第57話 特撮映画
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京都出身のくせに、やたら北伊勢の歴史に詳しいな。
「俺も映画は好きなほうだが、最近は見る数が減ったなあ」
休憩室にはVHSのデッキがある。
「ボクはCGやVFXの作品で育った世代ですけど、SFXのほうが好きなんスよ」
特撮は命懸けだったから役者の演技も真に迫っていたが、グリーンバックで役に入り切れというのも無理な注文だな。
「これな。映像美は確かにVFXに軍配が上がるんだろうが、そんな次元を超えた迫力が昭和の特撮からは伝わってくるんだよな」
実際に戦艦やら巨大ロボットやらを用意したら、莫大な金が掛かるのは分かるのだが。
「アクションスターって言葉も聞かなくなりましたよね」
いまだに名前の挙がってくるアクション俳優は、とうに50・60を過ぎていたりする。
「俺はケインが好きなんだが、出演数も減ってるんだよな」
アクションスターの生まれにくい土壌が形成されつつある。
「意外と思われるかも知れませんが、ボクは石原軍団が好きなんスよ」
西部警察PARTⅡの第37話において、ナガシマスパーランド園内をカーチェイスした挙げ句、火だるまになった330型セドリックが池へダイブしたのは、語り草である。
「先輩も趣味でビデオを回すんですよね?」
よく見てるなこいつは。
「古いシロモノだが、これはこれで案外便利なんだぜ」
時代劇と高画質は、どうも相性が悪い。
「なんかボクたちって全然仕事してないッスよね」
そういう設定なんだよ。
「ちょっと撮ってみるか。外へ出るぞ」
「加トちゃんケンちゃんごきげんテレビを思い出しますね」
どうせ再放送でも見たんだろう。時代が違いすぎる。
「ダンスなら得意ッスよ」
お~お~。大したもんだが、これじゃショート動画と変わらねーな。
「交代しようぜ」
あんまりこいつを撮ってると、周囲に誤解されそうだ。
「うわっ、先輩その動き、すぐ映画に出れますよ!」
ジャッキー映画の真似は、少年なら誰でもしたもんだ。
ペデストリアンデッキから飛んで飛んで、回って回って着地した。
「いますぐ再生しましょう!」
VHSデッキでアクションを確認する。キョン子も俺もなかなかサマになってるな。
最初ははしゃいでいたキョン子が、急に静かになった。
「お前、どうしたんだ? 固まってるぞ」
画面に目を移す。
「ん? まさか・・・」
(親父!?)
つづく