える。実作業が何もこなせないまま年を重ねていくと、出来ないことはやらなくていいと、屁理屈をこねるだけの大人になりかねない。金はどんどん出て行く一方だ。

「無理なダイエットをされる方も増えていて心配ですわ。そうしたことはさまざまな症状を引き起こしますから」
 食事の減量だけで理想の身体を得ようとすること自体、土台無理がある。あと、食べるのを我慢しすぎると、どうしても気分が(ふさ)ぎがちになる。


 もう食えば良い。振り向かないで
 痩せゆく君に油・油・油




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登場人物紹介

奇特人間大賞・藤原メシヤ。

彼の元には、いつもハチャメチャが押し寄せてくる。

お転婆娘・安倍マリア。

ギャルであり、敬虔なシスター。

メシヤを止められるのは、マリアだけ。

江戸時代から脈々と続く、大手ゼネコンの御曹司、十九川イエス。

メシヤにとって無くてはならない、心の友。

イスラエルからの留学生・裁紅谷エリ(姉)。小柄だがフィジカルお化け。最初は身分を隠していたが・・・

同・裁紅谷レマ(妹)。エリは双子の姉。落ち着いているように見えるが、9マイル先のターゲットを錆びついたマシンガンで撃ち抜ける。

【東洋】あずまひろし。北伊勢市内のパチンコ店・エンペラーにて勤務。ろくに学校も出ていないが、父親のスパルタ教育により、体だけは頑丈。後輩・キョン子に、なぜかなつかれている。

【西本願寺京子】京都の名門・西本願寺家の長女。学年的にはメシヤたちと同じである。躾の厳しい実家を飛び出し、北伊勢市内のパチンコ店・エンペラーで勤務する。職場の先輩、東洋《あずまひろし》に、キョン子と呼ばれる。どうやらヒロシのことは以前から知っているようだが・・・。

【科納ニカル】かのにかる。科納エレクトロニクスの令嬢。子供向け番組『コンピューター・ニカルちゃん』で一世を風靡。ロンドンインペリアルカレッジを首席で卒業後は、神籬探偵事務所で助手を務めている。

【奈保レオン】なぽれおん。年齢、星籍不詳。メシヤと同じ1年G組に席を並べる。数学、歴史が得意。破天荒(誤用ではない)なメシヤの、良き理解者。

【ジェニー・オブライエン】人類史上最高峰の知性と評される宇宙物理学者。メシヤと日本贔屓。頭脳労働者のためか、結構な大食漢。研究所は大西洋の孤島だが、北伊勢市内にもよく出没する。

【必勝ミドル】ひちかたみどる。雲水翁の内弟子。凡庸な12歳であったが、五大所山の修行でメキメキと腕を上げる。先手必勝をモットーとする。

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