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文字数 1,119文字
次の日、弁天様の前を通り掛かると、鳥居の横に立札があった。
そこには「求ム! 勇者! 勇者募集中。我こそはと思われる方は弁財天社務所まで。男女問いません。薄謝あり」という張り紙が貼ってあった。
僕は3回それを読み返した。そして首を傾げた。何の冗談かと思った。
数日後、僕と道子は下校途中で弁天様の前の道を歩いていた。立札は相変わらずそこにあった。
僕達二人は立ち止って張り紙を見る。
「何なの?この勇者募集中って」
道子が言った。
「さあ?」
僕は首を傾げる。
「だれか、応募したのかな?」
僕は言った。
「さあ?」
今度は道子が首を傾げる。
二人で石段を見上げる。
と、おばあさんが上の方で手すりに捕まってよたよたと石段を下りて来るのが見えた。
大きな荷物を持っていた。
「あのおばあちゃん、危なくないか?」
僕は言った。
「階段を落ちそうだね」
道子が言う。
と、おばあさんがずるっと滑った。
「アブナイ!!」
僕と道子は思わず叫んだ。
おばあちゃんは咄嗟に手すりにしがみ付いた。
僕達はほっとする。
前から小さな柴犬を連れたおじいさんが歩いて来た。
僕達の所で立ち止って階段を見上げる。
柴犬はまん丸の目で僕達を見詰めた。
「可愛い!!おじさん。触ってもいいですか?」
おじいさんは頷いた。そして僕達に言った。
「あれ、ちょっと危ないな。あのばあさん」
僕はランドセルを道子に渡すと「僕、ちょっと行って来るから」と言って階段を駆け上がった。道子はランドセルを前後に掛けながら「気を付けてね」と言った。
僕は「おばあさん。大丈夫ですか?」と言って体を支えた。
おばあさんは僕を見た。そして「有難う。お兄ちゃん」と言った。
「荷物が重そうだから僕が持ちます」
僕は荷物に手を掛けた。
「大丈夫かい?重いよ」
おばあさんはそう言って持っていた荷物を下ろした。
僕はそれを肩に担いだ。余りに重かったのでびっくりした。
僕はおばあさんの腕を掴んで、「そっちの手は手摺を離さないでください」と言った。
おばあさんは頷いて「有難う。優しい子だね」と言った。
僕達は一段一段ゆっくりと降りた。
7段降りた所でおばあさんが立ち止って僕の顔を見た。
じっと見詰める。
「?」
「勇者と言うには、ちと頼りないが仕方あるまい。もう時間が迫っている」
「ん? 時間? 何ですか? 時間って」
僕は言った。
「坊や。いいかい? 私にぎゅっと捕まるんだ。体に力を入れて」
「えっ?」
「跳ぶよ」
おばあさんは言った。
「ええ!?」
おばあさんは手すりを離すと僕を抱えて石段をとんと飛んだ。
「うわああああ!!」
悲鳴を上げて階段を跳ぶ僕の目におじいさんと柴犬と道子の恐怖に引き攣った顔が見えた。
そこには「求ム! 勇者! 勇者募集中。我こそはと思われる方は弁財天社務所まで。男女問いません。薄謝あり」という張り紙が貼ってあった。
僕は3回それを読み返した。そして首を傾げた。何の冗談かと思った。
数日後、僕と道子は下校途中で弁天様の前の道を歩いていた。立札は相変わらずそこにあった。
僕達二人は立ち止って張り紙を見る。
「何なの?この勇者募集中って」
道子が言った。
「さあ?」
僕は首を傾げる。
「だれか、応募したのかな?」
僕は言った。
「さあ?」
今度は道子が首を傾げる。
二人で石段を見上げる。
と、おばあさんが上の方で手すりに捕まってよたよたと石段を下りて来るのが見えた。
大きな荷物を持っていた。
「あのおばあちゃん、危なくないか?」
僕は言った。
「階段を落ちそうだね」
道子が言う。
と、おばあさんがずるっと滑った。
「アブナイ!!」
僕と道子は思わず叫んだ。
おばあちゃんは咄嗟に手すりにしがみ付いた。
僕達はほっとする。
前から小さな柴犬を連れたおじいさんが歩いて来た。
僕達の所で立ち止って階段を見上げる。
柴犬はまん丸の目で僕達を見詰めた。
「可愛い!!おじさん。触ってもいいですか?」
おじいさんは頷いた。そして僕達に言った。
「あれ、ちょっと危ないな。あのばあさん」
僕はランドセルを道子に渡すと「僕、ちょっと行って来るから」と言って階段を駆け上がった。道子はランドセルを前後に掛けながら「気を付けてね」と言った。
僕は「おばあさん。大丈夫ですか?」と言って体を支えた。
おばあさんは僕を見た。そして「有難う。お兄ちゃん」と言った。
「荷物が重そうだから僕が持ちます」
僕は荷物に手を掛けた。
「大丈夫かい?重いよ」
おばあさんはそう言って持っていた荷物を下ろした。
僕はそれを肩に担いだ。余りに重かったのでびっくりした。
僕はおばあさんの腕を掴んで、「そっちの手は手摺を離さないでください」と言った。
おばあさんは頷いて「有難う。優しい子だね」と言った。
僕達は一段一段ゆっくりと降りた。
7段降りた所でおばあさんが立ち止って僕の顔を見た。
じっと見詰める。
「?」
「勇者と言うには、ちと頼りないが仕方あるまい。もう時間が迫っている」
「ん? 時間? 何ですか? 時間って」
僕は言った。
「坊や。いいかい? 私にぎゅっと捕まるんだ。体に力を入れて」
「えっ?」
「跳ぶよ」
おばあさんは言った。
「ええ!?」
おばあさんは手すりを離すと僕を抱えて石段をとんと飛んだ。
「うわああああ!!」
悲鳴を上げて階段を跳ぶ僕の目におじいさんと柴犬と道子の恐怖に引き攣った顔が見えた。